筆者撮影

2023年11月1日、「いいひとりの日」として、渋谷ソラスタ コンファレンスにて「フリーランスの祭典」がおこなわれた。主催は、フリーランスや副業者、小規模経営者向けに保険サービスなどを提供する一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会だ。

今回、フリーランスの筆者が本イベントに潜入。フリーランスや副業者、経営者として自分らしく、満足に働くために役立つ「セッション」、フリーランスと良い関係性を築いてプロジェクトを成功させた企業を表彰する「フリーランスパートナーシップアワード」、横のつながりを築くための「アフターパーティー」など、盛りだくさんのラインアップだった。

いちフリーランスとして感じたのは、企業とフリーランス(副業者)の距離がますます近づいている現状とフリーランスの活躍の場が広がるであろう期待、一方で山積みの課題もあるということ。本イベントの様子を抜粋してお伝えしたい。

人気プロデューサー高橋 弘樹氏による「刺さる企画の創り方」

プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会の公式ホームページより

元テレビ東京のプロデューサーであり、新メディア『ReHacQ』のプロデューサー高橋弘樹氏は、自身の実績をもとに「刺さる企画の創り方」を語った。これまでにバズった企画の特徴として、高橋氏は以下の5つをあげた。

①自分の欲求
②日常・読書・映画のワンシーンで心が動いた瞬間を切り取る
③未知の世界を興味のない人へ届ける工夫
④バカげた無茶
⑤自己表現、私小説的

数々のヒット企画を生み出してきた高橋 弘樹氏。ライターの筆者にとっても役立つ内容だった(筆者撮影)

例えば、テレビ東京の人気番組『家、ついて行ってイイですか?』は①と②に当てはまる。「誰かの家を見てみたい」という自身の欲求や、誰かの家に行くという日常のワンシーンを切り取った企画なのだとか。また、④には「国王と写メを撮ろう」や「お城に泊まろう」といった企画が、①と⑤にはテレビ東京の番組『吉木りさに怒られたい』が当てはまる。

刺さる企画の構造は、①自分自身のやりたいこと、②会社の強み、③ニーズが掛け合わさっているとのこと。もっとも重要なのは①で、自分の心が動く、知的好奇心やいたずら心が湧くようなことを深掘りする。これに③社会のニーズがうまく噛み合うとヒットする。①〜③をすべて含むと最高の企画だという。

さらに、フリーランスの戦略として重要なのが「期待値調整」だと高橋氏。100発100中でヒットを出すのは難しい。「3回に1回ヒットが出ればいいほうだ」などのロジックを持ち、クライアントと期待値を調整しておくとトラブルを避けやすいそうだ。

GO 三浦 崇宏氏による「クリエイティブ力」の鍛え方

プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会の公式ホームページより

続いては、クリエイティビティを核に企業のプロモーションや新規事業立ち上げなどを展開するThe Breakthrough Company GOの代表・三浦 崇宏氏のセッションから。三浦氏が考えるクリエイティブ力とは、想像して、創造する力。他社や世の中のちょっと先の未来を想像し、それをきっかけに何かを創造する能力を指すという。

クリエイティブ力は、今後ますます求められる能力だと訴えた三浦氏(筆者撮影)

クリエイティブの高め方は、シンプルにインプットを増やすこと。といっても劇的に増やすのは難しいので質を高めることに注力するといい。インプットを吸収しやすい状態をつくるのがポイントで、常に多くの課題を抱えておくことだ。すると、さまざまな事柄に対して自身のアンテナが立つので、結果的にインプットの吸収率が良くなるそうだ。

The Breakthrough Company GOでは、新時代のクリエイティブ力やビジネスプロデュース力の養成プログラム「THE CREATIVE ACADEMY」も提供している。こういったプログラムを利用するのも良いかもしれない。

フリーランスの生き残り戦略においては、以下のアドバイスに納得感があった。

「フリーランスにとって報酬の考え方は大切で、お金だけで考えると詰む。人脈や経験も報酬だと考えて、仕事のバランスを調整するといい。実績の示し方は『変化の幅×関与の度合い』で考えよう。自身の価値は『希少性』で決まる。価値を高めたければ、希少性を高める必要がある」

フリーランスパートナーシップアワードの大賞は?

スペシャルセッションの出演者、及びフリーランスパートナーシップアワードの出場者(提供:プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会)

本イベントでは、フリーランスと良い関係性を築いてプロジェクトを成功させた企業を表彰する「第5回フリーランスパートナーシップアワード」の本選も実施された。筆者は初めて同アワードを鑑賞したが、フリーランスの可能性を再認識できた。今回、ファイナリストに選ばれたのは以下の5社となる。

①ゴトー電機株式会社
発売2カ月で年間予測を達成 フリーランスエンジニアとのタッグで13年ぶりの新商品開発

②株式会社出前館
フリーランスも主戦力のチームでデザインを内製化 一貫性のあるクリエイティブで一躍テック企業へ

③ニチノウ食品株式会社
ふるさと納税ランクイン! シニアのプロ人材と挑んだ知見ゼロからのジェラートづくり

④山二造酢株式会社
プロ人材の猛アタックでリベンジ実現! 歴史的醸造メーカーのリブランディングプロジェクト

⑤一般社団法人ONE X・大田区役所
町工場・商店街の新たな挑戦。副業人材のバックアップで11件の新規事業を創出して、自走する街へ

審査員を務めたのは、慶應義塾大学 SFC研究所上席所員でありキャリア論の第一人者といわれる高橋俊介氏、前Business Insider Japan統括編集長、 元AERA編集長で現在はフリージャーナリスト、及びリクルートのWokks編集長を務める浜田敬子氏の2名。

左からニチノウ食品株式会社 代表取締役社長 有賀哲哉氏、​フリーランスコンサルタント 島森清孝氏(提供:プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会)

高橋俊介特別審査員賞を受賞したのは長野県のニチノウ食品だ。グリコで長年アイスクリームの開発・マーケティングを担当していたシニアのフリーランスコンサルタントと協業してピスタチオのジェラートを半年間で開発、ふるさと納税のサイト「ふるさとチョイス」のジェラート部門で全国1位を獲得した。

左から山二造酢株式会社 代表取締役 岩橋邦晃氏、​フリーランスチーム統括リーダー 木下亮氏(提供:プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会)

浜田敬子特別審査員賞を受賞したのは、三重県の山二造酢。東京在住の副業人材7名がチームを組み、同社の飲む酢シリーズを「伊勢のクラフト酢」としてリブランディングした。商品開発は得意でも「売る」ことに課題があった同社だが、この協業によって首都圏での販売拡大が実現している。

左から、一般社団法人ONE X 共同代表理事 太谷成秀様、大田区役所 産業経済部 瀧ヶ﨑俊輔様(提供:プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会)

そして、WEB投票でもっとも票を集めた大賞の受賞者は、ONE Xと大田区役所だった。大企業に所属する若手社会人らが立ち上げたONE Xと大田区役所がタッグを組み、2021年度より「大田区SDGs副業」を始動。町工場や商店街が大田区内外の副業人材と協業し、さまざまなプロジェクトに挑戦しながら持続可能な街づくりをめざす試みだ。これまでに、商店街のアーケードフラッグの有償広告事業化、商店街店舗のデジタルマーケティングなど11の事業を実現している。

スペシャルセッション「個人が活躍できる社会」のために

スペシャルセッションに登壇した4名(左から平田 麻莉氏、家入 一真氏、榎本 温子氏、ホンマエリ(キュンチョメ)氏/提供:プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会)

最後は注目度が高かったスペシャルセッションで語られた、フリーランスのリアルな課題について触れたい。登壇者は、CAMPFIRE 代表の家入 一真氏、声優・ナレーターの榎本 温子氏、アーティストのホンマエリ(キュンチョメ)氏、プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 代表理事、フリーランスPRプランナーの平田 麻莉氏の4名だ。

インターネットの発展により個人が声をあげやすくなり、あらゆることが民主化されるようになった。場所を問わずに仕事ができる環境も整いつつある。一方で、クライアントワークにおいて立場が弱くなりがちなフリーランスは、セクハラやダンピング等の問題に巻き込まれやすい。

ホンマ氏(写真右)は表現にまつわる現場で起きている「セクハラ」や「ジェンダーギャップ」に切り込んだ(提供:プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会)

例えば、ホンマ氏から指摘があったのは、アートや演劇といった表現にまつわる現場での「ジェンダーギャップ」の大きさだ。ホンマ氏がメンバーとして参加する「表現の現場調査団」では、業界のジェンダーバランスを調べた「ジェンダーバランス白書2022」を発表している。

美術・音楽・演劇など全9分野を調査。%の数字は男性率を表している(表現の現場 ジェンダーバランス白書 2022より)

芸術分野では審査員を務めるのは約70%が男性であり、コンテストなどの受賞者もまた男性が過半数以上を占める分野が目立つ。教育機関にもギャップがあり、例えば美術大学は約75%の学生が女性だが、教授は男性が約80%を占める。学生にとってロールモデルを見つける機会が少なく、卒業後も男女不均衡を「仕方がない」と受け入れかねない懸念があるそうだ。

榎本氏は声優業界を変えていこうと、業界の課題を積極的に発信している(提供:プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会)

また、声優・ナレーターとして業界歴が長い榎本氏は、声優業界の報酬の低さに言及。日本俳優連合に所属する声優は、実力や経験などに応じたランク制となっており、その報酬はかなり低い水準で一律に決められている。アニメ出演以外の仕事ではランク制に縛られないながらも、やはり報酬設定が低く、立場の弱さから金額交渉もしづらいという。

個人が活躍できる社会にしていくために、フリーランスや副業者を買い叩くようなクライアントとは縁を切り、フェアに働けるクラアントを選んでほしいと榎本氏は呼びかけた。ホンマ氏は、フリーランス同士の横のつながりを作り、悪質なクライアントなどの情報交換をして、強くしたたかに生き残りましょうとエールを送った。

CAMPFIRE代表の家入氏は、個人や企業が挑戦できるプラットフォーム事業を通じてビジョンや目的の達成を後押しする(提供:プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会)

フリーランス9年目となる筆者にとって、本イベントは「個人がもっと輝ける未来」への手応えを感じた場となった。インボイス制度やら国民健康保険の年間上限額の引き上げやら、度重なる負担増にうんざりすることもあるが、私たち一人ひとりが声をあげながら、個人も会社員もより働きやすい未来を築いていきたいと思った。

取材・文:小林香織

<取材協力>
一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会(https://www.freelance-jp.org/