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OpenAI、ロンドンに初の海外拠点開設
ChatGPT開発企業のOpenAIが海外展開を本格化させている。ポーランドやフランスなどが候補に挙がる中、初の国際拠点として選ばれたのは英ロンドンだ。
OpenAIのサム・アルトマンCEOは、ロンドン拠点開設を通じて研究とエンジニアリング能力の向上を目指すと発言している。
アルトマンCEOの発言通り、ロンドンはAI分野における大学・研究機関や人材が豊富で、AI企業の研究開発拠点としてはうってつけの都市だ。アルファベット傘下でロンドンを拠点とするディープマインドの影響もあり、AIスタートアップのエコシステムが構築されており、AI人材や投資が集まりやすい環境も整っている。Techcrunchが伝えたレポートによると、2021年時点でロンドンには1300社のAI企業が存在していることが明らかになっている。
こうした要因に加え、政治的な理由もOpenAIが拠点開設した理由になっていると思われる。1つは、欧州の厳しい規制を避けつつ、欧州展開を見据えることができる点だ。数年かかるといわれているが、現在欧州議会では、ジェネレーティブAIを対象にした新しい法規制の議論が進められている。施行されれば、ジェネレーティブAIを対象にした世界初の法律になるといわれており、その動向に注目が集まっている。
一方、英国でも選挙におけるディスインフォメーション対策などAI規制の議論がなされているが、現在のところ既存の法規制枠組みの中でAIを取り扱う方針といわれており、欧州ほど厳しい環境にはなっていない。
欧州とは対照的に「緩い規制」のイメージが醸成されており、これまでにもOpenAIだけでなく、米データ分析企業PalantirやAI機能を拡充しているプラットフォームCanvaなどのテック企業が次々とロンドンに欧州オフィスを開設している。
英スナク首相の野心
英スナク首相の英国をAI大国に押し上げるという野望もOpenAIの拠点開設に影響した可能性がある。
スナク首相は2023年6月7日、主要な経済国、AI企業、研究者らを一同に集めたグローバルAIサミットを今秋にも開催する計画を明らかにしたのだ。世界的なサミットを開催することで、AIへのコミットメントを国内外にアピールするのが狙いとされる。
この数週間前スナク首相は、OpenAIのアルトマンCEO、ディープマインドのデミス・ハサビスCEO、Anthropicのダリオ・アモデイCEOらと会談しており、直接的に英国のAIに対する方針を説明していたとみられる。
スナク首相のAIアピールは国内の選挙事情も絡んでいる。英国では、2025年1月28日までに次の総選挙が実施される予定であるが、スナク首相が属する与党保守党が12年ぶりに現野党の労働党に敗れる可能性が予想されているのだ。インフレによる生活費の高騰、マクロ経済の低成長などが背景にある。
この状況下、スナク首相はAIを活用することで、生産性を高め経済を底上げし、支持率を高めることを狙っている。具体的には、AIを活用し、国民から不満が出ている医療サービスの待ち時間の短縮や教育の質を高めるため教師の仕事量を軽減するなどの計画を明らかにしている。
英国シンクタンクOnwardによると、保守党の支持層で最大となるのは、55〜64歳と65歳以上の高齢者で、AI取り組みへの関心が低い可能性がある。しかし、特にAIを活用した医療サービスの改善をアピールすることで、高齢者におけるAIへの関心と支持率を同時に高めることができるかもしれない。
英国だけじゃないAI大国目指す各国
AI開発の主導権を狙うのは英国だけではない。
2020年以来、Tortoise Mediaは毎年AIの主導権を競う国々をランク付けする「グローバルAI指数」を発表している。その最新版がこのほど発表された。ランキングを構成する主な要素は、人材、インフラ、運用環境、研究、開発、政府戦略、商業環境。
最新のグローバルAI指数によると、大差をつけて首位となったのは米国だ。これに2位の中国が続く。2020年の第1回ランキング以来、米国1位、中国2位という構図は変わっていない。ChatGPT開発のOpenAI、グーグル、マイクロソフト、メタなど、ジェネレーティブAI分野の主要企業のほとんどが米国企業であることを鑑みると、米国の優勢は明らかだろう。
注目は、3以下の動きだ。これまでは英国が3位という状況が続いたが、最新ランキングでは英国は4位に後退、その座をシンガポールに奪われてしまったのだ。シンガポールは、2020年に10位だったが、徐々に順位を上げ今年3位に上昇。人材、インフラ、研究、開発、商業環境で評価が高かったことに加え、「相対的なAI開発能力(intensity)」が1位となったことが総合順位を引き上げた。相対的なAI開発能力は、イスラエルやスイスも高い数値を示している。ちなみに相対的なAI開発能力でみると、米国は5位、中国は21位、英国は10位となる。
総合順位のトップ10は、1位米国、2位中国、3位シンガポール、4位英国、5位カナダ、6位韓国、7位イスラエル、8位ドイツ、9位スイス、10位フィンランド。以下、11位オランダ、12位日本、13位フランス、14位インド、15位オーストラリア、16位デンマーク、17位スウェーデン、18位ルクセンブルク、19位アイルランド、20位オーストリアとなった。
米シンクタンクのブルッキングス研究所によると、これまで少なくとも34カ国からAI国家戦略が発表されている。米国に続き、どの国がAI開発の主導権を握るのか、英国やシンガポールなどの動向から目が離せない。
文:細谷元(Livit)