2024年5月15日・16日、「SusHi Tech Tokyo 2024 Global StartupProgram」が東京ビッグサイトで開催された。これは東京都が主催する“未来の都市像を体感できる”大型プロジェクト「SusHi Tech Tokyo 2024」の一環で、江東区では”2050年の東京”を感じられるショーケースプログラムも実施されていた。

東京都主催の一大イベントとあり、2日間の来場者は現地・オンラインを併せて4万人以上となり、世界各国の400以上のスタートアップが集結した。

本記事では、会場で出会った各国のスタートアップや優勝者に1,000万円の賞金が提供されたピッチコンテスト「SusHi Tech Challenge 2024」の様子を前後編で紹介したい。

SusHi Tech Tokyo 2024 Global StartupProgram

オブジェに提灯、レーザーと“派手な演出”でお出迎え

各方面から期待されていた本イベント。初日の会場は多くの来場者であふれ、にぎやかな空間が広がっていた。

入口付近には記念撮影にぴったりのオブジェが(筆者撮影)

屋台では、サステナブルなコーヒーとしてカフェの運営やコーヒーの販売をしているGOOD COFFEE FARMSが出展。同社は水、燃料、電気を使わない自転車式脱穀機を自社開発し、環境にやさしく、コーヒー農家に金銭的負担が少ないソリューションを提供している。

祭りの屋台のようなセットも、多くの人の目を引いていた(筆者撮影)

通常、コーヒー豆を生豆の状態にする「精製」の工程は、水を大量に使う「水洗式」と電気などで動く脱穀機を使う「非水洗式」の2種類となる。従来の精製とは異なるユニークな方法で、環境負荷を抑えたコーヒーの提供を実現しているのだ。

コーヒー大国・グアテマラ出身の起業家が創業したGOOD COFFEE FARMS(筆者撮影)

セットやステージは派手さが目立ち、ところどころに近未来の雰囲気が感じられた。デンマークの「TechBBQ」やフィンランドの「Slush」など、筆者が過去に参加してきた海外のスタートアップイベントを思い起こさせる空間だった。

ライトで彩られたステージ(筆者撮影)

世界各国の注目スタートアップ・イノベーション

会場には所狭しとブースが並べられ、2日間で4時間ほど回っても時間が足りないほどだった。筆者が見つけた世界各国の注目スタートアップやイノベーションをお伝えしたい。

【米国/butlr】熱で人間を感知するセンサー

butlrは、プライバシーを損わず、匿名で人間の存在と活動を検出する世界初(同社調べ)の熱ワイヤレス占有センサー「Heatic」を提供している。マグネット式で接着が容易な小型デバイスで、人の存在検出、交通分析、人数カウントなどに役立つ。

例えば、オフィスやビル内の利用状況把握、店舗内の人流解析などに使われており、AIの分析結果をプラットフォームで確認することもできる。効率的なオフィスや店舗レイアウトの設計、不必要なエネルギーの削減などに効果的だ。

クライアントは48カ国、160社以上に及び、UberやWalmartなどの大手も導入。日本ではTOTOや阪急阪神不動産、NTTなどでの導入実績があると担当者は話した。

天井などに簡単にセットでき、匿名性を維持しながら人の動きを熱で検出できる(筆者撮影)

【米国/illumicell】98%の精度で50倍早く男性不妊検査が可能に

illumicellは高度なAIと宇宙技術を融合させ、効率的な男性不妊検査を提供する。同社によれば、男性不妊検査は時代遅れのプロセスにより、「時間がかかる」「25%ほどの誤差がある」「医師に高度な技術が求められる」といった課題があるという。

男性不妊検査を効率的にするスキャナーやSaaSなどを提供(illumicellのプレゼンテーションスライドより)

そこで、98%の精度で即時に精子の濃度や運動率を導き出すスキャナーを開発。専用のSaaSも提供している。医療提供者向けのBtoBサービスだが、その先にいる人々にも革命をもたらすソリューションといえる。

98%の精度で素早く検査結果を提示(左は精子の濃度、右は運動率)(illumicellのプレゼンテーションスライドより)

