AIは今世紀に入ってから目覚ましく成長してきた。2000年代にはビッグデータが台頭。計算能力の向上とディープラーニング技術の開発が後押しし、AIは大きな進歩を遂げた。2010年代にはGoogle、アマゾン、Facebookなどの巨大企業が自社製品にAIを組み込むようになり、AIは主流となった。

2020年代に入ってからはAI技術が進歩するペースが一段と速まっている。ジェネレーティブAIもそんな技術の1つ。トレーニングされたデータに基づき、質の高いテキストや画像、その他のコンテンツを生成することができるディープラーニングAIモデルだ。

AIが進化するのに伴い、問題も発生している。計算負荷が増大の一途をたどり、必然的に電力消費量は増え、二酸化炭素(CO2)排出量も増加。気候危機の一端を担う結果となっているのだ。その一方で、AIが進化することで、環境問題を解決に導く手段になり得ることが分かっている。

企業間の競争に勝つためには、ジェネレーティブAIを採用せよ

マッキンゼー&カンパニーが昨年5〜8月に、世界の企業約1,500社を対象に実施した「グローバル・サーベイ・オンAI」によると、2017年と比較してAIを取り入れた企業は2倍になったという。今後3年間で組織のAIへの投資が増加すると予想するのは、回答者の63%にも上った。

また24の産業分野、30カ国にわたる3,000人のCEOを対象にした聞き取り調査も行われており、半数近くがジェネレーティブAIをすでに製品やサービスに取り入れているという。

これは、データをもとに研究調査を行うIBMインスティチュート・フォー・ビジネスバリューが、英国のマクロ経済調査会社オックスフォード・エコノミクスの協力を得て実現した。年に1度の「IBM C-スイート・スタディ」の一環だ。CEOの4人に3人までもが、最先端のジェネレーティブAIを持つ組織が競争優位に立つと考えていることも分かった。

このような背景下で、ジェネレーティブAIを搭載したツールやプラットフォームの構築競争が激化している。

情報通信技術セクターのCO2排出量は航空業界より多い

© Jeff Head

英国のカーボン・コンサルタントであるシャーロット・フライタグ氏らは、情報通信技術(ICT)セクターが気候に及ぼす影響についてを論文にまとめた。

それによると、2021年、同セクターは世界の温室効果ガス(GHG)排出量の1.8~3.9%を占めていたという。よく批判を浴びる航空業界の2023年の排出量は2%なので、それと同じかむしろ多いことになる。

CO2の排出量は、ChatGPTの基礎となるGPT-3のトレーニングの場合、1287MWhの電力を消費し、550Mt以上と推測される。これは、自動車が製品寿命の間に排出するCO2の量の約10倍に当たるとスタンフォード大学は指摘する。

マサチューセッツ大学アマースト校の研究者による2019年の研究によれば、ディープラーニング・アルゴリズムの一種であるTransformerのトレーニング中に消費される電力によって、その量は約284t以上になるとされる。これは、ニューヨークとオーストラリアのシドニーを往復する飛行機41便分の排出量に相当する。

マサチューセッツ工科大学の調べでは、MetaのOpen Pre-trained Transformer(OPT)は、75Mtを超えるCO2を排出したという。

トレーニングに留まらず、何百万人ものユーザーがこうしたモデルを使用すれば、電力需要はさらに拡大。CO2排出量が増えることは避けられない。

また、一般的な検索エンジンにジェネレーティブAIを組み込んだとしよう。すると、検索1件当たり、スタンドアローン製品と比較して4倍もの計算能力を要する。その分、CO2排出量は増えるのだ。

CO2排出を直接的に削減するのを助けてくれるジェネレーティブAI

CO2排出量を増やす原因になっているジェネレーティブAIだが、実はそれを減らすのにも役立つのだそうだ。

CO2排出量の削減を目指す企業のためには、例えば、リアルタイムのデータ収集とジェネレーティブAIを組み合わせる。すると、実際に業務のどの部分を改善すれば、大幅なCO2排出量削減を期待できるかを迅速に特定できるようになるそうだ。

AIを利用した時、最も多くCO2を排出し問題になるのが、膨大な電力を使用するデータセンターだ。センターの暖房・換気・空調などの効率化のために、AIを用いれば、即座にどの個所で効率を改善できるかを特定してくれるという。

例えば、コミュニティ・ソリューションの専門プロバイダーMaximpact社は、AIを取り入れ、建物や工場の電力消費の監視・制御・評価・管理を支援する。電力使用の自動化や、問題の特定、機器の故障を事前に検出する。

AIはカーボンアウェア・コンピューティングの実装にも有効だそうだ。再生可能エネルギー源の有無に基づき、自動的にタスクをシフトすることで、CO2排出量を削減できる。膨大な気象データを分析し、太陽光発電や風力発電からの電力収集・貯蔵・分配を、どのタイミングで行うのがいいかを教えてくれる。

例えば、米国のテクノロジー企業エヌビディア社は、電力会社による電力需要の予測、リアルタイムの停電リスクの特定、システム・インフラのメンテナンスの時予測、電力供給管理を支援するAI搭載ソリューションを提供している。

