【寄稿】国際エンジニアリングアワードを受賞した香港学生の発明 廃ガラスと電力消費問題を同時解決|香港中文大学

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本コラムは、企業・団体などから寄稿された記事となります。掲載している取り組みやサービスの内容・品質、企業・団体などをAMPが推奨・保証するものではありません。

各企業・一人ひとりのパートナーシップ構築の加速をサポートするため、サステナブル推進企業の取り組み事例をコラム形式で提供。

今回は香港中文大学の取り組みを紹介する。

実施している取り組み

地球が直面する深刻な環境問題の解決に役立ちたいと願い、香港の学生たちで発明した「E-COATING」について紹介いたします。「E-COATING」とは、廃棄物となっていたガラスを価値のあるものへと変え、環境に優しく、かつ費用削減にもつながるソリューションとなっています。「E-COATING」は、太陽光の約95%を遮断し、反射させることができます。これは、細かく砕いたガラスのサイズを緻密に調整して塗料にすることで成立させています。

太陽光が塗料にあたると、光が散乱し、小さなガラスの破片に跳ね返ります。この連続的な跳ね返りと散乱によって、入ってくる熱の多くが、発生源(太陽)に戻されるのです。また、「E-COATING」の特徴に、「赤外線熱放射」という、特定の種類の熱を放射できることが挙げられます。この放射は8~13マイクロメートルの波長範囲にあり、温室効果ガスに捕らわれることなく、大気の窓(大気の影響が小さく、光の透過率が高い波長域)を簡単に通過して宇宙空間に放散させることができます。

この発明は、国連が掲げるSDGsの目標のうち、3つに適応しています。

1つ目は、目標11「持続可能な都市とコミュニティ」。エネルギー消費と炭素排出を削減することで持続可能な都市づくりをサポートします。

また、目標12「責任ある消費と生産」にも対応しており、従来のコーティング剤に代わる、環境に優しいコーティング剤を提供することで、持続可能な消費と生産パターンの促進を叶えることができます。

そして最後に、目標13「気候変動対策」という点では、冷却システムに関連する二酸化炭素排出を削減する可能性を持つ「E-COATING」は、気候変動とその影響に立ち向かう取り組みに大きく貢献しています。

直面した最も難しいポイントは、“いかに高価にすることなく環境に優しい製品を作るか”です。というのも、市場に出回っている環境に優しい商品の多くは、価格の高さが消費者にとって、潜在的な障壁となっていることが多かったからです。消費者に、環境のためにエコ製品を選びたいという気持ちがあっても、価格が高いことでその選択を諦めてより安い製品を選んでしまいます。

そこで、環境に優しくありながらも、製品の価格を下げ、消費者の間でより身近で人気のあるものとして、世界により大きなインパクトを与えようと考えました。犠牲を払うことなく、人々が環境に優しい製品を支持することを応援していきたいのです。

しかし、ビジネスにおいて持続可能性を確保するためには、製品の品質を確保し、適正な利益率を維持するという現実にも向き合わなければなりません。これは絶妙なバランスが必要ですが、達成することは可能だと信じています。

そこで、原点に立ち返り、基本から見直した結果、冷却コーティングを作るために高価な原材料を使う代わりに廃ガラスを使うというアイデアを思いつきました。テストと反復を繰り返し、最適な組み合わせが見つかるまで計算し直すなど、あらゆる課題を克服しました。

取り組み実施に至った背景

「E-COATING」のアイデアは、環境におけるサステナビリティとビルの電力消費量に対する懸念から生まれました。香港では多くの地域で、総電力消費量の約20%が冷房に使われています。また、ガラスのような多くの不活性廃棄物が埋立地のスペースを占領し、環境への負荷を増大させています。

このような問題の解決に役立ちたいという思いから、これまで研究してきた放射冷却技術に関する結果をもとに、廃ガラスを外壁用の冷却塗料へと変える「E-COATING」のアイデアを思いつきました。また、サーキュラーエコノミーの原則に則り製造することで、都市の不活性廃棄物を削減できるだけでなく、ビルの屋内環境の温度を下げ、ビルの電力消費量の削減もできるようにしました。

