アラブ首長国連邦(UAE)において、ロジスティクス/交通分野におけるサステナビリティ向上に向け、電動垂直離着陸機(eVTOL)や電動エアタクシーをはじめとする空飛ぶクルマなど、次世代空モビリティ(Advanced Air Mobility:AAM)の導入が加速している。

昨年末にUAE当局が、ドバイに世界初のAAMのイノベーションハブ施設の開発計画を承認したほか、今年に入ってからは、米ロジスティクス大手に国内での電動カーゴ航空機の利用を認めるライセンスを発効。また、eVTOLを利用したエアタクシーサービスを2026年までに開始するというロードマップを示すなど、相次いで発表されるドバイのAAM関連プロジェクトを紹介する。

UnsplashOmar Bakriより  

次世代空モビリティのハブ「AAM・インテグレーター・ワールド・センター」

UAEで今年進められるAAMプロジェクトで特に注目されているのは、eVTOLの試験的な運用が可能な世界初のAAMに特化したドバイのイノベーションハブ施設「AAM・インテグレーター・ワールド・センター」だ。

今年建設を開始し、2024年に一部オープンを予定しているこの施設は、世界最大級の国際空港であるドバイ近郊のアル・マクトゥーム国際空港と、ドバイ・サウス複合施設の一部であるムハンマド・ビン・ラシド宇宙センター(MBRAH)内に位置し、飛行試験専用の空域が設けられている。

同施設には、航空交通管理やサポートサービスを含む、AAMエコシステムに関連した企業やeVTOL航空機企業の誘致が予定されており、37,000平方メートルの敷地に3年間で4000万ドルの初期投資を行う。今後25年間でドバイとアブダビに70億ドルの直接収入をもたらし、1500人の雇用創出をサポートすることが期待されている。

ドバイの次世代空モビリティ導入を進めるカナダ企業「VPorts」

ドバイの「AAM・インテグレーター・ワールド・センター」プロジェクトに深く関わっているのは、カナダに拠点を置くVPorts社だ。今年に入って、日本企業ともAAM関連の業務提携が発表されたVPorts社は、2045年までに世界で1,500のバーティポートを建設・運営することを目標としている。

米、加、UAEなどでAAMプロジェクトを進めるV Port社(V Port社ウェブサイトより)

同社は、すでにカナダのケベック州と米ニューヨーク州においてもAAMプロジェクトを進めており、UAEにおいては、このイノベーションハブに加え、国内全域でeVTOLフライトのためのバーティポート(垂直離着陸用飛行場)ネットワークを開発することを計画している。

この計画によると、まずはドバイ・サウス、ジェベル・アリ、アブダビ、シャルジャ、ラスアルカイマにバーティポートを開発し、2030年までに同国の主要工業地帯に拡張する予定。ネットワークは貨物の配送や、患者や物資、移植用の臓器などを運ぶ医療目的で活用される可能性が高いと発表されている。

ドバイは2026年までのエアタクシーサービス開始も目指す

このバーティポートのネットワークは、ロジスティクス以外にエアタクシーへの活用も期待されている。

ドバイで今年2月に開催された世界政府サミットでは、ドバイ道路交通局(RTA)、英スカイポート・インフラストラクチャー社、米カリフォルニア州に拠点を置くエアタクシー開発会社ジョビー・アビエーション社が、ドバイの将来のエアモビリティインフラネットワークに関するビジョンを共同で発表、3年後の2026年をエアタクシー導入の目標年に設定した。

ドバイで開催された世界政府サミットではエアタクシー計画も発表された(UnsplashRoman Logovより   )

ドバイ道路交通局(RTA)は、2030年までにドバイにおける移動の25%をドライバーレス化することを目指すドバイ自動運転輸送戦略に沿って、パイロット1人+乗客4人、最高速度300km/hの空中タクシーの活用計画を示している。

当初は新ドバイ国際空港、ダウンタウン、パーム・ジュメイラ、ドバイ・マリーナの4カ所に離着陸・充電施設を建設し、その後ネットワークを拡大する計画だ。

UAEの輸送分野で進められるクリーンエネルギーの導入

UAEでは、イノベーションハブ開発、空の輸送とタクシーネットワーク計画と同時に、空モビリティの電動化に向けた法的な枠組みの整備も同時に行われている。

今年3月、米大手輸送会社であるユナイテッド・パーセル・サービスに、この地域初となるクリーンエネルギーだけで走行し、排出ガスゼロのeVTOLの仮免許が承認されており、これによって、同社はUAEでeVTOLの試験的な運用を行うことが可能になった。

これは、代替エネルギーやグリーンエネルギーの導入を促進し、サプライヤーと消費者の双方にとって輸送コストを削減することを目的としている。

UAE副大統領兼首相でドバイの首長であるムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム氏は、UAEにおけるこのような取り組みが同国の輸送分野のクリーンエネルギー使用を拡大させ、「環境影響の変容に貢献しうる重要なステップ」になるはずだと述べている。

米国や日本もeVTOL開発、次世代空モビリティ導入に意欲

昨今の気候変動に対する懸念の高まりを受けて、UAE以外でも、世界各国でサステナビリティに配慮した交通手段の導入が進められており、燃料やエネルギー効率の高い次世代空モビリティへの期待の高まりもその流れに沿ったものであるといえる。

昨年8月には、国際輸送サービスを展開するグローバルロジスティックスカンパニーDHL Expressが、米電気航空機メーカー、イヴィエーション社に全電気航空機「Alice eCargo」12機を発注。前述のユナイテッド・パーセル・サービスも、2021年に米国航空宇宙メーカーで物流業界向けの電動垂直離着陸機を開発しているベータ・テクノロジーズ社から最大150機の電動貨物機を購入、2024年に納品する計画を発表した。

世界各国で空の輸送に時代に対応した変化が求められている(UnsplashS O C I A L . C U Tより)

日本においても、人や物の移動の迅速性と利便性を向上を掲げ、 2018 年から「空の移動革命に向けた官民協議会」が開催されており、2030年代の次世代空モビリティの本格普及に向けたロードマップが経済産業省・国土交通省によって制定されている。

今後10〜20年の間に、かつてサイエンスフィクションで目にしたような空の移動や物流は、より私たちの生活に身近なものになっていくかもしれない。

文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit