ソフトバンクの子会社で、位置情報を活用したビッグデータ事業を手がけるAgoopは、岩手県釜石市との「避難行動の在り方の検証を通じた防災まちづくりの推進に関する覚書」に基づく連携事項の一環として、釜石市地震・津波避難訓練において、人流データを用いた避難行動の把握に関する分析実証を実施したことを発表した。

災害時に孤立した地域や指定外避難所についての情報を、初期段階で行政や救援機関が収集・共有することは難しいとされている。

2021年12月に内閣府が公表した日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定では、地震や津波によって多くの避難者が孤立する可能性が示されたとのことだ。特に冬季の災害では、孤立した避難者の情報の迅速な収集と救援活動への早急な反映が、低体温症などの健康被害を未然に防ぐ上で極めて重要だという。

これらの課題に対処するため、同社は保有するリアルタイム人流可視化ソリューションの有効性を検証する目的で釜石市と協力し、市の地震・津波避難訓練を利用した実証実験を実施。

釜石市と同社は、同市の防災まちづくりを推進するため、災害時におけるスマートフォンの位置情報を基に適切な避難行動の検証を目的とした「避難行動の在り方の検証を通じた防災まちづくりの推進に関する覚書」を締結しているという。

同実験では、指定緊急避難場所や指定避難所、それら以外の地域への避難状況を、あらかじめ地域住民へ配布したスマホアプリ「アルコイン」を通して、位置情報の収集について同意を得たユーザーから収集した人流データを、リアルタイム人流可視化ソリューションで可視化し、災害対策本部に設置されたモニターに投影して分析。

災害対策本部には2台のモニターを設置し、2種類の可視化を実施。

・リアルタイム分析
位置情報の収集について同意を得たユーザーから収集した人流データを地図画面上に表示し、どの方向へ、どれくらいの速さで移動しているかを確認できる仕組み。最大津波浸水エリアや指定避難所の情報を重ねて可視化することができ、避難者の行動を把握・分析できる機能。

・避難所検知
位置情報の収集について同意を得たユーザーから収集した人流データを分析し、指定された避難所の稼働状況や市が把握していない自主避難場所を自動検知して可視化する技術。人流の集合度合いからランキング表示も可能で、支援関係者の各避難所への訪問の優先順位付けなどにも活用可能な機能。

左からリアルタイム分析、避難所検知

■結果

・リアルタイム分析
鵜住居エリア/唐丹エリア/釜石市役所周辺エリア/八雲神社周辺エリアの4カ所を対象に同時モニタリングを行い、午前8時33分に発令された避難警報後の避難行動をリアルタイムに可視化することに成功。同システムは毎分情報を自動更新する機能を備えているという。

実証実験当日のモニタリング状況の動画はこちら

・避難所検知
避難警報発令後、八雲神社境内や小佐野コミュニティ会館、鵜住居小学校・釜石東中学校、釜石小学校校庭などの指定避難所での稼動が順次検知。検知された避難所は赤い円で表示され、人流量が多い場所ほど円の色が濃い赤に変わる仕様となっているという。

避難所検知画面

■今後の展開

同実験において、リアルタイムの人流可視化技術を用いることにより、避難行動を即座に可視化し、検証することが可能であることが実証されたとのことだ。

この技術は避難訓練や防災計画の策定など、日常時における活用のほか、緊急時においても迅速な分析を可能にする環境を構築し、防災DXを推進することを目的としているという。

同技術は、能登半島地震の発生時においても、初動部隊の現地入りルートの検討や被災自治体の災害対策本部における孤立地域ならびに自主避難場所の現状把握や情報共有に加えて、各避難所への訪問の優先順位付けなどの具体的な救援活動に活用されたとのことだ。

■概要

内容
避難訓練の実施時に、同社が事前に配布したスマホアプリ「アルコイン」から収集した人流データを用いて、避難状況に関する迅速な情報収集・共有支援技術を実証。

実証日時:3月3日8:30~

実証場所:岩手県釜石市対象訓練:釜石市地震・津波避難訓練