世界経済フォーラムによる「ジェンダー・ギャップ・レポート・2022」によると、世界146カ国の男女格差は約68%縮まり、現在の進捗率でいった場合、格差がなくなるまでに132年かかるとの予測だった。136年だった2021年と比較すると、4年改善されたことになるものの、2020年までは、100年以内に解消されるとの予測だったことを考えると、132という年数は長いといえそうだ。

性別による格差を縮めるために役立つと考えられているのが、「ジェンダー・クリエイティブ・ペアレンティング(記事中ではGCPと略す)」だ。「ジェンダー・レスポンシブ・ペアレンティング」「ジェンダー・ニュートラル・ペアレンティング」と呼ばれることもある。

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一言でいえば、生まれてきた子どものジェンダーを、子ども自身に決めさせるべく、育てるという育児法。このコンセプトを支持・実践し、社会に広めるよう努めているのが、米国在住の社会学者、カイル・マイヤー博士だ。マイヤー博士には、『Raising Them: Our Adventure in Gender Creative Parenting』などの著作があり、いわばGCPの「顔」的な存在になっている。 

『タイム』誌は、マイヤー博士の同書出版に合わせ、2020年9月に、その引用記事を掲載している。自らの子育てにGCPを取り入れる理由を、子どもに、人は性別を超える存在であることを知ってほしかったと、博士は話している。

本人が自認するまで、子どものジェンダーは「?」

マイヤー博士は2016年生まれのズーマーと、今年3月に生まれたネオン・Bの母親だ。言うまでもなく、GCPで2人とも育てている。

博士は、GCPの定義は明確に決まっているわけではないとしながらも、性別は性器で決まるものではないこと、性別は多種多様で、流動的なものであること、誰もが公平な扱い、尊敬、優しさを受けるに値することを、日々意図的に子どもたちに教える育児法だと、女性が住みやすい世界を目指すウェブサイト「ママミア」に説明している。

そして、子どもが、自分が男の子なのか、女の子なのか、ノンバイナリー(身体上の性別ではなく、認識上の性別が男性・女性の性別のどちらにも、ぴったり当てはまらない、当てはめたくないという考え)なのかを自認し、親に教えてくれるまで、男女という枠にとらわれずに育てていく。

また、米国の発達心理学者、クリスティア・スピアーズ・ブラウン博士も、ケア関連の会員制オンラインサービス「ケアcom.」に、GCPは「性別の固定観念を捨て、子どもの個性に焦点を当てる」育児法だと話す。子どもたちに、ジェンダーは二元制を超えた多様なものだと知ってもらうことを大切だと考える。そして、親は積極的に、そのプロセスに関わる必要があると解説する。

「ピンクの服は女の子のもの、ブルーの服は男の子のもの」ではない

ブラウン博士は、ジェンダーに対し、固定観念が少ない子どもを育てたいのなら、社会から受けるジェンダー・メッセージ(コンテクスト上、ジェンダーのあり方が意味づけられているメッセージ)に対抗できるようにしなくてはならないと、親にアドバイスする。会話の中で、男女を使う頻度や、ほかの人についてどのように話すかを意識する必要がある。

子どもをプロナウン(人称代名詞)で呼ぶ際には、「They/them」を使う。男性は「He/him」、女性であれば「She/her」だが、子どもがまだ自分のジェンダーを自覚していないので、どちらでもないためだ。

ピンクの服は女の子のもの、ブルーの服は男の子のものというように、服などに男女のレッテルを張らないようにする。色に関係なく、誰もがどんな服も着ることができることを、子どもに話して聞かせる。社会は、男女という二元的な展開を見せるが、実際のところ、それだけではないことを気づかせてやる。

おもちゃや遊び、スポーツ、アクティビティも同様だ。例えば、おもちゃであれば、女の子なら人形、男の子ならミニカー、スポーツであれば、女の子ならバレエ、男の子ならサッカーといった具合。ジェンダー・ステレオタイプは、GCPには必要ない。

GCP普及の立役者は、SNS

オンライン・アプリであるリアル・リサーチによって昨年10月に世界約110カ国に住む3万人を対象にGCPに関する世論調査が行われた。

それによると、約85%がGCPのことを知っており、さらにそのうちの約63%が熟知していると回答している。また約48%が、GCPを実践しているという。

GCPの広まりには、SNSが一役買っているようだ。ノンバイナリーの子どもを持つ家族のTikTokや、Facebookグループを見て、GCPのことを知った人は少なくない。

ハッシュタグ#gendercreativeparentingは、1億7500万回以上再生されている。マイヤーズ博士がGCPで子どもを育てる過程を投稿した動画の1つは、120万件の「いいね」を獲得している。

