“住みやすい街”には、さまざまな要素が必要だ。生活を支えるインフラ基盤はもちろん、教育や介護、コミュニティなど、住民の数だけニーズがある。一方、都市部への人口流出などとともに地域社会の担い手は不足傾向にあり、事業者の視点で見るならばサービスなどの持続が困難になるケースも多い。特に中小企業においては、事業承継による後継者の育成と新しい時代のニーズへの対応を、両立させることが重要となるだろう。

出光興産が推進する「スマートよろずや構想」は、全国に点在するSS(サービスステーション。ガソリンスタンドを指す)を活用し、給油など既存サービス以外の機能を組み込むことで、地域課題の解決を目指す構想だ。そうした構想のもと、SSを運営する事業者が出光興産と協力しながら、多面的なニーズに応える動きが活発化している。事業承継の課題に挑む事例も多く、二つの世代の感覚を生かしたビジネス展開により、地域貢献につなげるモデルが生まれつつあるのだ。

AMPでは連載を通じ、「スマートよろずや構想」の事例を紹介。第3回は、地域との深い関わりをベースに、親子二代で事業を展開する、埼玉県朝霞市の清亀(きよかめ)石油を取材。未来に向けて事業拡大を図る、その姿を追っていく。

「朝霞市を一番住みやすい街に」を掲げる、地域密着型SS

埼玉県南部に位置し、約14万の人口を有する朝霞市。東京へのアクセスが良好であることからベッドタウンとして発展し、現在も緩やかな人口増加が続いている。出生率は1.30~1.50の間で推移する高い水準である一方、子どもが増えていることから待機児童問題などが発生している。

そんな朝霞市でSS事業を展開するのが、清亀石油株式会社だ。代表取締役社長の清水 良樹氏{以下敬称略、清水(良)}は「地域とのつながりを大切にし、事業を続けてきた」と、朝霞市と同社の関係を語る。

清亀石油株式会社 代表取締役社長 清水 良樹氏

清水(良)「清亀石油の設立は、1969年。先代にあたる父は、SSの敷地でカラオケ大会やお祭りを催すなど、地域とのコミュニケーションに注力していたようです。私が社長に就任した後はセルフ化などもあり、一時的につながりが薄れてしまったのかもしれません。しかし、水や燃料の入手が困難になった東日本大震災を機に、改めて地域社会の重要性を痛感しました。現在は、中学校の職業体験の受け入れや登下校の見守り、町内会災害協定の締結など、地元とのつながりを強化しています」

清亀石油は中期経営計画を策定しており、経営ビジョンとして「朝霞市を一番住みやすい街にしたい」を掲げている。給油やカーメンテナンスなどのモビリティサービスはもちろん、地域が抱える諸課題に対してサービスを展開することで、SSを新たな地域拠点にしていくことを目指しているのだ。

清水(良)「朝霞市は、社会的な流れとは逆に人口が増える一方で、保育園が不足するという課題を抱えています。例えば保育事業などを私たちが展開できれば、朝霞の未来に貢献できるはずです。既存のサービスを拡張する形で、地域のニーズに応えていく。そんな思いをビジョンに込めました」

こうした姿勢を出光興産は積極的にバックアップしている。特約販売店の経営者向けに「出光経営カレッジ」を開催しており、清亀石油の経営計画も、同研修にてブラッシュアップされたという。

清水(良)「全国的にガソリン需要が低迷する中、SSが持続するためには新たな価値の創出が必要です。そして長期的に事業を多角化するならば、事業の承継もスムーズに行わなければなりません。現在、息子の祐太郎に会社を引き継ぐ形で、新規事業を二人三脚で進めています」

新しい時代のニーズは、新しい世代に託す。良樹氏はそうした思いで、「なるべく早期に社長を引き継ごうと思っている」と語る。では、実際にどのような体制で事業承継にあたっているのか。

出光とのパートナーシップで、円滑な事業承継を推進

清亀石油で専務取締役を務める清水祐太郎氏は、現在27歳。SSの具体的な行動施策・販売促進計画・出光興産との連携などを担っている。朝霞市で育った清水 祐太郎氏{以下敬称略、清水(祐)}は、事業を受け継ぐことを念頭にキャリアを歩んできた。

