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「楽しい」「うれしい」を呼び起こす、エモーショナル・デザイン
エモーショナル・ウェルネスを手に入れるためには、積極的に行動に出ればいいとされている一方で、自分がアクションを起こさずとも、私たちの感情に働きかけ、エモーショナル・ウェルネスに導くよう創り出された製品もある。それが、エモーショナル・デザインが施されたアイテムだ。
これは、デザインにおける認知心理学研究の第一人者、ドナルド・ノーマン氏によって提唱されたコンセプトで、ユーザーの感情を意図的に喚起させるデザインのこと。ユーザーにポジティブな連想を促すのが目的だ。同デザインが施された製品を使うことで、幸福感、快適さ、喜びなどをユーザーは感じ、元気づけられたり、懐かしいことを思い出したりする。さらにその経験から、製品に愛着が生まれ、長く使い続けることになる。
本拠地をドバイに置き、人間を主体としたデジタルソリューションを企業に提供している、レッド・ブルー・ブラー・アイデアズ(RBBi)社で総支配人を務める、アモル・カダム氏が、中東のマーケティング・コミュニケーション企業、キャンペーン・ミドルイースト社に、今年のユーザーエクスペリエンスの特徴について話をしている。その1つとして挙がったのが、エモーショナル・デザインのアイテムが主流になっていくということだった。
カダム氏はこの予測を裏付ける情報として、米国を拠点とし、世界でも有数の市場調査会社であるフォレスター・リサーチの主席アナリストのジョアナ・デ・キンタニーリャ氏が行ったリサーチに触れている。それによれば、製品と感情的に関わったユーザーの80%が、同製品を友人や家族に薦めることに前向きだという。つまり、エモーショナル・デザインの製品は、顧客の心をつかむということであり、トレンドになり得るということだ。
光が室内に穏やかさをもたらす、イケア社の新コレクション
イケア社が、2月に米国内の店舗とオンラインショップで販売を開始したのが、「ヴァルムブリクスト・コレクション」だ。
同社は、顧客が持つ、照明は単に機能的なものという固定観念を、照明は人の感情に訴えかけるものという認識に転換を促すことを、長期的な目標の1つとして挙げている。コレクションは、光によって室内ではどう見えるのか、どう感じるのか、どんな雰囲気なのか。新たに興味を引くよう、オランダ・ロッテルダムを拠点にプロダクト、インスタレーション、空間デザインの分野で活躍する、サビーヌ・マルセリス氏とのコラボで創り出された。
コレクションは、グラスやサービングボウルといった食器類、ラグや棚、テーブル、そして照明器具4種類と、約20のアイテムで構成されている。どれもが、直接光、間接光を問わず、光を通したり、反射したりして、室内で過ごす人に落ち着き、優しさ、穏やかさをもたらす。そしてさらには好奇心をそそるよう、意図的にデザインされている。
4種類の照明器具は、マルセリス氏の遊び心と創造力を反映し、同コレクションの中心とされる。中でも、曲線状のフロストホワイトガラス製のパイプが特徴のLEDペンダントランプと、半透明のガラスパネルと帯状の光でデザインされた、LEDウォールミラーは、同コレクションのステートメント・ピースだ。温かく、居心地の良い光を放ち、光がいかに家庭に優しく語りかけるような感情のレイヤーをもたらすことができるかを示す。
そのほかのアイテムも、自然光が当たり、詩的な美しさを織りなし、家庭内の人々に安心感を与える。
ユーザーの気分を反映し、カラーパネルが点滅するLG社製「ムードアップ」冷蔵庫
LGは、米国・ラスベガスで1月に行われたコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)で、新たなムードアップ冷蔵庫を発表した。
この冷蔵庫のLEDドアパネルには23色の個別のカラーオプションがある。ユーザーがキッチンに入ってくると、センサーが働き、上下のパネルが反応する。ドアがきちんと閉まっていない場合は、パネルが点滅するようになっている。季節の設定や、ユーザーのムード、さまざまなテーマにそい、プリセットを行い、パネルの明滅をカスタマイズすることもできる。
内臓のBluetoothスピーカーは、近くのデバイスと接続し、ユーザーの好みの音楽を再生する。その音楽のリズムに合わせ、ドアのパネルの色を点滅させたり、変化させたりすることも可能だ。
CESで、LGの代表を務めたジョージ・マックィルキン氏は、世界的なマーケティング・コミュニケーション・エージェンシー、ワンダーマン・トンプソン・インテリジェンスに、「ムードアップ」冷蔵庫を開発するにあたり、顧客に「より良い環境を提供する」ことを目指したと話している。同冷蔵庫は、日常的にユーザーの気分を盛り上げるのに役立つ。
思い出の品を飾り、住まいに自分らしさを反映
イケア社は毎年、家庭生活についてをインタビュー調査・分析した結果をまとめた、「ライフ・アット・ホーム・レポート」を発表している。2022年版では、37カ国の3万7000人が対象となった。「理想の住まいの最も重要な特徴は」という質問に対し、半分以上の人が、「ストレスを忘れて、くつろげる場所がある」と回答したそうだ。
家が「精神的に満たされたている」と感じるには、住まいに自分らしさが反映する必要がありそうだ。自分らしさが住まいに反映されていない場合、満足する人は半分以下になる。いかに自宅を自分らしく飾れるかで、そのスペースを、ストレスを忘れて、くつろげる場所にできるかどうかが決まるといっても過言ではなさそうだ。ちなみに、調査対象者の58%が、家は自分が何者かを反映していると回答している。
では、自分の個性を生かした住まいにするためには、どうすればいいか。レポートでは、約3人に1人が、思い出や過去の体験を呼び起こすものを飾ることが、自分らしさを家に反映させるのに大切だと答えている。さらに、アイテムだけでなく、それらを飾る家具も、家を自分らしくするための一部と考えられている。
レポートには、家に対する心理的なニーズも紹介されている。従来、「安心感」「心地よさ」「帰属意識」「所有感」「適切なプライバシー」の5つが必要と考えられてきた。しかし2022年版では、これら5つに、「楽しさ」と「達成感」が加わった。これはコロナの影響で、家にいる時間が長くなったことが理由だと考えられる。家でゲームをしたり、誰かと過ごしたりするためのスペースをがあることで、「楽しさ」は満たされる。また、勉強であれ、仕事であれ、効率よく物事をこなすスペースがあれば、「達成感」もカバーできる。
コロナの規制から解放されるやいなや、世界的な景気低迷で、出費を抑えるために引き続き私たちは多くの時間を家で過ごす。ここ当面、エモーショナル・デザインのアイテムや、自分らしさを反映した思い出の品をそろえ、住まいをストレスのない、くつろぎのスペースにすることで、私たちはエモーショナル・ウェルネスを維持していくことになるだろう。
文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit)