最近ニュースでも頻繁に取り上げられているChatGPT。AI革命との呼び声も高く、日本語での自然な会話応答にも注目が集まっている。こうしたジェネレーティブAI市場が活発化している今、ChatGPTの後継も続々と登場してくるとの予測だ。

話題騒然、高性能のChatGPT

話題のChatGPTは、チャットボットの中でも特に性能が高いとして話題になっている。アメリカでの報道でも「Haiku(俳句)を詠み、イタリア語で冗談を言う」と称されるほど、英語に限らない言語能力が高い。日本でもその自然な会話体と充実した内容が、これまでになかったチャットボットとして注目を浴びている。

実際に会話をしているようなコミュニケーション性能があり、質問への回答も流暢だ。こちらの問いかけにきちんと向き合っているかのような錯覚を覚え、これまでのチャットボットにありがちだった「一方的な知識(回答)を投げかけている」印象が非常に薄い。しかも質問に答えるだけではなく、文章の生成も得意で物語はもちろんのこと、歌詞や小説、論文も執筆可能だ。

実際にミネソタ大学の4つの法科大学院試験、ペンシルベニア大学のウォートンビジネススクールの試験を受験したところ、法科大学院試験ではかろうじて合格レベルのC+のスコアであったものの、ビジネススクールの試験ではB~B+の成績だったことが判明した。

ビジネススクールの教授の分析によれば、ChatGPTはベーシックなオペレーションマネジメントとプロセス分析において驚くべき成績を残す一方で、より高度な問題でのミスと基本的な数学で重大なミスを犯したとしている。

教授によるこのトライアルは、ChatGPTの性能の高さに危機感を抱いた教育者が、学生に警鐘を鳴らす意味もある。しかしながら、教授はその性能の高さを認めており、実際の試験の際には学生にインターネット接続を禁止する必要がある結論付けている。

急増するAIの利用者数と問題点も

ChatGPTの利用の恩恵を受けるのはなにも学生だけではない。メールの作成やスピーチの原稿にチャットボットをすでに使用した、とする企業のCEOもいる。執筆や思考のアシスタントとして利用するだけではない。現実的に経理の仕事をさせているとするCEOは、メールの作成の際にも利用したが誰にも気づかれなかった、と話している。

ただ前述のとおり、ChatGPTにはまだ間違いが多いことは否定できない。ChatGPTに記事を書かせていたCNETは、事実確認と訂正文の発表に追われた経緯がある。またニューヨーク市では、教師と学生の双方にChatGPTの利用が禁止されている。

とはいうもののChatGPTは昨年11月30日にアメリカでローンチされて以来2カ月でマンスリーアクティブユーザー数が1億人に到達している。これはコンシューマーアプリでは史上最速。1月の統計では1日当たりの利用者が平均して1億3000万人と12月の数値の倍以上を記録した。1億という数字はTikTokが9カ月かけて達成し、Instagramは2年半かかった数字とされ、その勢いのほどがよくわかる。

巨額を集めるOpenAI

イーロン・マスク氏が当時共同設立者として参加していたことでも知られるChatGPTを開発したOpenAI社は、人工知能の研究組織で、マイクロソフト社などが投資元として名前を連ねているため、特に注目度が高い。

今年1月5日付のウォールストリートジャーナルの報道では、評価額が290億ドル(約3兆9000億円)、ジェネレーティブAIの分野におけるスタートアップで最大規模であり、アメリカでもっとも高価なスタートアップと見込まれている。

最新報道によると、アメリカでもトップクラスのVC Founders FundとThrive Capitalは少なくとも3億ドルの購入交渉に入っているとされている。また今回の評価額は2021年のテンダー・オファー140億ドルと比較してもすでに2倍以上。投資家の関心の高さが読み取れる。しかも今年に入ってからは、マイクロソフト社がOpenAIに100億ドルの投資をしたと発表している。

ユニコーン入りするジェネレーティブAIスタートアップ

さて、一般向けに無料で開放されたこともあって一気に注目を集めたChatGPTだが、実はジェネレーティブAI市場には評価額が10億ドルを超えるユニコーンが複数存在している。

OpenAIに次ぐ規模とされるのが、Hugging Face。2022年5月にシリーズCの調達で1億ドルを達成。これによって評価額が20億ドルになったともいわれている。ML分野でのスタートアップであるが、現在は自然言語理解の領域を超えて、AI分野にも進出している。「未来をつくるAIコミュニティ」と自社をブランディングしているとおり、MLの実装にAIやデータ、モデルやライブラリを利用できるプラットフォームだ。

