INDEX
米半導体大手のNVIDIA(エヌビディア)が好調だ。2024年第4四半期(2024年1月31日終了)の売上高が221億ドルを叩き出し、同社初の「200億ドル超え」をマークした。前年同期比で265%増と1年で2倍以上伸長し、半導体世界トップの強さを見せつけた。
2024年第4四半期の売上が過去最高の221億ドル
ウォール街のアナリストらは当初、同社の売上高を206億2,000万ドルと予測していたが、結果はそれを大きく上回った。株価も同様で、GAAPベースの希薄化後1株あたりの利益は4.93ドルと前年同期比765%以上の増加。非GAAPベースの希薄化後1株あたりの利益は11.93ドルと、前年比586%の増加だった。
部門別に見ると、最も売上が高いのがデータセンターで184億ドル(前年同期比409%増)。ゲームセクターは29億ドル(前年同期比56%増)、自動運転などの自動車セクターは2億8,100万ドル(前年同期比4%減)であった。
同社のジェンスン・フアンCEOは「アクセラレーションコンピューティングと生成AIは転換点に立っています。GPUの需要は企業、業界、国家の枠を超え、世界中で高まっているのです」と声明を発表している。
「GPU=ゲーミングPC」の時代ではない
GPUというと、当初はゲームや映像編集など高速画像処理を要するコンピューターグラフィックの分野で需要が高まった。実際「NVIDIA GeForce RTXシリーズ」はゲーミングPCの世界ではもはや定番ともいえる存在で、世界で1億人のゲーマーやクリエイターが使用しているという。
だが昨今の生成AI開発においても高性能GPUは不可欠で、性能が“頭ひとつ抜けている”NVIDIAのGPUは引っ張りだこの状態だ。
実際、AIのトレーニングに使用されているGPUの実に8割がNVIDIA製品であるという。現在Microsoft、Google、Apple、Metaなどのテック大手はこぞってAI開発にしのぎ削っているが、2023年1年間でMicrosoftとMetaはそれぞれ15万台、Google、Amazon、Oracleは5万台ずつNVIDIAのGPUを購入したそうだ。
NVIDIAの売上の8割以上を占めるデータセンターは、クラウドサービス、エンタープライズソフトウェア、データ処理、AIトレーニングや推論を含み、自動車や金融、ヘルスケアなど幅広い業界で利用が進んでいる。
IT業界で起きている「2つの移行」
フアン氏によると、現在、業界全体で「2つの移行」が始まっているという。
その1つは、従来の汎用コンピューティングからアクセラレーションコンピューティングへの移行だ。同氏は「GPUによって処理能力が根本的かつ劇的に向上するなら、CPUをアップデートする必要はない」と述べており、GPUを使うことで高速化とコスト削減の両方を叶えることができると自信を見せている。
もう1つは、生成AIだ。フアン氏によると、汎用コンピューターで使用することのできない「新しいアプリ」であり、生成AIによってまったく新しいコンピューティングが生まれるのだという。
同氏はこの2つのトレンドによって、「今後5年間で世界のデータセンターインフラの設置が2倍に増え、年間数千億ドルの市場機会が生まれる」と予測している。
ゲーム、自動車分野も好調
NVIDIAはデータセンター以外でも強さを見せている。
ゲームセクターでは小売りの在庫が正常化し、需要拡大に伴うパートナーへの売り込みも増加している。また、今年1月にリリースした「GeForce RTX 40 SUPER シリーズ GPU ファミリー」も、第4四半期の売上に貢献している。
AIによる自動運転開発においても存在感を示している。車両向けGPUの「NVIDIA Drive Orin」は収益好調で、1月初旬、GWM、ZEEKR、Xiaomiといった中国の自動車メーカーがDrive Orinを搭載したAI自動運転車の開発を発表している。
今後は人型ロボットや量子コンピュータの開発支援も
2024年3月18日、NVIDIAの年次カンファレンス「GTC2024」が米サンノゼで開かれた。300社以上の企業による最新テクノロジーの展示が行われ、Microsoft Research、Google DeepMind、OpenAIなどAI関連企業の幹部が登壇するなか、最も注目を集めたのはフアン氏の基調講演だ。
フアン氏は講演で、AI用プラットフォーム「Blackwell」を発表。これによりコストおよびエネルギー消費が従来の25分の1に抑えられ、兆パラメータの大規模言語モデルによってリアルタイム生成AIの構築・実行が可能になると述べた。
また、同プラットフォームには新GPU「B200」が使用され、これは現行の「H100」と比べて約5倍の処理能力を持つという。
Blackwellプラットフォーム製品は年内にも提供される予定で、すでにGoogle、Microsoft、Tesla、Metaなどテック大手の採用が見込まれている。
基調講演ではその他に、人型ロボット向け基盤モデル開発や量子コンピュータの開発支援なども発表された。
GPU開発は他社でも行われているが、NVIDIAを超える製品は今のところ皆無である。生成AI開発が加速する2024年、同社の売上は存在感とともにさらに伸びていくだろう。
文:矢羽野晶子
編集:岡徳之(Livit)