さらに、AIは保存されているデータの中でどれが価値があり、必要なのかを判断するのにも役立つという。その結果、不必要なデータを廃棄することができ、電力のみでなくコスト面での節約にも貢献する。

設計・デザインや製造面にAIを活用し、環境改善

製品のデザインや製造においても、ジェネレーティブAIを取り入れれば環境改善につなげることができる。最新の研究にアクセスし、シミュレーションやモデリングを作成。サステナビリティに配慮した設計・デザインをテストする。

エアバスは、AutoCADに代表される図面作成 (CAD) ソフトウェアを主に開発するオートデスクとの協力の下、ジェネレーティブ・デザイン・プロセス上でAIアルゴリズムを使用。航空機の部品の軽量化を実践している。従来の部品より45%軽くすることができ、A320型機全体に取り入れれば、エアバスの年間CO2排出量は50万t近く削減すると予測されている。

CSR報告書作成から、気候危機啓発・情報提供まで

企業の社会的責任(CSR)報告書を簡単に準備できるように支援するジェネレーティブAIツールもある。エンタープライズAIに特化したテクノロジー企業C3 AIは、ジェネレーティブAIを使ってバラバラなESGデータを一元化して保存し、CSR報告書作成を自動化している。

また、2021年にはカナダのケベック・AI・インスティチュートのMila社のAI研究者チームが、気候変動が地球上に及ぼす影響を実際目にすることができるウェブサイト「ディス・クライメート・ダズ・ノット・エグジスト」を発表している。

ジェネレーティブAIを用い、Googleストリートビュー上で検索された住所に及ぼす気候変動の影響をリアルなフィルターをかけて生成している。気候変動に対する世界の対応が遅れ続けた場合に起こりうるシナリオをビジュアルで表現することで、ユーザーの意識を高めるのが目的だという。

さらに、気候に関する一般人の質問に答えるAIツ―ルが今年4月、フランスで誕生した。「クライメートQ&A」はフランスのデータ・AI企業Ekimetrics社が開発したもので、AIアルゴリズムが質問を解釈し、ChatGPTを通し、シンプルな回答を返す。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)など、信頼の置ける組織による報告書からのみ情報を引き出すようにし、信ぴょう性の高い答えを返す。ユーザーが広範で質の高い情報に素早くアクセスできるように意図されている。

AIを用いた気候危機に対する解決策のコンペ開催

© Conservation X Labs

ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)と、BCGの技術構築・デザイン部門BCG Xをナレッジ・パートナーとし、イノベーション戦略コンサルティング会社のスタートアップ・インサイド社が設立したアライアンスが、AI・フォー・ザ・プラネットだ。

気候変動に対するAIソリューションを広範囲に推進するために2020年に設立された、中立的かつ国際的な連合組織であり、研究とアドボカシー活動を通じて同分野における世界的な取り組みのカタリストになることを目指す。AI ・フォー・グッド財団、国連開発計画(UNDP)、国連教育科学文化機関(UNESCO)、国連情報通信技術局(OICT)も協力している。

AI・フォー・ザ・プラネットは昨年、AIを用いた気候危機に対する解決策のコンペ、第1回コール・フォー・ソリューション・コンペティションを開催し、3社が各々賞を受賞した。

イスラエルを拠点とするアルボ・クライメート社は、衛星画像にAIを適用し、炭素隔離のマッピング、測定、モニタリング、炭素除去のスケールアップを行うスタートアップだ。地理空間モニタリングとディープラーニングの専門知識を組み合わせており、林業、農業、ブルーカーボンを含む、さまざまな生態系の炭素クレジット検証のためのリモートセンシングソリューションを開発している。

ハスク・パワー・システムズ社は、米国コロラド州フォートコリンズが本拠地。主に再生可能エネルギーのミニグリッド/マイクログリッドを構築し、東西アフリカ、南アジアのオフグリッドまたは弱グリッド農村コミュニティにクリーンエネルギー・サービスを提供している。

米国・ワシントンDCを拠点とした、コンサベーション・X・ラボは第六次大量絶滅を阻止するために、テクノロジーやオープンイノベーションを応用し、その根本的な解決策を開発・実践している。特に「センティネル」はCXLのAIツールキットで、トレイルカメラや音響レコーダーのような野生生物モニタリングツールをAI技術でアップグレード。外来種の拡散防止や野生生物の密売防止などを図り、何百万台ものモニタリング機器を操る。

2022年5月に実施されたBCGの調査によると、気候変動やAI分野を担当する世界の官民リーダーの87%もが、AIは気候危機に有効な対抗策だと考えている。そしてこれらリーダーの43%が、気候危機抑制の目標達成にAIを活用することを想定していると回答している。

莫大な量のCO2を排出するAIと気候危機から地球を救うAI。AIは2つの顔を持つ。決してそのCO2排出量に目をつぶるわけにはいかないが、気候危機に立ち向かう役割を持つ面を評価し、AIに期待したい。

文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit