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少子高齢化に伴う労働力の減少や、EC市場の拡大による貨物の増加など多くの課題に直面する物流業界。さらに2024年4月には「働き方改革関連法」が適用され、自動車運転業務時間の上限が年960時間に制限されることにより、いわゆる「2024年問題」への対応が迫られている。一見すると職場環境の改善というポジティブな印象も受けられるが、モノを運んだ分だけ売上に繋がる物流業界では労働時間の短縮により売上・収入の低迷が懸念されている。労働力は減少が予想され、貨物の配送需要は増加するという深刻な状況をうけ、物流業界の要の1つである倉庫業では「省人化」「物流の効率化」が急務とされる。
そうした中で40年以上にわたり製造業や物流倉庫向けのシステム開発に取り組んできたのが、YEデジタルだ。同社はDXによって業務改善や生産性の向上を支援し、汎用性の高い新たな倉庫自動化システムとして『MMLogiStation』を開発した。
今回、同システム生みの親である、YEデジタル 物流DX事業推進部部長の浅成直也氏にインタビューを実施。MMLogiStationの開発秘話や過渡期を迎える物流業界で担っていく役割、2024年2月中旬に開業したばかりの「カインズ桑名流通センター」での導入事例、そして2024年の先を見据えた「未来の物流」への展望を聞いた。
倉庫自動化を促進する、革新的な物流システムの開発
物流・倉庫業をとりまく諸問題の背景には、2010年代前半から顕著となったEC市場の拡大による貨物の増加や、コロナ禍における人手不足の表面化が挙げられる。こうした状況をうけ物流の現場では、現行のシステムを維持したままでは物流が破綻するという懸念があったという。
浅成氏「従来はコンベアなど同じメーカーのマテハン機器(※)を繋げるためのシンプルなシステムが多かった気がします。それが、2016年頃から高機能なマテハン機器同士を繋げ、自動化を目指す企業が増えていきました。また同時期に海外の最先端のマテハン機器を導入する企業も多くなり、メーカーの異なるさまざまなマテハン機器を組み合わせる必要性が生じてきました」
(※)「マテリアルハンドリング機器」の略。材料や部品、製品などの移動、搬送、仕分け、梱包などの作業を支援する機械の総称。
「省人化」「物流の効率化」の実現に向け、倉庫自動化に対応する重要性が高まる中で、浅成氏は、倉庫管理システムの肥大化に大きな課題を感じていたと話す。
浅成氏「倉庫運営では、WMS(取引先との入出荷や在庫追跡など上流の管理業務を行うシステム)とWCS(現場で稼働するマテハン機器のリアルタイム制御を行うシステム)が相互に連携しています。マテハン機器の数が少なければこの構造に問題はありませんが、高機能なマテハン機器を多数導入する場合、機器同士を効率的につなぎながら同時にWMSと連携させなければならず、カスタマイズに非常に大きな手間がかかっていました。設備が増加するにつれて、再度すべての機器とWMSをカスタマイズする必要があり、ソフトウェア開発のタスクやコストは膨大になっていきました。こうした倉庫システムの肥大化は多くの企業が抱える至上命題となっていたんです」
このような課題感をうけ、浅成氏は長年現場目線で物流業界に携わってきた経験からこれまでの資産を整理、システムの複雑化を避けるための仕組みづくりを模索した。こうして倉庫内のオペレーションを管理する新たなシステムWES(※)の開発が始まった。だが、当初はWESというシステムを開発する意図はなかったという。
(※)WMSとWCSとの間で「物流現場の制御・管理に特化」したシステムのこと。
浅成氏「当時、物流業、倉庫業の課題をなんとかしたいという思いで、個人的にYEデジタルのノウハウを活用し、もっと簡単でスピーディーに使えるシステムを検討していました。実際に企画が始まったのは2020年の秋頃。当初は私の頭の中にあるシステムイメージと顧客のメリットを周囲になかなか理解してもらえませんでしたが、さまざまなお客様が使える汎用性の高いシステムをつくれば業界全体の課題を解決できると、社長をはじめとした経営層に相談し、開発が始まりました」
“浅成氏の頭の中にしか存在しないイメージ”からスタートした開発は、トライ&エラーの連続だったという。