GCPのおかげで、友人や家族と関係がこじれる可能性も

やはり米国でGCPを実践する母親の1人は、子どもたちを安全に、協力的な環境下で育てるための最大のステップは、家族や友人にGCPに賛同してもらうことだったという。確かに、家族などの周囲の人たちにGCPを理解の上、共に実践してもらえるかどうかで、GCPの成功・失敗が決まるかもしれない。

マイヤー博士は、友人の中には、性別にとらわれない子育てをすることを決めたせいで、家族との人間関係に亀裂が入ったり、連絡が取れなくなったりした人がいると言う。預かっている間に、従来のステレオタイプな考えを孫に押し付けるなど、GCPに反する行動をとる祖父母の話も聞く。

「子どもが混乱する」というのが、一般的によく聞かれる批判だという。しかし、マイヤー博士は、ズーマーはそんな兆候を見せることなく、ペニスがある女の子や、外陰部がある男の子がいることをごく普通に理解していると言う。

GCPは子どものみならず、親にまで利点をもたらす

GCPで子育てをするメリットは、ステレオタイプな性別に起因する行動や考えの制限、期待にとらわれずに、子どもが表現したいことを自由に表現することができることだと、マイヤー博士は話す。

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また米国・ニューヨークにあるレノックス・ヒル病院の児童青年精神医学部部長、ショーナ・ニューマン博士は、生活に自分の人格が反映されていればいるほど、違った視点を持つ仲間を受け入れられると、『USAトゥディ』紙に話している。子どもの性表現を制限せずに受け入れることは、社会に良い影響を及ぼす。

GCPのおかげで恩恵を得るのは、子どもだけではなく、親もだ。子どもと最も近い関係である、両親の行動や生活はGCPが土台になっていなくてはならない。家事・子育ては両親の間で平等に分担されるべきだ。女性である親が中心になって、子どもの世話をしなくても、男性である親が主たる稼ぎ手でなくでも、構わない。両親がまず、子どものお手本になる生活を送る。一世帯ずつ、こうしてジェンダー・ステレオタイプから解放されていく。

ユニセフにとって、GCPは男女平等実現のための重要な戦略の1つ

GCPは子ども、親、家族だけでなく、社会にも好影響を与える。GCPの究極の目標について、マイヤー博士は、自らが主宰するウェブサイト「レイジング・ズーマー」で、「一言で言えば、男女平等と、ステレオタイプ的な、性別による制限や期待にとらわれずに自己表現を行うという自由を推し進めるものだ」と話している。リアル・リサーチの世論調査でも、GCPが男女平等に有効と考えている調査対象者は約73%にも上っている。

一般人だけではない。ユニセフも、ジェンダー問題に積極的に対応し、男女平等を実現するための重要な戦略の1つとして、GCPを推している。

「ジェンダー・レスポンシブ・ペアレンティング」という、具体的なハウツーを公開している。その中で、子どもに「あなたは男の子なんだから」「女の子なんだから」と言い立てて、ジェンダーアイデンティティを押し付けたりせず、子どもに心を開いた育成環境を用意し、子どもが自分自身でアイデンティティと主体性を育めるようにすることを、重要かつ具体的なアドバイスとして挙げている。

© Adam Jones (CC BY 2.0)

実際、2019年には、28カ国の事務所がGCP関連のプログラムを実施し、社会に働きかけた。そのうちの1つが、キューバで行われた「ファーザーズ・フロム・ザ・ビギニング」。政府と協力し、各メディアを通じて、共同育児の利点や、父親が育児参加することの価値・意義を市民に知らせた。父親向けの子育てアプリを立ち上げたところ、2000回以上ダウンロードされ、その90%を父親・男性の養育者が占めたそうだ。

GCPのゴールは、「ジェンダーレス」ではなく、「ジェンダーフル」。ジェンダーをなくすことではなく、ジェンダーに基づく抑圧・格差・暴力をなくすことだと、マイヤー博士は自著で語っている。

マイヤー博士の第一子ズーマーは、4歳の誕生日前後から、性自認を明らかにし、ズーマー「くん」になったそうだ。博士は、彼が自分で「男の子」を選んだことを、とても喜んでいる。しかし、その一方で、「彼」というプロナウンスを自らと周囲に対して知らせることができるが、実際持つ生殖器は「彼」とは関係がないということを知っておいてほしいと言い足している。

さらに、「彼」というプロナウンスを一生使うことも、時々変えることも、はたまた新しいプロナウンスを発明することもできることも、ズーマーくんは知っているという。「ジェンダーを創造するという冒険はここで終わったわけではない」と博士は、ズーマーくんの性自認報告のポストの言葉を結んでいる。男女平等への道も同様に、今後も続く。

文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit