先行きが読めないVUCA時代。より自分らしく生きるためのキャリアを設計するには、方針を明確にするだけでなく、それを実現できる職場を追求することも重要だ。そこには自己実現や社会貢献、知識・スキルの習得はもちろん、多様性、モチベーション、ワークライフバランスなど、さまざまな要素が複合的に関係してくる。組織の外から環境を見極めることは、容易ではないことも事実だ。

そうした中、デロイト トーマツ グループ(以下、デロイト トーマツ)では積極的なキャリア採用にも注力をしている。17,000人のメンバーを擁する同グループの2022年度の中途採用入社人数は2,744人。監査・保証業務やコンサルティング、アドバイザリー、税務、法務といった領域をリードしながら広範な事業を展開し、多彩なスペシャリストが在籍する。そして現在、新たな方針として「People First」を掲げており、社員・職員の才能を最大化させるべく、個性やキャリアビジョンを尊重する環境づくりを推進中だ。

今回、AMPでは2023年4月に新たに発表されたブランドムービーをもとに、デロイト トーマツで働くメンバーはどのように才能を発揮させているのかを取材。企業の「風土」を軸に育成、多様性、働き方を掘り下げた前編記事につづき、後編では「キャリア」をテーマに、現場の生の声を聞いていきたい。

内発的な成長意欲を高める「People First」な人材開発

デロイト トーマツが打ち出した新たなブランドムービーに登場するのは、11名のメンバー。入社時に使用したエントリーシートの写真を前に当時を振り返り、現在の自分が手にしているものへの気付きと、それにまつわるストーリーを展開するという設定だ。

「成長と、成功を繰り返し。私は、新たな私に近づく。」というメッセージに紐づく形で、メンバー一人ひとりが新しいキャリア・自分を語っていく。「気付きをクライアントと一緒に考えていくこと自体も価値だと思ったのが、大きかった」「究極のゼネラリストを目指す」「私はたぶんカタツムリ。一歩一歩、歩いていければいい」「『パパ格好いいよね』と言ってもらえる自分でいるためには、キャリアでも輝いていたい」など、その多様な視点からは、デロイト トーマツで働く一人ひとりの個性を感じ取ることができる。

デロイト トーマツが4月に公開したブランドムービー「きのうのじぶんを超えていく、じぶんへ。」

このムービーに込められたコンセプトは「People First」だと、デロイト トーマツ グループ CTO(Chief Talent Officer)/DEIリーダーの大久保理絵氏は説明する。

大久保氏「『People First』が示すのは、人に光を当て、潜在的な才能を含めた力を最大限引き出すこと。デロイト トーマツではグループ全体でこの考えを大切にしています。人材開発に関しては現在、個々の“内発的な成長意欲”を軸に、方針転換を図っているところです」

内発的な成長意欲を重視したキャリア開発。近年はHR領域のスタンダードな考えとも捉えられるが、「言うのは簡単。実践するのは難しい」と大久保氏は続ける。

大久保氏「多くの企業と同様、従来のデロイト トーマツではランクアップ型のキャリアパスを用意していました。『現在あなたは〇〇なので、次は〇〇の能力が求められます』と、会社が“なるべき姿”を提示し、個々の人材がギャップを埋めるように努力するわけです。しかし自分に足りないものにフォーカスしつづけるのはつらいこと。ギャップを埋めても再び新たなギャップが見つかり、自己実現が満たされる日は来ないからです」

組織や管理職が準備した成長ではなく、あくまで自己視点の成長を重視し、才能の芽を出していくことが、デロイト トーマツの新たな方針なのだ。

デロイト トーマツ グループ CTO(Chief Talent Officer)、DEIリーダー 大久保理絵氏

大久保氏「例えば、『その時点で人は何も欠けていない状態として存在している』と考えます。しかし『何も欠けていない』と言われると、成長意欲が刺激され、もっと欲しいものが見えてくる。この際、内側から湧き上がる『もっとこうなりたい、もっとこれができるようになりたい』という欲求が、内発的な成長意欲です。各々がその原動力を追求し、会社が手厚く支援する。これが『People First』の人材開発だと考えています」

では、デロイト トーマツで働く人材は、実際にどのようにして意欲を見つけ出し、成長を遂げていくのだろうか。具体的なキャリア形成を、ブランドムービーにも出演したメンバー3人のケースからひもといていく。

文系からデータサイエンティストへ。知識ゼロからのスキルアップ

有限責任監査法人トーマツの三浦伊織氏は入社6年目。学生時代は能楽師を目指して修業しながらも、データサイエンティストとして新卒入社したという、異色の経歴の持ち主だ。

三浦氏「自分の才能でプロの能楽師としてやっていくことは難しい。であるならば、能で培った想像力を生かせる仕事をしようと、データサイエンティストを志しました。舞台上に立って演技をするという演者としての度胸は、現在も顧客との会議やプレゼンで役立っています」

有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部 シニアスタッフ 三浦伊織氏

商学系の大学院に進学し、ハラールについて研究していたという三浦氏。デロイト トーマツ入社当時はプログラミングや統計、会計の知識は皆無であり、ゼロからのスタートだった。

三浦氏「文系でデータサイエンティストを目指す人間は少なく、受け入れてくれる会社も限られていた中、デロイト トーマツに内定をもらいました。最終面接では『プログラミングも統計も何も知らないですが、大丈夫ですか?』と聞いたところ、面接官が『大丈夫。知識は研修で身に付けられるので、能や研究活動など、学生時代にしかできないことに励んでほしい』と断言。不安が解消されたのを覚えています」

面接官の言葉はうそではなかった。入社後は約3カ月間の手厚い研修が用意され、三浦氏はプログラミング、統計、会計、リスクアドバイザリーの基礎知識を身に付けていく。さらにその後、コンサルタントとしての研修が2カ月程度行われ、課題発見やソリューションの提供といったフレームワークを習得した。

三浦氏「研修中、提出した課題に対し、講師を務める上司から『発想がPoorだね』と言われたことがありました。無意識のうちに手を抜いたことを見抜かれたのでしょう。それ以来、最後の最後までベストを突き詰めていくことを、最も大切にしています。こうした基本的なマインドも、研修で培うことができました」

研修を終えた三浦氏は、現在に至るまで、監査におけるデータ活用を担う「Audit Analytics」を担当してきた。現在は主任としてソリューションを管理するだけでなく、不正検知モデル複合的異常検知モデルなど、新たな分析技術を開発し、特許を取得。論文も執筆するという日々を送っている。

三浦氏「自分の想定以上にプログラミングやデータサイエンスへの適性が高く、学習法を含めた先輩の指導もあり、着実に知識を積み重ねることができました。デロイト トーマツには1を聞くと100が返ってくるような先輩が多く、振り返ると先輩や同期との日々の雑談の中で知識を獲得した印象です。現在はデータサイエンスとビジネス、両者の幅広い知識を駆使して動くことが、私の強みになっています。能楽師の修業の中で培った“舞台を俯瞰する視点”も役立っているのでしょう」

三浦氏は今後、「究極のゼネラリスト」を目指してキャリアを構築したいと語る。何か一つに特化するのではなく、各専門スキルをスペシャリストの域まで高めつつ、顧客に対して高度な最適解を提供することが、将来の理想だ。

三浦氏「理系の優秀な同期に囲まれていた私は、スキルアップに悩むこともありました。『会計やデータサイエンスでどんなに頑張っても、彼らの下位互換にしかなれない』と、人事担当者に相談したこともあります。その時に言われたのが、『だったら、その領域以外で勝負すればいい』という言葉。それを聞いて、あえてスペシャリストを目指さないことで、自分の価値を高めていく可能性に気付いたんですね。デロイト トーマツは無数のキャリアプランがあるので、たとえ途中で方向性を変えたいと思っても、自分にフィットする業務を見つけられると思います。6年間でここまで来られたことは、私にとって大きな自信になっています」

ロンドンから日本へ。国境を超えたチャンスを自分の手でつかみ取る

専門領域の知識・スキルのみならず、グローバルな知見を習得できることも、デロイト トーマツの魅力だ。世界150を超える国・地域のメンバーファームから構成されるグローバルネットワーク組織は絶えず連携しており、各国の動向や業界の最新ノウハウが共有されている。

また、キャリアパスとして海外法人への異動を選択肢に入れることも可能だ。2023年4月からはデロイト トーマツ グループが展開するジョブポスティング制度にアジアパシフィック地域のポストが加わる。希望するポストに対して挙手をすれば、海外に異動するチャンスを得られる環境が整備されている。

デロイト トーマツ税理士法人のJoanna Hazel氏は、ロンドンの法人から転籍を果たした一人だ。日本人の父親とアメリカ人の母親を持ち、幼少期からアメリカで生活。帰省や短期留学の経験から、日本で働くことを夢見ていたという。

Joanna氏「学位と会計士の資格は、アメリカの大学で取得。当時、『周りとは異なるユニークなキャリアを築きたい』と考えていた私は、まずはロンドンの法人でインターンシップに参加しました。刺激的な環境に引かれたことが、入社した理由です」

デロイト トーマツ税理士法人 シニアアソシエイト Joanna Hazel氏

学生時代にアメリカの税法を学んだJoanna氏は、欧州で事業を展開する米国企業に向けた税務コンプライアンスなど、自身の強みを生かす形で活躍した。次第にコンサルティングやアドバイザリーにも仕事の幅を広げていきたいと考えるようになり、自身のビジョン、日本での勤務希望をメンターに相談。そこで紹介されたのが、ビジネスタックスサービスを展開する東京の税理士法人だったのだ。

Joanna氏「メンターは親身になってくれ、キャリア面談では即座に日本法人で働くイギリス人パートナーにメールを送ってくれました。すぐに面接の段取りが決まり、相談から1カ月後にはオファーを受けることができました」

こうして日本でのキャリアをスタートさせたJoanna氏。誰一人として知り合いがいない部署で働くことには不安も感じたが、上司の手厚いサポートが支えになったそうだ。

Joanna氏「週に3回はランチがスケジュールされ、いろいろな人を招いてくれたため、関係づくりで苦労することはありませんでした。現在のチームは、強固な信頼関係、自由でフレキシブルな働き方が魅力的です。さまざまな業界の顧客と関わりながら、スピーディーに課題を解決していく仕事も、私にマッチしていると感じます」

環境が変化しても、高いモチベーションにより自己を成長させてきたJoanna氏。「冒険する自分」も大切にしているため、日本で働き続けることには固執しないという。

Joanna氏「もし、新しい環境への挑戦を提示されたとき、常に『YES』と言える自分であり続けたいと思っています。国境を超えてキャリアを形成する社員が多数在籍することが、デロイト トーマツの魅力。希望を伝えれば、上司やメンターが必ずアクションを起こしてくれるので、広い可能性の中で自分を成長させられます。ビザの取得や語学のオンボーディングなど、必要なサポートも豊富にそろっています。デロイト トーマツに入社するということは、全世界のファームにアクセスできるということ。グローバルに活躍したい人には最適な環境だと思います」

出戻りできる環境だからこそ、広がる自らの視野と可能性

長期的に人生を考えるならば、社内における成長にとどまらず、転職を含む幅広い視野で未来を設計することも必要だ。デロイト トーマツは組織の枠組みにとらわれないキャリア開発を奨励しており、キャリア面談では転職はもちろん、起業や家業継承など、さまざまなビジョンを踏まえた相談ができるという。退職後には「デロイト トーマツ アラムナイ」に加入することも可能で、交流や機会創出などの支援を受けられる。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の竹内崇裕氏は、一度会社を離れ、外部でキャリアを積んだ後、再びデロイト トーマツへと戻っている。出戻りの経験を持つ竹内氏には、どのような心境の変化があったのだろうか。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 シニアアナリスト 竹内崇裕氏