清水(祐)「大学卒業後、特約販売店向けの『子息教育制度』を利用して出光興産に入社し、1年目は愛知の中部支店でSSの研修を受けました。現場のプレイヤーとして給油や整備に従事し、マネージャーから販売の大切さや醍醐味を学ぶ日々でした。2年目はさまざまな部署に配属される形で、ガソリン以外の商品の販売企画、マネジメントや経営の基礎を学びました。2年間の教育制度を終えて、清亀石油に入った形です」

清亀石油株式会社 専務取締役 清水 祐太郎氏

同社の大坂 亮介氏(以下、敬称略)は、経営ビジョンの策定や事業承継において、清亀石油を手厚くサポートしてきた。

大坂「清亀石油さんが立案した経営ビジョンを併走しながら形にしていくのが、私の役目です。SSでは親子で事業承継をするケースが多く、出光興産は子息教育制度の提供により、ビジネスの基礎や出光興産と特約販売店のパートナーシップ、関係者がどのような思いで仕事に当たっているのかを学んでいただいています。モビリティを取り巻く事業環境が変化する中で、若い年齢で事業を継ぐことは容易ではありません。私は清水祐太郎さんと前任地の中部支店で先輩・後輩の関係性ではありましたが、途中で異動となり、現任地である関東第二支店に配属され、偶然にも清亀石油さんを担当させていただきました。中部支店にいる祐太郎さんに経営ビジョンの中身や現状の課題をお伝えして、帰店後にすぐに課題に取り組むことが出来るよう、子息制度の中で学ぶべきことを一緒に整理しました」

清水(祐)「出光興産で最先端の知見・業界の課題を学んで清亀石油に戻った時、『令和から平成へ逆戻りした』という感覚を抱いたのが正直なところです(笑)。いかに給油以外の需要に応えていくか、新たな事業を成長させていくかを、真剣に考えるようになりました」

こうした経営マインドの育成は、功を奏した。経営カレッジを通じて良樹氏が策定したビジョンを、2年間の研修を経た祐太郎氏は即座に理解したという。

清水(良)「日本でもトップクラスの環境で学んだ祐太郎が帰ってくる時、旧態依然の体制では、がっかりされてしまうと考えました。息子が安心して事業を引き継げるように、自分たちも変わらなければならない。中部支店で祐太郎の指導役を務めていただいた大坂さんとも連携しながら、良好な三方向の関係で事業承継にあたるよう努めてきました」

強固なパートナーシップを築いた3人は、清亀石油の新たな事業展開に乗り出していく。そうした展開の追い風となるように打ち出されたのが、出光興産の「スマートよろずや構想」だ。同構想の一つである「モビリティよろずや」は、車検やコーティングなどのサービスを通じたモビリティ分野での価値提供を目指すモデルであるが、清亀石油は先駆的に体現していったといえるだろう。

清亀石油が挑む、スマートよろずや構想

洗車や整備、車検、カーリースやレンタカーなど、SSが担うことができる機能は多岐にわたる。出光興産はカーコーティングで高度な技術を持つKeePer技研株式会社と連携し、商品・知識&技術・施工環境・店舗演出まで一貫してサポートする「apollostation KeePer」を全国で展開しているが、祐太郎氏はその需要に目をつけた。

清水(祐)「コーティングに関しては教育制度中にも学んでおり、高い価値を感じていました。埼玉県は自動車を移動手段とする人が多く、清亀石油でも洗車の売上が高かったため、それに付随するサービスを強化した形です。高額の投資によってコーティング専用ブースをつくり、天候や気温に左右されないクオリティを提供できる環境を整備しました」

出光興産株式会社 関東第二支店 販売一課 大坂 亮介氏

大坂「出光興産としてもスマートよろずや構想実現のため、全国の特約販売店さんの事例を共有するなど、横の連携に努めています。先日もKeePerの専用ブースを建てて、従来の給油所からモビリティサービスの専門店にシフトした「apolloONE  江東東陽町 KeePer PRO SHOP」を定例会で紹介しましたが、清亀石油さんの事例も積極的に報告していきたいですね」

売上においても、カーケアの事業は清亀石油を支えるようになった。KeePer導入以前のコーティングサービス・車検においては年々台数が増加。手洗い洗車は月300台と高い水準を保っており、事業の総売上も上昇傾向にあるという。

