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2023年はAIに始まりAIに終わった1年だった。OpenAIがリリースしたチャットボットChatGPTは瞬く間に世界を席巻し、AIの存在感が急速に高まった。この影響は労働市場にも反映され、昨年1年でAI関連職の求人は急激に増えているのと同時に、給与水準も上がっているという。

AI関連職とそれ以外の給与格差が拡大

Bizreportがアメリカ全土を対象に実施した調査によると、AIに関連する仕事は他の職業に比べ、平均77.53%も給与が高いことがわかった。ITエンジニアをはじめとするテクノロジー関連職は、もともと他業種より給与が高い傾向があったが、AIの重要性の高まりによってさらに拍車がかかっている。実際、テクノロジー系と非テクノロジー系の職業では、全国平均36%の給与格差がある。

また、米国内の地域別調査の結果、多くの州でその傾向が現れ始めている。多くのテック企業が集まるカリフォルニア州は、AIによる給与格差がそれほど生じていないが、もともとテック企業が少なく技術の高いエンジニアが集まりにくい地域では、AI関連職とそれ以外の職種での差が広まっている。

もっとも格差が大きい地域はグアムで、AI関連職の平均給与(年間)が約14万ドルに対し、その他の職種の平均給与は約5.2万ドルと、3倍近い開きがある。それ以外にもサウスカロライナ州やコネチカット州、ルイジアナ州など、AI関連職とそれ以外の職種の賃金差が2倍以上である州は少なくない。

求人サイトに提示されているAI関連職の年間給与額の一例を挙げると、Salesforceが募集するAIアーキテクトは23.3万ドル〜35.6万ドル(約3,435万〜5,248万円)。インテルのAIインフラエンジニアは約25万ドル(約3,685万円)、ブーズ・アレン・ハミルトンの生成AIエンジニアは10.6万ドル〜24.2万ドル(1,563万〜3,568万円)となっている。

AIに代替される仕事がある一方、「新しい仕事」も

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ゴールドマン・サックスのレポートによると、全世界で約3億人の雇用が生成AIによって影響を受けるという。この影響は新興国より先進国のほうが大きく、特に金融や情報処理、メディア、法律などの分野で、AIによる自動化が進むと予測されている。同レポートでは、アメリカと欧州の仕事の約3分の2が「ある程度、AIに自動化される」可能性があると指摘している。

一方で、AI関連の新たな職種やポジションも出てきている。そのひとつが「AI管理者」である。forbesによると、Shopifyで人工知能研究をしていたダレン・アングル氏は、IT系スタートアップへの転職を考えていた当時、まだ「AI責任者」という名称が存在しなかったという。現在彼は「AI責任者」として、スタートアップで製薬会社向けの大規模言語モデル構築に携わっている。

最近登場したAI関連の新しい職種や役職には、AI責任者のほか、AIオフィサーやAIエンジニア、AIスペシャリスト、AIアドバイザー、AIデータサイエンティストなどがある。なお、AI責任者を置く米国企業は、過去5年で3倍に増加した。

あらゆる業界でAI人材の需要が急増

AI関連職の求人数も増加の一途を辿っている。

LinkedInが発表したレポートによると、OpenAIがChatGPTをリリースした2022年11月以降、ChatGPT関連の求人は21倍に増加したという。また、米国の求人サイトIndeedでは、生成AI関連の求人がここ1年で5倍近く増えており、中小企業を中心とした求人アプリZipRecruiterでは、2023年7月の生成AI関連の求人数は1,309件と過去最高を記録した。

LinkedInのチーフエコノミスト、カリン・キンブロー氏は「“仕事の進化”は従来と比較して非常に速くなっている」と指摘する。前述のBizreportでは、2024年にはコンピューターサイエンス市場におけるAI関連職は13.1万件以上発生する可能性があり、同業界の30%がAI関連になると予測している。また、LinkedInの登録者は、自分のプロフィールにAI関連スキルを記載する人が急速に増えているという。

実際、AIを「使える」人材需要は、多くの業界で高まってきている。直接開発に関わらずとも、AIを仕事で利用する機会は今後どの業界でも増えていく。中でもチャットボットでの顧客対応などすでに導入が進んでいる金融サービスや小売業では、スタッフのAIスキルの習得スピードは他業種と比べても著しく速い。

かつて「コンピューター」が普及し始めたとき、人々は「コンピューターに仕事が奪われてしまうのではないか」と危惧したが、実際は「あらゆる仕事でコンピューターが活用されるようになった」という方が正しい。

AIをこれと同列考えるべきではないかもしれないが、「AIを使いこなす」ことは、あらゆるサービスや業種、職種で求められるスキルになっていくことは確かである。「AIが当たり前の時代」になったとき、労働市場はどう変化しているのだろうか。半歩先の未来を、見てみたい気がする。

文:矢羽野晶子