浅成氏「開発は私がアイデアを出し、開発メンバーがシステムに具体化するという形で進んでいきました。特に難易度が高かったのは、汎用性の実現です。これまでは目の前にいるお客様の要望に合わせたシステム構築がメインだったので、必要な答えが明確にありました。しかし、今回はあらゆるお客様のニーズに応えられる、パッケージシステムの構築だったこともあり、目の前にはっきりとしたお客様がいない中で高い汎用性や抽象性を実現しなければなりませんでした。そのためにシステムに必要な要件を検討して取捨選択していくのには苦労しました。開発チームとは会議室にこもって、彼らが腹落ちするまでコミュニケーションを重ねました。また、従来のWMSやWCSの構造を分解し、複数の自動化設備と連携する役割を過不足なく振り分けられるよう、試行錯誤を繰り返しました」
そして、浅成氏や開発チームの尽力の末、2021年11月に倉庫自動化に特化したWESとしてMMLogiStationをリリース。システムの開発中は、YEデジタルが積み重ねてきたこれまでのノウハウや同社独自の機器制御への強みが活かされたと浅成氏は語る。
浅成氏「システムの仕組みや構造は40年で大きく変わっていますが、確固たる技術力や、絶対に止まらない、万が一止まっても復旧しやすいシステムを開発するといった基本的な考え方は、今回の開発にも継承されていると感じましたね」
あらゆる課題を解決し、物流業界に光を灯す『MMLogiStation』
倉庫自動化に特化したWES、MMLogiStationはWMSとWCSの間で物流現場の作業指示や実績管理を行うシステムだ。従来はWMSが担っていたこの役割をMMLogiStationに分離させることでWMSの肥大化を防ぎながら、マテハン設備の拡張や将来的な業務の変化にスピーディーに対応することが可能となっている。浅成氏はMMLogiStationの特長について次のように語る。
浅成氏「MMLogiStationの最大の特長は、メーカーを選ばずにどのようなマテハン機器でも連携が可能な点です。YEデジタルでは2024年3月時点で8社のマテハンメーカーと協業し、お客様の使用前に先回りしてインターフェースの標準化を行なっています。常に新しいマテハン機器との連携システムを開発しているので、どんなマテハン機器でもプラグインを用いて、短期間かつ低コストで導入が可能です。通常は半年かかるような新機器の導入も、MMLogiStationなら最短3~4カ月程度で済ますことができるというわけです」
また、MMLogiStationには、新しいマテハン機器を導入する際に避けられない業務の変化にも対応し、WMS側へ倉庫管理の最適なオペレーションを提供できるというメリットもあるという。
浅成氏「MMLogiStationでは業務に合わせて設備が大きく変化したとしても、最適なオペレーションの提供が可能となっています。それを実現させるのが当社で特許を取得しているオペレーションデザイナーです。オペレーションデザイナーは物流の業務をフローチャートに落とし込むことで抽象化・汎用化しており、これにより物流のオペレーションやマテハン設備との連携機能を部品化し、それらを組み合わせることによって業務変化に合わせた最適なオペレーションを柔軟に実現することができるのです」
物流や倉庫のシステム開発をする中でもとりわけ機器制御への技術力を持ち合わせ、精通しているYEデジタルだからこそ、WMSとWCSの両面で顧客に寄り添ったシステムの開発を実現したのだ。MMLogiStationのリリース後、浅成氏はWMSの肥大化という課題の重さを改めて感じたという。
浅成氏「MMLogiStationのリリース後は想像以上の反響があり、開発中に想定していたよりもWMSの肥大化に悩まれるお客様の多さを改めて実感しました。MMLogiStationは汎用性の高いシステムだからこそ倉庫自動化に悩みを持つ多くのお客様に活用していただきたいですね」
今春開業カインズの次世代大型物流センター
MMLogiStationが叶える新しい倉庫のかたち
2024年2月、カインズの新たな物流倉庫「カインズ桑名流通センター」が開業した。この日本最大級の次世代大型物流センターにはMMLogiStationが採用されており、大幅な作業の効率化や省人化の実現が期待されている。自動化設備導入の目的にはカインズが全国に展開する店舗への商品供給の効率化を目指し、かねてより物流システムの構築に力を入れていたことが挙げられるという。
浅成氏「カインズ様はロジスティックスを成長戦略の重要な部分と考えており、近年、物流への革新的な技術の取り組みが活発に行われていました。今回、開業する桑名流通センターは西のマザーセンターとして西日本エリアへの配送距離の大幅削減、輸送効率化の実現など、物流2024問題への効果などが期待されています。またカインズ様は、人口減少等の社会問題への取り組み、従業員の働きやすい環境整備などにも力を注がれ、倉庫の⾃動化にチャレンジされています」