清水(祐)「カーケア分野でお客さまと関係を築くことは、結果的に給油にもつながります。タイヤの空気圧確認一つとっても『月に一度は点検するといいですよ』『今回は少しメンテナンスしましょう』と、車をトータルで見ながらプラスアルファのサポートをすることが、本来は大切です。当社スタッフにも、お客さまとの信頼の積み重ね、期待を上回るサービスの提供を声がけする重要性を日頃から意識してもらえるようにしています。こうしたお客さまとの関係構築の結果、給油のご利用もいただくことができ、全国的にガソリン需要が下落する中で、当社は下落幅を業界平均以下に留めています」

さらなる事業展開を狙い、祐太郎氏はSSを「ディーラーのような高級感のある空間」へとアップデートしたいと目論んでいるそうだ。

清水(祐)「この先カーケアや車販の売上を伸ばすためには、お客さまに選ばれるSSにならなければなりません。車自体はもちろん、その周辺サービスの対価も決して安いものではないため、親近感のあるコミュニケーションは基本ですが、安心感も大切にしたいです。SSの内装を少しリッチにするなど工夫を重ね、さまざまな機能を備えるSSに進化させたいですね」

一方、良樹氏も新規事業に向け動いているという。先述した保育事業においては土地を確保し、保育園の誘致を開始しているそうだ。

清水(良)「保育園の経営も自社で担えればよいのですが、なかなか手が回らないので、外部の保育園を誘致できるよう交渉しています。また、不動産事業も進めており、当社SSに隣接するビルに公文式さんに入ってもらうといった活動もしています。子どもたちが生き生きと成長できる地域に貢献すべく、さまざまなアプローチをしていきたいですね」

モビリティの事業とコミュニティの事業を循環させることで、自社を成長させていく清亀石油。現在を「投資の10年」と位置づけ、積極的に未来を築いているのだ。

清水(良)「投資は必要になりますが、未来の需要に対して先手先手で動かなければ、投資が必要な際に、供給のための行動が滞ってしまうため、本当の意味で地域に貢献することはできません。現在は基幹事業を祐太郎に任せ、私は新規開拓を進めている形ですが、例えばコーティングや車販の収益が上がれば、地域貢献事業に再投資することも可能です。こうした形のように、ビジネスと社会貢献は相互に関係し合うことが理想だと考えています」

地域との信頼関係があるから、明確なニーズを把握できる

スマートよろずや構想を、親子二世代で体現する清亀石油。そこに出光興産の大坂氏が加わり、この3人がうまく連携しながら各々の役割を果たせているのは、「朝霞市を一番住みやすい街にしたい」というビジョンを共有しているからなのだろう。

大坂「地域との密着度が高いのが、清亀石油さんの特徴です。スタッフさんもお客さまとの関係が強く、困りごとがあればすぐに相談していただけるようです。コーティングも高級感のあるSSづくりも、すべてお客さま目線から生まれたアイデアです。ニーズを直に吸収できる特約販売店さんは、これからの時代も求められ続けるでしょう」

清水(祐)「やはり私自身が朝霞市で育ったので、地元に貢献したいという思いは強いです。より長期的な視点に立つならば、私の夢は『彩夏祭(さいかさい)』という朝霞のお祭りを大きくすること。地元のみなさんから愛されながら、事業力もある強い会社に成長させていきたいですね」

清水(良)「かつて職業体験に参加していたある中学生が、成長して当社のスタッフとして働いています。応募してくれた時は、絆のようなものを感じました。事業承継や世代交代は、親子だけでなく地域全体で行なっていかなければなりません。清亀石油を新しい世代がチャレンジしやすい環境にしていくことが、スマートよろずや構想にもつながり、私たちのビジョンを形にしていく道筋なのではないかと考えています」

目まぐるしく変転する予想困難な現代、エネルギーやテクノロジーの形が大きく変化することで、中小の事業者も既存の形式から脱却する時が訪れている。しかし、本当に事業を持続的なものにしていく一つの方法は、培ってきた地域との信頼なのかもしれない。人々に寄り添うことでニーズを正しく把握する、そして地域やそこに住まう人たちへと還元する事業を目指すからこそ、新たなビジネス展開も可能になるのだろう。スマートよろずや構想の可能性、地域に身を置く事業のあり方を、清亀石油は教えてくれたようだ。