参照:illumicell社のスライド資料

【イスラエル/Forsea Foods】培養うなぎを開発

イスラエルからは、驚きの技術を持つフードテックスタートアップが出展。同社は天然うなぎを絶滅の危機から救うため、培養うなぎの開発に着手、2024年1月に試作品を初公開したばかりだ。

現在、事業展開へのステップとして東京のヴィーガンレストラン「菜道(さいどう)」とのコラボレーションを実施中。菜道の楠本勝三シェフと共同制作で、うなぎの蒲焼とうなぎのにぎり寿司を開発している。菜道のインスタグラムによれば、6月1日〜提供するお寿司のコースで「うなぎのにぎり寿司」が提供されるようだ。

Forsea Foodsが開発した「培養うなぎ」は、日本のヴィーガンレストランとコラボしている(Forsea Foodsのプレスリリースより)

【台湾/GliaStudio】Web記事から動画を自動作成

GliaStudioが提供するのは、新たな発想の動画自動生成プラットフォーム。Web上で公開されたテキスト記事のURLから、テキストの内容に沿った動画を自動で生成、映像とテキストが組み合わさった動画が完成するという。レイアウトを変える、音楽を付けるなどの編集も柔軟に行うことができる。

記事のURLから、内容に沿った動画を自動的に生成する(GliaStudioの公式ホームページより)

【フィンランド/TactoTek】エコロジーな外観をつくる成形技術

特許取得済みのTactoTekは、自動車や航空機、家具や家電などの外観をエコロジーに変える成形技術を提供する。

同社のホームページには、「表面、構造、機能を1つの射出成形3D設計に統合し、従来の電子機器よりも組み立てや統合の課題を軽減する」と説明があり、従来の電子機器の製造方法と比較して、最大で温室効果ガスを60%減、プラスチック使用量を70%減、質量を70%軽量化できるという。

環境負荷を抑える成形技術を持つTactoTekのサンプル(筆者撮影)

【スイス/MIROS】オフィスを効率的に使えるデスク

日本国内では人口減が問題となっているが、世界に目を向けると2050年に97億人に増加する見通しだ。人口過密都市のオフィスへ向けたソリューションとしてMIROSが提供するのが、オフィススペースを45%最適化する折りたたみ式デスク「EvoWall」。

オフィスレイアウトを柔軟に変更できるデスク製品。写真は会議室の状態(MIROSの公式ホームページより)

未使用時は折りたたんでフラットな状態に、使用時は引き出すとデスクになる。また、未使用時は天井部に収納し、使用時は上から降りてくるタイプのデスクも。用途に応じてスペースを柔軟に使い分けたい企業には役立ちそうだ。

同じ空間が個人デスクに早変わりする(MIROSの公式ホームページより)

【日本/ミルオト<AISIN・早稲田大学・Hogaku>】競技の雰囲気や音を見える化

日本企業と大学が協業して開発している「ミルオト」は、競技の雰囲気や応援のエネルギーを擬音にして表示させることが可能なシステムだ。これまであまり重視されてこなかったスポーツの試合におけるビジュアル的な要素を提供し、難聴や聴覚障害がある人の補助にもなる。

AISINは音声認識技術の開発を、早稲田大学は物体・人物認識による視覚(カメラ)にまつわる技術、盛り上がりを増大させる表示インターフェース技術研究を担当。そして、社内の半数以上が聴覚障害者のデザイン会社・Hogakuは、視覚障害の当事者の立場で同システムに携わる。

競技の雰囲気や応援のエネルギーを擬音にして表示させる「ミルオト」(筆者撮影)

後編では、世界43カ国・地域の507社から選ばれた7社が登壇したピッチコンテスト「SusHi Tech Challenge 2024」の様子を紹介する。審査員も驚いていたほどレベルが高いスタートアップばかりで、観衆は熱いピッチに見入っていた。ぜひ、後編もチェックしてみてほしい。

筆者が過去に参加したスタートアップイベントや大型の展示会と比較して、ユニークな出展企業が多い印象だった(筆者撮影)

取材・文:小林香織
編集:岡徳之(Livit