この次世代大型物流センターへのMMLogiStation導入のきっかけの1つには、やはりWMSの肥大化があったと浅成氏は続ける。
浅成氏「カインズ様はさまざまなサイズ・重量の多くの商品を取り扱っておられます。そのため倉庫の自動化には多種多様なマテハン機器が必要で、機能に優れた7社のベンダー様のマテハン設備を導入することが決まっていました。当初の計画ではこれまで通りWMSとマテハン機器を連携させる計画でしたが、それらを繋ぎ合わせる際、WMSの肥大化・複雑化を課題に感じていたそうです。そうしたなかでMMLogiStationを知り、当社の強みである機器制御技術や経験値を評価していただき導入が決定しました」
国内最大級の倉庫でメーカーの異なるマテハン機器を取りまとめるという大規模な計画は、倉庫物流システムに長く携わってきた浅成氏にとっても、未知の領域だったと振り返る。
浅成氏「特に大変だったのは、ベンダー様各社ごとに、それぞれ考え方や文化が異なり、さらにカインズ様の目指す物流倉庫像もある中で、仕様を1つにまとめていくことでした。棚卸に関わる機能1つをとっても、各社ごとに手順や動きが少しずつ異なるため、最適なオペレーションをつくるために全員で認識を合わせる必要がありました。仕様の決定には半年以上の月日を要しましたが、MMLogiStationを活用することでその後の開発フェーズは順調に進み、試運転開始まで半年ほどで完了させることができました」
両者の仲介として通訳をしているようだったと浅成氏は振り返るが、WMSとWCSの両方を熟知するYEデジタルの高い技術力があったからこそ、異なるメーカーの機器が連携する大規模なシステム導入が実現されたのだ。
もちろんカインズ桑名流通センターの倉庫自動化は開業して終わりではない。今後も新たな設備の導入に伴い成長を遂げていくのが同システムならではの特長だ。
浅成氏「今回でマテハン機器の導入は終わりではなく、将来的に、間違いなく今後の成長戦略に合わせた新しい機器の導入も必要になります。複数の設備を簡単に追加できるMMLogiStationは、拡張性も十分に備えており、10年20年先まで『カインズ 桑名流通センター』の物流システムの成長に役立ち、“サステナブルな物流”を実現できるはずです」
「2024年問題」の先を見据え、YEデジタルが描く未来の物流
いま、大きな変革期を迎えている物流業界。MMLogiStationの導入により、倉庫運営の高度な自動化が実現すれば、「省人化」「物流の効率化」は大きく前進していくだろう。YEデジタルでは、2024年4月に意思決定支援ダッシュボード『Analyst-DWC』などの新たなサービスの提供を開始する。
浅成氏「Analyst-DWCは、MMLogiStationはもちろん、他社様の物流システムと連携して設備の稼働データを可視化したうえで、2つの機能を提供します。1つは、集めたデータをもとに、意思決定のサポートを行う機能です。倉庫業務が複雑になった状況でも、Analyst-DWCを活用すれば、誰でも熟練の管理者と同じ判断ができるようになります。2つ目は、倉庫の生産性を把握する機能です。データを活用して倉庫業務の各フローの生産性を細かく分析し、自動化が必要なボトルネックを洗い出すことができます。さらに、自動化設備を導入した後も、想定通りの生産性を生み出せているのかの評価も可能です」
YEデジタルは新しい物流の姿を描く先進的なシステムを次々と展開している。最後に浅成氏に、未来の物流・未来の倉庫にどのようなビジョンを抱いているのかを聞いた。
浅成氏「私は、そう遠くない未来に登場する、自動運転やドローン配送などを見据えた物流のあり方を考えています。我々は、あくまで倉庫内の物流システムの支援がミッションですが、自動運転やドローン配送が実現すれば、倉庫内の自動化設備にもより高い精度が求められ、まったく新しいオペレーションが必要になるかもしれません。物流システムにおいて先頭を走る企業の1つとして、未来の物流に対応する新しい仕組みづくりは、常に研究していきたいと考えています」
MMLogiStationは、2024年問題にいわれるような物流業界が抱える諸問題を、物流の最適化によって解決へと導いていく革新的なソリューションだ。だがYEデジタルは時代の変化に合わせたもっと先の、未来の物流を見据えた挑戦を続ける。今後も同社が手掛けていく、新たな倉庫DXに期待したい。