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地球規模のサステナビリティを実現するためには、パートナーシップの力が欠かせない。SDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」に見られるように、課題に直面する地域の人々、ソリューションを提供する事業者、専門家や投資家、政府や国際機関など、多様な関係者の連携が達成されることで、複雑な問題の解決策は導かれていく。
そうした時代の中で、グローバルおよびローカルのパートナーネットワークを駆使し、多岐にわたる領域でサステナビリティ事業を推進しているのがNTTグループだ。同グループでは2013年度以降、「NTTグループ サステナビリティカンファレンス」を毎年開催(※)。各社の優れた取り組みを表彰し、ノウハウを共有することで、全従業員がサステナビリティ経営を自分ごととして捉えるだけでなく、ステークホルダーと共に持続可能社会の実現に向けた共創の場を提供している。
今回AMPでは昨年に開催された表彰式から、最優秀賞に入選した6件の事例を紹介する。高度な通信・テクノロジー基盤を持つNTTグループでは、どのような施策が進められているのか、その最新動向を探っていく。
※2020年度までは「NTTグループ CSRカンファレンス」として開催。
100を超えるサステナビリティ施策から、優秀な事例を選出
「NTTグループ サステナビリティカンファレンス表彰式」は、国内外に広がるNTTグループ各社の、持続可能な社会に貢献する施策を紹介・共有する場だ。10回目となる今回は、全113件の施策がエントリー。審査プロセスを経た最優秀賞6件、優秀賞6件が表彰された。
表彰式には持株会社の日本電信電話(以下、NTT)から島田明代表取締役社長はじめ経営幹部、グループ主要各社から副社長などが列席。多くのメディアが訪れ、イベントの注目度の高さがうかがえる。先端技術を活用したユニークなアイデアのほか、国際的な社会課題へのアプローチまで、各プレゼンはビジネスパーソンに多くのヒントを与えてくれる。NTT 総務部門 サステナビリティ推進室 担当部長の北大宅勉氏によると、審査基準には五つの軸があるという。
「『社会への貢献(社会課題の解決に寄与していたか)』『ビジネスへの貢献(企業の成長に貢献しているか)』『コアバリューの活用(NTTグループ“だからこそ“できる施策であるか)』『ステークホルダーとの関係性(ステークホルダーのニーズに合った施策か)』『継続性(継続的に実施可能か)』という観点から、各施策を審査しています。
サステナビリティ施策の場合、これらは時に、相反する概念になり得ます。『自社の独自性にこだわると社会のニーズに合わない』『社会貢献のウエートを高め過ぎると企業が成長しない』『インパクトが強い施策は継続性がない』といったケースです。重要なのはこれらを同時実現する事業。そう考え、優秀賞、最優秀賞を選定しています」
二元論では捉えられない、相反することの同時実現は、NTTグループが考える持続可能な社会の基本理念「Self as We」でも掲げられている。「私たちとしての自身、あるいは、『われわれ』としての『自己』という概念」と定義される「Self as We」は、利他的共存の精神を起点としているのだ。
「電電公社を前身とするNTTグループは、設立時より事業を通じた社会貢献をミッションとしていた会社です。10年前のカンファレンス設立当時は“CSR” “慈善事業”の意味合いが強かったのですが、徐々に事業と連動した活動へとシフトしてきました。また、通信インフラを備える当社グループは、協業パートナーの力をバックアップすることでエンドユーザーに価値を届ける事業モデルを推進しています。生活者に直接ソリューションを提供するだけでなく、さまざまな領域の現場で課題に向き合う事業者、先端テクノロジーの実装に挑む事業者などをつなぐことで、社会をより良くしていく姿勢を大切にしているのです」
こうした背景から、サステナビリティカンファレンスの入選施策は、パートナーシップを特色としているものが多い。では具体的にどのような形でサステナビリティ推進が実現されているのだろうか。最優秀賞を受賞した、海外・国内六つの施策を見ていこう。
ドローンで命と雇用を支える。スタートアップ支援から生まれた医療サプライチェーン
最優秀賞一つ目の施策は、「ドローンを活用した医療用品サプライチェーンの構築~人命救助と雇用創出を実現するマラウイでの挑戦~」。ドローンを開発するドイツのスタートアップ企業・ウィングコプター社に対し、NTT DATA Business Solutions AG(ドイツ)がITの高度化をバックアップし、アフリカ・マラウイでの医療用品のサプライチェーン構築に貢献している取り組みだ。