現在Hugging faceの利用者は5000社以上とされ、MetaやGoogle、アマゾンウェブサービス、マイクロソフトなどが含まれる。中でもアマゾンウェブサービスはこのほど、クラウドサービス拡充の一環としてHugging Faceとの協力を発表。アマゾンクラウド内でジェネレーティブAIがより利用しやすい環境を整えるとした。両者の関係は2021年からスタートしており、今回の発表は話題を席巻しているChatGPT及びマイクロソフトに対抗するものと見られているのも納得がいく。

次に挙がるのがLightricks。AIイメージジェネレーターで写真をデジタルアート作品へと編集するツールが話題になっているソフトウェア開発スタートアップで評価額は18億ドル。そして評価額15億ドルのJasperはAIコンテンツのプラットフォーム。25の言語に対応し、ブログ、SNS投稿、ウェブサイトの広告、キャプション、コピーなどのオリジナルコンテンツを短時間で生成することに特化している。

企業向けの検索プラットフォームを提供するGleanは2019年に設立し、評価額は10億ドル。ワークアシスタントとして、企業が探している情報を的確に提供するいわばGoogleのような存在だ。またStability AIは昨年10月に1億100万ドルを調達、評価額が10億ドルになりユニコーンに仲間入りした。2022年第4四半期に1億ドル以上を調達してユニコーンに新たに加わったのが、このStability AIと前述Jasperの2社だ。

高まるジェネレーティブAI市場への投資欲

ジェネレーティブAI市場が活性化する中、検索エンジンからモーションキャプチャー・アニメーションに至るまで数多くのスタートアップが市場参入している。またこのようなスタートアップのほとんどが、わずかなエクイティファンドのみ、もしくは全く受けていない状況だ。投資家にとっては、変革技術に投資をする絶好のチャンスだと提案する記事も多くみられる。

実際、2022年はベンチャー企業投資が全般的に前年比で落ちこんだ中、ジェネレーティブAI分野への投資は前年の15億ドルから26億ドル強、110取引へと記録的な伸びと規模となっている。

この分野における2022年のハイライトとしてはほかにも、シリーズBで5億8000万ドルを調達したAnthropic、シリーズAで2億2500万ドルを調達したInflection AI、そして自然言語処理ソフトウェアを手掛けるCohere、Jasperがあげられる。このうち、AnthropicはGoogleの傘下、InflectionはLinked Inの共同創始者が立ち上げたスタートアップだ。

また現在250社以上あるジェネレーティブAI企業のうち、33%が資金調達ができておらず、51%ガシリーズAの段階であることから、この領域がまだ黎明期であることをうかがわせる。

ますます身近な存在になるAI

AI技術が私たちの身近な生活に登場したのは、アマゾンが2014年に販売を開始したバーチャルアシスタント、アレクサと言われている。その後iPhoneにはSiriが無料搭載され、自社のHPにチャットボットを搭載して質問を受け付けるホテルや観光地、公共機関も増えてきた。それでも、AIの応答はどこか頼りなく、機械が返答しているのだな、と感じざるを得ないものばかりであった。

そこへ登場した自然な会話のできるChatGPTに、世界中の人たちが驚きをもって期待を抱いている。AI革命や産業革命という言葉を用いる専門家も多い中、間違えた情報の提供や、引用元が不明なために懸念される著作権の問題、学生や研究者におる論文作成の不正利用など問題も少なくない。特に厄介なのは、その堂々とした自然な会話体ゆえにChatGPTの回答の真偽を確かめることなく、情報を鵜吞みにする事象が発生する恐れがあること。前述のニュース配信の訂正などにとどまらず、予測しえない重大事象が発生する可能性も否めない。

一方で、これによってインターネット検索数は激減するとされるほか、バイオ医薬品産業では候補分子を大量に作成、試験することが可能になるため研究開発サイクルのスピードが大幅にアップ。サプライチェーンでのプロセスの最適化や、マーケティング分野でのパーソナライズ体験、投資の分析や推薦、市場データの分析、ビジネス戦略の構築サポートなどが可能になるとされ期待が高まっている。さらに今後AIは、教育やヘルスケア、環境問題といった分野でも活用され、まさに業種を問わずに必要とされるテクノロジーになるとの予測だ。

OpenAIは2023年度に2億ドルの収益を、2024年には10億ドルの収益を見込んでいると報道されている。同社が開発した今回話題のChatGPTが、産業革命と歴史的に認識される日も遠くなさそうだ。

文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit