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コンサルティング大手が予測、生成AIはまず営業・マーケティングで普及
企業において、さまざまなシーンで生成AI活用が考えられるが、まず広く普及すると予想されているのが営業・マーケティングだ。
ベイン&カンパニーは2023年10月25日に発表した調査レポートで、企業の40%が営業・マーケティングにおいて生成AIを採用、または試用している状況に触れ、企業における生成AI利用はまず同分野で拡大するだろうとの予想を展開した。
同調査は世界各地の550社以上を対象に実施されたもので、特にB2Bの営業・マーケティングが生成AIの大きな恩恵を受けると予想されている。生成AIは、テキストのような非構造データの取り扱いや汎用的な論理思考を強みとしており、これがB2Bにおける営業・マーケティングのニーズと合致するためだという。
営業分野ではたとえば生成AIをベースとするAIエージェント機能を活用すれば、営業メールを自動で送信し、その反応を評価しつつ、反応した見込み客の情報をリサーチするという複雑なプロセスを自動化することが可能となる。見込み客の情報をもとに、Eメールの内容をパーソナライズすることも容易にできる。
また自社プロダクト/サービスや競合プロダクトのリサーチを自動化して、見込み客のニーズに合わせて、プロダクト/サービス情報をまとめることも不可能ではない。
マッキンゼーも2023年6月のレポートで、営業分野における生成AIの可能性を分析し、同様のユースケースを特定している。今後、営業分野で予想される生成AIによる生産性向上率は3〜5%。現時点における営業分野の予算規模を考慮すると、その恩恵は世界全体で5,000億ドル近くに達すると推計している。
新興企業1UPに見る、生成AIを活用した営業自動化の事例
ChatGPTは一般利用向けにデザインされた生成AIだが、同じ基盤モデルであるGPT‐3.5やGPT-4、またOpenAI以外の基盤モデルを活用し、営業やマーケティングなど企業の特定機能にフォーカスした生成AIプラットフォームを開発する動きが加速している。
最近ステルスモードから浮上し、注目を集めているのがニューヨーク拠点の1UPだ。
2021年末に設立された同社は、企業の営業部門に特化した生成AIプラットフォームを開発。最近、8-Bit Capital、 RRE Ventures、Alumni Venture Partnersなどから250万ドルを調達し、プラットフォームの開発と営業を加速する計画であるという。
同社の創業者兼CEOであるジョージ・アベティソフ氏は、2014年にID認証ソリューションを開発するHYPRを創業し、7,200万ドルを調達した経験を持つ連続起業家で、現在1UPは、6人のメンバーでプラットフォーム開発を進めている。
1UPが強みとするのは、生成AIを活用した「The Knowledge Automation Platform(ナレッジ・オートメーション・プラットフォーム)」だ。
これは一般向けのChatGPTとは異なり、企業内のデータや製品/サービスに関するデータにより、営業向けにカスタマイズされた生成AIである。セールスプロセス中に発生するさまざまな質問に対し、高い精度で回答を生成できるように設計されており、営業の効率を高めることが可能となる。
これは一般向けのChatGPTにとっては非常に難しいタスクとなる。
理由の1つとして、ChatGPTの情報がアップデートされていないという点が挙げられる。ChatGPTにとっての最新情報は、AIモデルがトレーニングされた時点のもので、現時点における最新データは持ち合わせていない。仮にトレーニング時のデータセットに特定企業のプロダクト/サービスに関する公開情報が含まれていたとしても、情報はその時点で止まっており、それ以降のアップデートは反映されない。
この弱みを克服するために、現在ChatGPT(GPT-4)にはデフォルトでのネットアクセス機能が備わったが、検索できる情報は公開情報に限定されるため、営業が必要とする詳細な情報は検索不可能だ。
1UPのナレッジ・オートメーション・プラットフォームでは、企業が製品/サービス情報やその他営業に必要な重要情報をデータベースに紐付けることで、生成AIがそのデータベースにアクセスし、素早く関連情報を検索する。営業チームや見込み客にとって分かりやすい文章としてアウトプットすることができる。
これまでの営業では、見込み客から製品/サービスに関する質問を受け取った場合、手作業で企業のデータベースにアクセスし、必要な情報を検索、それをもとに質問への回答を作成していた。1UPによると、この全プロセスを自動化することで、質問への回答プロセスは10倍効率化できるという。
タスク自動化、生成AIとRPAの違い
営業やマーケティングを含め企業の各部門で発生するタスクを自動化しようという試みは、これまでも多く実施されてきた。RPA(robotic process automation)はその1つといえるだろう。このRPAと新たに登場した生成AIはどのように異なるのか。
一言でいうと、RPAは定型的でルールベースの簡易タスクの自動化に適している。一方で、生成AIは複雑な文脈や内容の理解が必要なタスクに適しているということだ。
たとえば、営業ではメールの返信が日常的に行われるが、簡易な定型文を返信するタスクの場合は、RPAが適しているといえる。しかし、その返信文をパーソナライズする必要がある場合、RPAでは対応できず、生成AIが必須となる。
生成AIを活用することによって、見込み客からのメール文を分析し何を知りたいのかそのポイントを抽出することができる。また、その情報に基づいて、必要な情報をデータベース検索により取得し、得られた情報をまとめて、見込み客向けの文章して仕上げることも可能だ。
現在1UPのほかにも、電話営業の自動化を可能にするものやリンクトインでのアウトバウンドメール営業を自動化するものなど、生成AIを活用した営業自動化プラットフォームが続々登場している。営業・マーケティング分野における生成AIの躍進から目が離せない。
文:細谷元(Livit)