―開始時期
2022年8月1日

―目標
再生ガラスを使用することで、ライフサイクルを考慮した環境に優しい冷却塗料をより低コストで実現することを目指しています。

独自の取組やチームの強みを活かした取組、工夫している点

「E-COATING」の独自性は、環境への配慮と製造コストにあります。まず、E-COATINGは原材料のひとつとしてリサイクルされたガラスを使用し、サーキュラーエコノミーと廃棄物削減のコンセプトを推進しています。また、VOCの高い溶剤の使用やエネルギーを大量に消費する工程を排除し、環境に優しい特性をさらに高めています。

また、価格においても市場の類似商品と比較して下げることに成功しました。これは、潜在的な消費者の購入ハードルを低くする上で重要な役割を果たしています。前述の通り、環境に優しい製品は価格が高いために躊躇してしまう人が多くいます。手頃な価格の製品を発売することで、消費者に利益をもたらすだけでなく、社会に貢献し、社会的価値を創造し、世界中の環境問題を和らげることができます。

「E-COATING」の取り組みが、どのようにグローバルで評価されるのかを知るために「James Dyson Award2023」に出場しました。そしてその中でサステナビリティ賞を受賞でき、ジェームズ・ダイソン氏に認められたことで、アイデアと発明に素晴らしいお墨付きをいただいたことになります。

※JAMES DYSON AWARDは、次世代のデザインエンジニアを称え、育成、支援するための国際エンジニアリングアワード。ザインやエンジニアリングを学ぶ学生や卒業後4年以内の若手エンジニアやデザイナーを対象としており、プロダクト開発やアイデアを実際に実現させる支援も行っている。

エンジニアリングを学ぶ者として、この発明が、人々の生活を変えるような製品を数多く発明してきたダイソンのエンジニアたちによって審査されることに感謝しています。今回の受賞は、「E-COATING」の革新性を証明しただけでなく、気候変動対策に大きく貢献する可能性も浮き彫りにしました。そしてこの功績は、「E-COATING」プロジェクトの成功と、持続可能な自然との調和の原則に沿った製品を作るという私たちのコミットメントを強調することとなります。受賞を機に今後も活動を継続し、さらに大きなインパクトを与えていくことにわくわくしています。

展示会やさまざまなメディア・プラットフォームなど、幅広い外部コミュニケーション・チャンネルを活用し、私たちのミッション、ビジョン、製品情報を多くの人々に確実に伝えてきました。その中でも、James Dyson Awardは私たちにとって極めて重要なきっかけとなりました。この栄誉ある賞のおかげで、「E-COATING」のテクノロジーを世界中の人々に紹介することができました。この受賞は、私たちの研究を証明するだけでなく、市場における私たちの知名度を飛躍的に高めるものです。いただいた賞金は、私たちの研究開発努力を前進させ、それによって製品の改良と強化を促進する上で大きな力となりました。

また、この受賞によって、「E-COATING」のソーシャルメディアへの露出を増やしただけでなく、持続可能性に関心のある他の企業や団体とのパートナーシップを促進したことも大きな成果となっています。その結果、サステナビリティ部門における私たちのリーチと影響力が拡大しました。

今後の目標や展望

「E-COATING」の将来的な展望には、継続的な技術革新と製品の有効性の検証が含まれています。現在、コンクリートの表面での使用に特化して設計された「E-COATING」の完成に近づいています。「E-COATING」の性能を最適化する作業に努めています。

並行して、私たちは「E-COATING」の外部検証の工程を開始しました。一連の包括的な特性試験を実施するため、認定された塗料の試験機関に送りました。これらのテストは、様々な条件下で「E-COATING」の品質、効果、耐久性を検証します。

今後も、E-COATINGのさらなる用途を模索し、より幅広い表面や環境に対応できるよう製品ラインを拡大することで、エネルギー効率と持続可能性の促進への影響を広げていく予定です。

将来的には、持続可能性への責任感を共有する企業との戦略的提携を計画しています。これには、共同マーケティングの取り組みや流通パートナーシップ、大規模プロジェクトの共同入札などが含まれます。また、サプライヤー、特に各地域のリサイクル業者と緊密に協力し、当社の製品が環境にやさしく持続可能な方法で製造されるようにします。

●香港中文大学
Can Jovial Xiao/Hoi Fung Ronaldo Chan

本特集(サステナライズ寄稿)に関してはこちらからお問い合わせください。

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