総合地球環境学研究所のLINKAGEプロジェクトは、農業や畜産業の活発化にともない地下水中の硝酸性窒素の高まりが問題になっている沖縄島南部地域で地下水調査を行い、比較的新しい第四紀琉球石灰岩の地層では地下水の流れが速いため起きにくいとされていた脱窒などの「自然浄化作用」が、ある条件では起きていることを発表した。
肥料の過剰な散布や畜産排せつ物の不適切な管理は、硝酸性窒素(NO3–N)による地下水汚染を引き起こし、直接飲用した場合には人の健康や生態系へ被害をもたらすという。
硝酸性窒素は、地中では微生物による還元反応である脱窒素作用(脱窒)(※1)により自然に浄化されるが、琉球弧に広く分布する琉球石灰岩のように、間隙の多い地層では地下水はすぐに地下浸透し、流速も大きく滞留時間が短いため、脱窒は生じにくいと考えられてきた。
研究チームは、琉球石灰岩が広く分布する沖縄島南部地域の地下ダム流域で広域的な地下水水質モニタリングを行い、地下ダム堤体や断層付近のいくつかの観測井で、地下水中の硝酸性窒素濃度や硝酸イオン中の窒素・酸素安定同位体比(※2)の測定から、脱窒の証拠を示すデータを得たという。
また、脱窒が成立する条件として、地下水中の溶存酸素濃度、溶存有機炭素濃度が高いことにくわえ、降水量が少ない時期に地下ダムの止水壁や断層等により地下水が一時的に滞留される地形・地質的特性などが鍵であることを解明。
■今後の展開
脱窒過程は地下水の硝酸性窒素汚染の改善や抑制にとって重要な自然浄化機能の1つ。地下水を主要な水源とする他の石灰岩地域においても、前述のような条件があれば、自然の浄化作用である脱窒が生じる可能性が示されたことは重要な成果とのことだ。
また、類似の石灰岩地域において、現場の自然条件を利用して窒素浄化を促すシステムの開発にも寄与するものと研究チームは考えているという。
※1 脱窒は、硝酸性窒素(NO3–N)や亜硝酸性窒素(NO2–N)が、酸素に乏しい還元環境において有機物や硫化物などの電子供与体が存在する条件で、脱窒菌または硝酸還元菌の呼吸により窒素ガス(N2)および一酸化二窒素(N2O)ガスに還元される反応。
※2 窒素(N)は14Nと15Nの異なる質量をもつ「安定同位体核種」を有し、それらの存在比(15N/14N)のことを安定同位体比と呼ぶ。また、地下水中の硝酸イオン(NO3-)中の酸素(O)は16O・17O・18Oの異なる質量をもつ安定同位体核種を有し、18O/16Oが酸素安定同位体比。