OpenAI、3億ドル調達で評価額は290億ドルへ

ChatGPTの開発企業OpenAIをはじめジェネレーティブAIスタートアップへの投資が急速に拡大しつつある。

TechCrunchが2023年4月29日に伝えたところでは、OpenAIは、最新の資金調達ラウンドで3億ドルを調達し、評価額が270億〜290億ドルに増加した。これは、今年1月のマイクロソフトによる大口投資とは別件となる。TechCrunchは関係筋の情報などから、マイクロソフトの投資額は、約100億ドルに上ると伝えている。現時点でのOpenAIにおける外部株主の保有率は、30%以上になったという。

今回の3億ドルの資金調達ラウンドは、Sequoia Capital、Andreessen Horowitz、Thrive、K2 Globalなどのベンチャーキャピタル(VC)に加え、ピーター・ティール氏らが率いるFounders Fundが参加した。

ジェネレーティブAI企業のピッチ数80%増

ジェネレーティブAI企業へのベンチャー投資が活況しつつある状況は、複数のレポートで確認されている。

ベンチャー投資が活況する理由の1つは、新規参入するスタートアップが一気に増えたことにあるとされる。

PitchBookの4月14日までのまとめによると、2023年1〜3月期におけるジェネレーティブAIスタートアップへの投資案件は46件で、累計調達額は約17億ドルだった。これには、上記TechCrunchが報じたOpenAIの3億ドル調達やマイクロソフトによる100億ドル投資のデータは含まれていない。

この現状に対し、新規参入したスタートアップによるVCへのピッチが急増、VCも関心を持たざるを得ない状況が生み出されている。

PitchBookは、Fusion Fundの創業者兼マネージングパートナーであるルー・チャン氏の話として、直近2カ月間で、ジェネレーティブAIスタートアップ企業のピッチ数が80%増加しており、競争が激化しつつあると伝えている。ジェネレーティブAI市場は比較的参入障壁が低いことが背景にある。

また、Scale VCのマネージングディレクター兼パートナー、ブレット・カルホウン氏やAscend Venture Capitalのゼネラルパートナー、ダン・コナー氏もPitchBookの取材で、ジェネレーティブAI企業の急増を指摘している。

Cartaのまとめでも、ジェネレーティブAI企業へのベンチャー投資が増加している状況が浮き彫りとなっている。

Cartaが2022年10〜12月期と2023年1〜3月期のAIスタートアップに対する投資データを比較したところ、シリーズAでは、AI以外のスタートアップに対する投資額は、45億ドルから20億ドルと約54%の下落となった一方、AIスタートアップは4億7610万ドルから7億5400万ドルと58%以上増加したことが判明した。

カナダのCohere、2億5000万ドルを調達

PitchBookの推計では、ジェネレーティブAI市場は今後数年に渡り年間32%の成長となり、市場規模は、2023年に426億ドル、2026年には981億ドルに拡大する見込みだ。

このような強気予測を背景に、OpenAIに続く大型資金調達が増えるものと思われ、実際すでにその徴候があらわれている。

2023年5月2日、ニューヨーク・タイムズは2人の関係筋の話として、カナダのジェネレーティブAI企業Cohereが2億5000万ドルを調達したと報道。これにより、Cohereの評価額は20億ドルに増加した。この資金調達ラウンドには、カナダのInovia Capital、シリコンバレーのIndex VenturesなどのVCに加え、NVIDIA、セールスフォースといった大手企業も参加したという。

昨年のシリーズBラウンドでは、Cohereは1億2500万ドルを調達している。

Cohereは2019年に、グーグルでAI研究に取り組んでいたカナダの研究者、エイダン・ゴメス氏とニック・フロスト氏、およびカナダの起業家イバン・チャン氏らが創業したスタートアップだ。主に法人向けのAI活用プラットフォームを開発しており、資本力、研究水準などから、OpenAIに対抗できる数少ないスタートアップの1つとして注目されている。

CohereはOpenAIと同様に、ユーザーと会話できる大規模言語モデルを構築しているが、OpenAIとは異なり、ターゲットを法人に絞っている。

Financial Timesはゴメス氏の発言として、Cohereがコンシューマーを対象としておらず、法人に特化している点でOpenAIと直接競合する存在ではないと伝えている。同氏によると、現在Spotifyと提携し、AIツールを使ってポッドキャストのレコメンドや検索を改善しているほか、AIコピーライティング企業Jasperなどとも提携しているとのこと。

2023年初めには、Cohereが60億ドル以上の評価額で数億ドルの調達を目指しているという報道があったが、ある関係筋によると、その交渉は「初期段階」のもので、「数人の投資家」だけが参加していたという。また別の関係筋は、60億ドルの評価額については、「完全に誤ったもの」だと指摘している。

OpenAIに真っ向から挑むAnthropic、50億ドルの調達計画

Cohereのほか、OpenAIの元研究者らが立ち上げたAnthropicも大型の資金調達を実施、また将来的にさらに大規模な資金調達を目論んでおり、その動向が注目されている。

2023年2月、Anthropicはグーグルから3億ドルを調達。マイクロソフトによるOpenAIへの100億ドル投資に関する初期報道から間もない時期の出来事であり、AI開発競争を象徴するニュースとして関心を集めた。グーグルは、この投資により、Anthropicの株式10%を取得したといわれている。

OpenAIとは直接競合しないというCohereとは異なり、Anthropicは真っ向からOpenAIに挑む構えだ。

Anthropicの共同創業者であるダニエラ・アモデイ氏とダリオ・アモデイ氏らはともにOpenAIに所属していたが、OpenAIの方針に異を唱え、同社を辞職し、Anthropicを立ち上げた。これに伴い、OpenAIのリサーチ部門上級幹部ジャック・クラーク氏を引き抜くなど、明らかな対抗姿勢を見せている。

グーグルから3億ドルを調達したことで注目を集めたAnthropicだが、その2カ月後には、さらにアグレッシブな調達計画が明らかになったことで注目度も一層高まった。

TechCrunch4月7日の報道によると、AnthropicはOpenAIに対抗し、12以上の主要産業に参入するために、最大50億ドルの調達を計画していることが明らかになったのだ。

TechCrunchが入手したAnthropicのシリーズC資金調達のプレゼンテーション資料によると、今後18カ月間で10億ドルを投じ、「フロンティアモデル」を開発する予定。このフロンティアモデルは、現存する最も強力な大規模言語モデルの10倍の能力を持ち、様々なタスクに対応できるようになるという。開発には、数万個のGPUが必要となる計算で、調達した資金の多くがハードウェアインフラに投じられるとみられている。

Anthropicは、フロンティアモデルを利用して、法律文書の要約や分析、医療分野における応用、カスタマーサービス向けの電子メール・チャット、コーディング、コンテンツ生成、Q&Aやアドバイスのチャットボット、求人募集や面接分析の人事タスク、セラピー、コーチング、そして教育など、多様な産業に参入する計画を立てている。

Cohere、Anthropicのほか、スポーツ動画のパーソナライゼーションAIを開発するWSC Sportsが昨年のシリーズDラウンドで1億ドルを調達、マーケティング向けのコンテンツ生成AIを開発するJasperも昨年10月のラウンドで1億2500万ドルを調達するなど、ジェネレーティブAI領域における大規模なベンチャー投資事例は枚挙にいとまがない。

機械学習のトレーニングコストの低下や先端のジェネレーティブAIモデルがオープンソースで利用可能になっていることを鑑みると、今後も新規参入が増加し、それに伴いベンチャー投資もさらに活発化することが見込まれる。

文:細谷元(Livit