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ジェンダー、年齢、結婚など、あなたは何かに捉われていると感じたことはないだろうか。ダイバーシティが重視されLGBT理解増進法案が可決された今、若者たちはジェンダーに関して比較的柔軟な思考を持っており、ジェンダーレスな考えが一般的となりつつある。一方で、年齢へのこだわりや偏見はまだ根強く存在しているようだ。
セイコーグループでは6月10日の『時の記念日』にちなみ、毎年“時間”に対する意識調査を実施。『セイコー時間白書2023』によると、10代の若者たちは年齢による制限を強く感じ、人生への不安や焦りを抱いているとする結果が示されている。
本記事では『セイコー時間白書2023』の調査結果に基づいて、各世代の年齢に対する意識に迫り、今の若者が持つべき視点をお伝えしたい。
学びにリミットを設けている10代
まず、学びに対する認識を見ていく。「学校での学び」を済ませておくべき年代について、世間的な圧力を感じる上限は「20代以下」とする答えが全体の63.5%を占め、特に10代の回答では72.5%と最も高い結果となった。世界のなかでも珍しい新卒一括採用の流れがある日本では、学びは若いうちに済ますべきとする考えが強いのかもしれない。

一方で、自分の人生において「学校での学び」に挑戦できると思う上限年代を聞くと、「30代以下」とする回答が全体の45.6%となっている。「何歳でも挑戦できる」とした人は28.3%で、常識や年齢に捉われずに学びたい人が少なくはない印象だ。しかし10代に限って見ると、51.0%と約半数が「20代以下」までしか挑戦できないと回答している。

学びについては、昨今“リスキリング”の言葉も聞かれるようになった。“リスキリング”とは、新しい仕事に就くため、または新しい業務に対応するために学び直すことを指す。
リスキリングについては学び直すという性質から、上限の年代に関して「(世間からの)圧力を感じない」とする答えが全体の49.5%と半数を占めている。しかし、自身が考えるリスキリングの上限年代は、「30代以下」との答えが全体では15.0%であるのに対し10代では31.0%と他の世代に比べて高く、制限をかけている傾向が見られた。

半数が「30代まで」の圧力を感じる結婚
年齢を気にする人のなかには、「結婚」の二文字を思い浮かべる人もいるかもしれない。全体では約半数の53.1%が「30代まで」に結婚をすべきという世間的な圧力を感じているようだ。世代が若くなるほどその傾向は強まり、10代では67.5%と高い結果が示されている。

自分自身の価値観としてはどうか——。「30代まで」と答えた人は35.2%と低く、「何歳でもよい」とする答えが多い。しかし、こちらも10代を見てみると「何歳でもよい」との回答は18.5%に留まり、他の世代と比べ年齢に縛られていることが明らかになった。最近はあまり耳にしなくなった言葉だが、いわゆる“結婚適齢期”に結婚すべきとする価値観が若者の常識として広まっている。

ステレオタイプな圧力を感じた経験は7割超え
「もう○歳なのだから」と、人から年齢に対する固定観念を押し付けられた経験はないだろうか。あるいは「もう○歳だから○○しなければならない」と自分自身に制限を設け、ステレオタイプに自らを縛りつけてしまった経験がある人もいるだろう。
年齢に関する社会通念とのギャップを言及された経験がある人は、71.8%に及んでいるという。「そろそろ結婚しないの?と言われることがある(50代男性)」「50代からの再就職を否定された(60代女性)」など、結婚や働き方に関する話が多い。

しかし、なかにはポジティブな意見もあるようだ。
「10代だったらもっと遊んでもよいのに、勉強もアルバイトも頑張っているね(10代女性)」「50代からまったく違う仕事を始め10年。スキルアップして楽しくなってきた。70過ぎても充分に働けるねと周りから認めてもらえた(60代女性)」といった声もあがっている。
他人との比較も10代が高い傾向
人生に対する不安も10代が一番多く抱えており、他人の目を気にする傾向にあるようだ。
「将来の先行きが見えず不安だ」との答えはどの世代も半数を超えているが、20代では77.0%、10代では82.0%と若いほど不安感が強くなっている。また「他人の人生と自分の人生を比較してしまう」という答えは全体で半数を割ったが、20代では56.5%、10代では66.5%と半数を超えている。さらに「若くないと価値がない」とする回答は全体で27.5%であったが、20代では36.5%、10代では39.0%と、やはり若い世代ほど年齢を気にする傾向が示された。

年齢に縛られている若者が少なくないようだが、こうした不安や焦りは年齢を重ねるほどに解消されていくことがうかがえる。
60代の72.5%が「昔よりも他人の生き方を気にしなくなった」、59.0%が「昔心配していたよりも今が充実している」と回答。人生経験を重ねることで自己分析ができるようになり、“自分らしさ”が確立されていくからだろう。

若い時は学校という閉鎖的な環境にいるため、同世代との関わりを通して嫌でも比較や競争をしてしまう。自己受容を高めるには、さまざまな環境に身を置くことで多様性を実感する経験が必要なのかもしれない。
専門家に聞く、若者が不安を感じやすい理由とは
時間学が専門の千葉大学大学院 人文科学研究員教授 一川 誠氏は、調査結果を踏まえ、若者が不安を感じやすい理由を以下のように分析している。
「彼らが不安を感じるのは、人生経験の少なさゆえです。人と比べることで自分の立ち位置を認識し、不安を拭いたがり、前のめりになりやすい。自尊心を維持するために何者かになりたい、他者や社会から認められたいと承認欲求が強くなる。こういった傾向は、まだ自己に対する評価が定められないために生じます」(一川氏)
年齢を重ねるほどに不安や焦りが解消されていくことがわかる調査結果を紹介したが、一川氏いわく、年齢とともに経験も増え、自身で判断ができるようになり、さらには失敗した経験も記憶のなかで成功体験に書き換えられやすくなるという。
「年を重ねることで自信が生まれ、他者と自分を比べることも減り『今が充実している』と堂々と言えるようになるのです。ですから、若い人たちには将来が不安でも他人のことが気になっても、SNSでの『いいね!』が少なくても、『きっと大丈夫』と声をかけてあげたいですね」(一川氏)
“エイジレスな生き方”を肯定する世の中に
今、世の中には固定観念に縛られないさまざまな価値観が広まりつつある。一方で、「○歳だから○○しなければならない」「もう○歳では○○できない」といった年齢に対する固定観念が、若者ほど足枷となっていることは憂慮すべきだ。
さまざまなメディアには、若者の流行りを“正”とし、おじさんおばさん世代の文化を古いものと位置づけて対立構造を生むコンテンツが散見される。筆者は、こうしたメディアの姿勢も年齢に対するステレオタイプを助長しており、見直す必要があると感じている。
年齢を意識することで計画的な人生設計ができるかもしれない。しかし、それが固定観念に捉われたものであれば、幸せな未来は遠のくだろう。本当に自分が望んでいる道筋であるかどうかが、幸せな人生への鍵となる。さまざまな事柄がボーダーレスへとシフトしているからこそ、年齢という概念に縛られず、何歳からでも学べる、何歳からでも挑戦できると、“エイジレスな生き方”を肯定できる世の中が望ましい。
年齢を重ねることが変えようのない事実であるならば、加齢をポジティブに捉えられるマインドセットを若いうちから持っておきたいものだ。その方が早くから幸せな人生に近づくのではないだろうか。