マラウイでは、インフラの不備や洪水などの異常気象により、医療提供の困難な状況が深刻化している。セントラルハブから医療施設への物資配送は不可能でさえあった。調達プロセスのデジタル化も進んでおらず、手書きでオーダーブックに記入し、全施設センターが利用するWhatsAppグループに写真で送付する水準にとどまっており、医療ニーズに対応するためにはさらなる効率化を図らなければ、救える命が救えなくなる。
課題解決の可能性を秘めていたのが、航空宇宙企業であるウィングコプター社だった。同社の固定翼ドローン「Wingcopter」は、迅速かつ持続可能な物資配送を実現できる。しかしスタートアップである彼らにはリソースが足りない。基幹システムによる事業プロセスのデジタル化を進めるべく、ドイツのソフトウエア企業SAP SE社が提供する「SAP S/4 HANAクラウド」(※)の導入を、専門性とSAPとの密なパートナーシップを備えたNTT DATA Business Solutions AGが支援する運びとなった。
※SaaSで提供されている、クラウド版のERPシステム。企業経営における資産を可視化できる
NTT DATA Business Solutions AGは、スピーディーにSAP S/4 HANAを実装。ウィングコプター社のドローン製造プロセスのデジタル化を開始した。その過程において、同社のドローンサービスの成長に向け、堅牢かつ拡張性のあるプラットフォームが必要であることが明確化。事業拡大に向けた最初の仮説検証の場所として選ばれたのが、課題に直面するマラウイだったのだ。
構築された医療サプライチェーンにより、マラウイでは100種類以上の医療用品を現地に配送することが実現された。配達時間は従来の1日から約20分に短縮されることにより、呼吸用チューブによる救命や出産のような、緊急時の迅速な対応が可能になる。さらに、現地の若者をWingcopterのパイロットに育成することで、雇用機会の創出にも貢献。今後は食料配送も含めたサービスの展開を構想しているという。
そしてIT基盤の整備によりウィングコプター社が成長することは、未来の持続可能な社会の実現にもつながる。環境と社会に革新的な技術と持続可能性をもたらすことをめざすウィングコプター社は、ドローン配送サービスの規模拡大に向け、収益性の高いビジネスモデルにも注力しているからだ。現在はドローン配送のOEMからフルサービスプロバイダへの移行期にあるが、信頼できるパートナーとしてNTT DATA Business Solutions AGが技術・ビジネス両面からサポートすることで、今後の予期せぬ地球課題に対してもアプローチできるかもしれない。
リアルタイムで廃棄物を管理。AIによるリサイクルパークの効率化
二つ目の事例はNTT Ltd. Belgium(ベルギー)による「AIによるリサイクルパークUXの向上~コンテナの充填率リアルタイム検出を通じたスマートリサイクルソリューションの実現~」。AIを活用し、自動予測によりリサイクル容器の回収のタイミングを最適化する、ベルギーでの取り組みだ。
サステナビリティ意識の高いベルギーでは、住民はリサイクルパークに通い、資源ゴミを預けて再利用につなげる習慣が根付いている。しかしリサイクルパークのゴミ容器は満杯であることが多く、膨大なゴミを家に持ち帰るケースも少なくない。路上や山林に投棄されることもあり、矛盾をはらんだ状況にある。一方で、回収トラックは十分に満たされていないコンテナを回収することも多く、業者の非効率性も課題となっていた。
プロジェクトは、NTT Ltd. BelgiumのビジネスパートナーであるIT企業・Cisco社からの呼びかけで、ビジネスコンテスト「Cisco Innovation Challenge」に参加することから始まった。NTT Ltd. Belgiumは、クライアントに当たる廃棄物管理会社Intradelに対し、課題に対するソリューションを提案。3日間でSWOT分析や共感マップなど多様なツールを動員し、リサイクルパークにおける課題の発見、定義、モデルの設計、デモを実施した。その内容は、AIを搭載したスマートカメラを配置してコンテナのレベルを監視し、交換のタイミングを最適化することで、住民のフラストレーション、路上へのゴミ投棄、CO2排出量を削減するモデル。同ソリューションはコンペにおいて1位を獲得している。
プロジェクトにおいてNTT Ltd. Belgiumは、住民と回収業者へのインタビューを重ね、各利害関係者の感情と、各ステップで取るべきアクションに理解を深めていったという。当事者の視点に立つことで、現地の廃棄物管理システムの問題点を特定したことは、ソリューションの解像度を高めることを後押しした。同社の強みは、ビジネス分析における豊富な経験により、クライアントのニーズと課題を徹底的に理解できること。また、BI(ビジネス・インテリジェンス)ツールに関する豊富な知見で、膨大な量のデータを収集、分析、解釈し、情報に基づいた意思決定を促進できる土壌にあったといえよう。加えて、Ciscoなどのパートナーと緊密に連携し、自社には無い専門知識をフル活用したこともポイントになる。
ソリューション導入後、廃棄物回収容器の充填率を、リアルタイムで把握できるようになった。コンテナが満杯でゴミを捨てられない状況は解消され、住民はストレスなくリサイクルパークを利用することが可能に。路上のゴミも減り、回収業者の業務効率化も実現。Cisco社、Intradel社とのコラボレーションは継続化しており、Cisco社のカメラにコンテナ検出と監視のAIを組み込むことに成功している。
次のステップは、AI搭載カメラを複数のテストリサイクルセンターに展開することだ。また、プロジェクトで得られた知見は、他のセクターや産業にも適用でき、すでに食品業界をはじめ多様なクライアントからの関心を集めているという。資源配分の改善、運用効率の向上、環境への影響の低減につながることから、スマートシティソリューションへの第一歩としても期待がかかる。
医薬品廃棄による損失と汚染を防ぐ。病院と共同開発した在庫予測モデル
次に紹介する事例は、NTT Innovation Lab. Israel(イスラエル) と Nihilent(インド)が取り組んだ「最適在庫予測モデルによる過不足のない医薬調達システムの実現~未使用医薬品の廃棄抑制を通じた、人と環境を守る管理ソリューションの構築 」だ。同社は世界中のプロフェッショナルを集めながら、イスラエルのシュナイダー小児医療センターと共同で、データ分析による医薬品調達の予測モデルを開発した。
医薬品は有効期限に達すると、使用されなかった分が廃棄される。廃棄医薬品は毒性が強いことから、環境にリスクをもたらすことが多く、医療施設では適切・適量の管理・使用が課題となる。しかし現在、管理プロセスの多くは人の手に依存している状況だ。そこでシュナイダー小児医療センターのイノベーションチームは、かねて関係性のあったNTT Innovation Lab. IsraelとNihilentに問題を提起。解決策を導き出すプログラムが始動した。
NTT Innovation Lab. Israel and Nihilentは、シュナイダー小児病院において経営幹部の全面的な支援を受けながら、イノベーション・テクノロジー・パートナーシップ・センターや薬局サービス、IT部門と連携。病院のデータを活用し、医薬品在庫データに基づく予測アルゴリズムをオープンソース技術により開発し始めた。6種の医薬品における6年分のデータをモデル作成に使用し、「購入数量」と「破壊数量」から「一定期間における医薬品の利用状況」を見つけるシステムの構築に成功。廃棄医薬品の追跡もできる、先進的なモデルを創出した。
今回の在庫予測モデルにより、シュナイダー小児病院は「救命」「必須」「高コスト」の医薬品の利用状況を把握できるようになった。環境への悪影響の軽減のほか、人員やコストの最適化、サプライチェーン全体の効率化にも貢献した形だ。
今回の分析の総支出は473,398米ドルであり、病院側は年間最大38,354米ドルを節約できる見込みだという。このモデルを日本に応用する場合、年間3億1,500万米ドルを節約できる。現在NTT Innovation Lab. Israel and Nihilentは概念実証に取り組んでおり、イスラエル全土、さらには全世界に応用できるソリューションへと進化させようとしているのだ。
DXで地域漁業の課題へアプローチ。いすみ市で行う地域活性化モデルの展開
ここからは国内の事例紹介となる。四つ目の事例は、NTT東日本が取り組む「漁業DXと鮮度可視化によるサステナブルな漁業支援の実現~地域密着型漁業DXによるISUMIモデルの展開~」。千葉県いすみ市の地域活性化に向け、同市と京葉銀行、NTT東日本が連携し、ICT活用を通じた地域主体の事業活動支援である。
いすみ市は農業・漁業を取り巻く資源環境に恵まれる一方、将来人口は高いスピードで減少することが予測されており、地域産業の高齢化や後継者不足が課題視されている。こうした背景から、地域活性化ファンドを通じた観光資源の強化を得意とする京葉銀行と、ICTソリューション企業としてオープンイノベーションによる課題解決に取り組むNTT東日本がタッグを組み、漁業を中心としたDXに踏み出した。
NTT東日本は新たな事業領域を開拓していくに当たり、「真の課題」を見いだすことを重視した。自治体の単年度会計や政策変更に左右されず、民間の“稼ぐ”力で継続的に地域課題解決に取り組むことで、初めて持続可能な街づくりが可能になるからだ。そのため本プロジェクトは、地域商社を立ち上げることから始まり、京葉銀行が会社設立や会計、人事、ネットワークを活用した販路開拓などの仕組みづくり、NTT東日本が「真の課題」を解決するためのソリューションをICT活用により取り組むという協業体制になっている。
協業が始まる前、NTT東日本は社員自らが早朝の漁港の水揚げ時に足を運び、魚価低迷の要因、仲買・漁師・漁協の認識のギャップといった現場の「真の課題」をヒアリングしてきた。「こんなことができたら、もっと良くなるのに」という声を収集し、共通項を見いだすことで、地域プロジェクトは前進するという考えがあったからだという。
ICTを活用できる人材の育成や地元雇用の創出も課題であったことから、NTT東日本は地域住民に伴走しながら、住民自らがICTで課題解決できる環境づくり・機運醸成に取り組んでいる。漁業DXはその一環だが、学校現場ではプログラミングロボットを活用したICT教育の実証を行うなど、次世代を担う人材育成に取り組んでいる。
現在は、計画されたシステム類の導入を終え、運用へと移行していく段階に突入した。漁業DXは紙伝票のデジタル化が喫緊のタスクだが、今後は集積したデジタル情報を効果的に使うための業務変革、本格的なDXへと展開していく予定だ。また鮮度、日持ち、食品ロスなどをもとにした数値を計測する「水産品の鮮度の見える化」も進めており、すでに実証事業が完了。鮮度管理状況の可視化が魚価向上につながるという事例の創出に向け、漁港の情報管理を運用レベルにするための業務改善を、官民連携で進めているという。
将来的には鮮魚販売における小売業のDXへとつなげることで、漁業におけるサプライチェーン全体のビジネス変革をめざすNTT東日本。産地としての付加価値を創出していくことで、変化する漁業における優位性を獲得していくことが、ステークホルダー全員の目標として共有されるようになった。
森林を取り巻くステークホルダーを集め、林業DXを実現
NTT西日本が受賞したのは、「森林・林業DXによるカーボンニュートラル社会の実現 ~資源循環型社会の実現~」だ。ドローンや人工衛星、ICTを活用し、森林のさまざまな情報をデータ化・共有することで、効率的な森林経営や国産木材の安定供給と利用促進、カーボンニュートラル実現に貢献する取り組みである。
国土面積の3分の2を占める森林は、その多くが戦後の国土復興を目的に造られた人工林であり、半分が伐採適齢期とされる。森林は土砂災害防止、水源涵養(かんよう)、CO2吸収など多面的な機能を有しており、適切な管理が欠かせない存在だが、担い手不足やウッドショックなどの木材供給の安全保障の問題により、「伐(き)る、使う、植える、育てる」という森林の健全なライフサイクルが循環しない、負のスパイラルに陥っているのが現状だ。
NTT 西日本グループは、パートナー協業による地域創生を推進しており、宮崎県エリアでは林業を起点とした地域活性化プロジェクトに取り組んできた。宮崎県森林組合連合会と協業で森林情報デジタル化などの実証を重ね、自治体、素材生産業者、製材所、大学など、森林を取り巻くさまざまなステークホルダーにより「森林・林業DX協議会」を設立。グループ企業の「地域創生Coデザイン研究所」を中心に、膨大な森林情報のデジタル化やデータ活用による新たな価値創出を進めている。
具体的なソリューションとしては、人工衛星・ドローンを用いて森林を撮影・計測し、レーザー計測とAIデータ解析によって木の本数や種類、資産価値、CO2 吸収量などをデータ化。それらの情報をスマートフォンやタブレットで閲覧できる「森林クラウド」アプリを開発。森林所有者や森林組合・素材生産者がクラウド上でつながることで所有者の森林経営意欲の向上による適切な森林経営を実現し、さらに木材の需要側である製材所等もつながることで、原木市場を介さない立木(りゅうぼく)取引が成立する仕組みを構築した。森林所有者は自身の森林の状況を随時確認することで、適切な整備、伐採、売買を行うことができる一方、素材生産者は伐採や間伐の施業依頼・入札対応などにより、新たなビジネスチャンスの創出が可能になる。
さらに、長期の森林経営の計画によって信頼性の高いカーボンクレジットを発行できるため、企業や投資家の参画を促すこともできる。購入されたクレジットは、同地域における持続可能な森づくりに活用されるため、購入企業の企業価値向上などにつながるからだ。
本事業は現在、実証から社会実装へと移行しているフェーズだが、実証の成果として、現状目視で行われる森林調査をデジタル化することで、稼働量を30分の1に削減したという。また、需要に合わせた森林施業が可能となるため、森林所有者は適正価格で木材を販売でき、既存の木材市場価格と比べ2%高値での取引を実現。さらにカーボンクレジットの創出支援が完了すれば、3億円規模のクレジット創出も見込まれる(2023年3月プロジェクトのJ-クレジット登録完了)。これらにより生まれた価値は地域に還元されるため、最終的に豊かな森づくり、環境貢献につながるサイクルになっているのだ。
ウッドショックやウクライナ問題により、「木材安全保障」も課題となっている日本。急務となる森林経営の効率化や国産木材の安定供給に向けた、新たなモデルとして期待できるだろう。
地産地消のエネルギーで脱炭素をめざす。カーボンニュートラル実現に向けた新たな一手
最後に紹介するのはNTTデータの「エネルギー自給自足の新たな形~地産地消による官民一体型のカーボンニュートラル化~」。沖縄県がIT産業の一大拠点として開発した「沖縄IT津梁パーク」(沖縄県うるま市)で、地元エネルギー企業との協業により脱炭素を推進する施策だ。
約174,000 平方メートルもの敷地を有する「沖縄IT津梁パーク」の企業集積施設は、入居企業の意向に沿ってオフィスを建設することができる。NTTデータグループは同施設で入居企業のBPO(Business Process Outsourcing)事業を展開しており、入居企業の生産性向上やサステナブルな建物づくりも支援している。こうした中でビルオーナーである沖電開発、電力供給元の沖縄電力グループの協力を得て、カーボンニュートラル実現に向けたプロジェクトが始動した。
沖縄県は、他地域からの電力融通が難しいという地理的制約が存在する。そこでNTTデータは地産地消でのカーボンニュートラルを実現するために、二つの電力供給方法を併用した。一つは、沖縄電力グループが提供する、太陽光第三者所有モデルによる太陽光発電設備の設置。もう一つは、太陽光や風力など自然エネルギーを利用した発電や県内で発生した建築廃材によるバイオマス発電など、地域の再エネ資源に由来する非化石証書を付与することで、法人が使用する電気のCO2排出量を実質ゼロにすることができる「うちな~CO2 フリーメニュー」の活用だ。
NTTデータは、参入当初から沖縄IT津梁パークの広い屋上部分を有効活用する可能性に着眼していたものの、施設の所有者は沖縄県であるため、大容量創エネ設備の導入は制約条件も多かった。そこで同社技術者と沖縄電力グループは密な連携を重ね、一つ一つの課題に対する解決策を提示しながら、着実に行政の信頼と協力を得ていったという。
官民連携で取り組んだ「沖縄IT津梁パーク」は、さまざまなスキームを取り入れ、多くの制約を乗り越えてきた最先端のプロジェクトだ。沖縄県が「沖縄県クリーンエネルギー・イニシアティブ」で掲げる「低炭素で災害に強い、沖縄らしい島しょ型エネルギー社会」を具現化した、今後のクリーンエネルギー拡大につながるモデルケースとして、今後も注目されそうだ。
パートナーシップで、未来に向けたサステナビリティの実現を
最優秀賞を受賞した六つの施策を見てきたが、共通するのはパートナーシップの力で、複雑な課題の解決に当たっていることだ。
地域の住民や事業者、新たなイノベーションに挑むスタートアップ企業、NTTが提携するITベンダー、研究機関や行政機関など、多くのステークホルダーが同じ目標を見据えることで、真のサステナビリティは実現されるのかもしれない。イベントを終えた北大宅勉氏は、「今回のサステナビリティカンファレンスは、よりパートナーシップの重要性が増した」と、各プレゼンを振り返る。
「これまでは企業のサステナビリティというと、実証実験にとどまってしまい、長期的なビジネスとしては成立しなかった側面もありました。しかし今回の受賞施策は、ステークホルダーの皆さまと当グループがWin-Winの関係を築ける施策が多かったと感じます。これら受賞施策については、今後事業拡大を成功させることで、新たなモデルケースを確立してほしいです。そして、サステナビリティカンファレンスを通じてグループ各社のモチベーション向上、施策の水平展開を促進し、社外の皆さまに対してもNTTの姿勢をご理解いただくことで、地球全体の持続可能性を実現していきたいと考えています」
10周年の節目を迎えたNTTグループのサステナビリティカンファレンス。社会変化に呼応しながら進化する各事業において、次回以降はどのようなアイデアが具現化していくのだろうか。今後の動向に期待したい。