竹内氏「学生の頃からコンサルティング業界に入りたかったのですが、新卒で希望をかなえることはできず、事業会社を経て2社目でデロイト トーマツに入社。可能な限り自分を成長させようと、CFAの資格取得に向け努力しました。金銭面、資格有休などのサポートを受け、取得後にはスキルを生かした業務を与えてもらうなど、バックアップも充実していたと感じます。社会人として3年がたち、資格により自信をつけた私は、少数精鋭かつ業務特化型のコンサルティング会社に転職を決意しました」

退社を決めたのは新型コロナウイルスの流行が始まった時期だった。対面で思うような挨拶ができない中、上司は温かい言葉で送り出してくれたという。

竹内氏「転職に対しては前向きに捉えてくれ、『何かあって戻ってくることもあるかもしれない。その時のためにも、円満に卒業することは大切』という助言ももらいました。その1年半後、上司に戻る意向を伝える際は、さすがに怒られると思ったのですが、フレンドリーに歓迎してくれました。温かい空気感は、デロイト トーマツに戻って最も良かったと感じる点です」

別のファームで働き、大きな裁量を与えられた経験は、現在にも生かすことができているという竹内氏。一般的なバリュエーションはもちろん、新しく日本に導入された概念の評価に視野を広げる姿勢も、遠回りしたからこそ得られた武器だと語る。

竹内氏「デロイト トーマツにはさまざまな業界・会社の出身者がおり、それぞれの持つノウハウを隠さずに共有する文化があります。彼らの多くが主体的なキャリア設計の下でビジネスの世界を歩んでおり、話を聞くことも私にとって刺激です。そして自分も、会社に貢献すべく、培ってきた知見を共有するようになりました」

「他者から受けた恩恵を、他者に還元していく」。そんな姿勢を大切にしたいと語る竹内氏。次は後輩を育てる番だと、今後のキャリアには前のめりだ。

竹内氏「自由なキャリア設計を奨励してくれるデロイト トーマツですが、私は会社に残りつづけ、組織の中で自分を成長させたいと考えています。今でも印象に残っているのが、何も分からなかった新人の頃に上司がかけてくれた、『今度は竹内くんが後輩に教えてあげて』という言葉です。自分が時間をかけて悩んだことを、他の人に共有することで、解決につながることは多いと思います。事業会社も外部ファームも経験した私には、自分にしかない視点や知見があるはずです。それを後輩や同僚、顧客にも還元していくことが、私の目指すところです」

 “何かをやりたい”全ての人こそ、デロイト トーマツへ

各々の領域で、自身が描いたキャリアを歩む3人。共通するのは、主体的に次の一歩を決め、周囲に相談することで、実現に近づけていることだ。CTOの大久保氏は、「何かをやりたいと思っている人にとって、最高の会社」だと、デロイト トーマツを言い表す。

大久保氏「事業開発から、キャリア設計、スキル習得、ワークライフバランスまで、“発言すると、実現してしまう”のがデロイト トーマツです。私自身、かつて新規ビジネスの創出に従事したことがありますが、発案すること自体を応援してくれる人が多いため、アイデアを共有すると“あっ”という間に周囲に後押ししてくれる環境が広がることを、肌身で感じてきました。現在は社内で仕組みを整備する立場にいますが、実はデロイト トーマツの魅力は制度そのものではなく、思いがかなう実現性ではないかと、胸の内では思っているんですよ」

潜在的な個性と才能、内発的な成長意欲が、やがてカタチになっていく。そんな環境に身を置くことは、働き手のキャリアを豊かにしてくれるのだろう。キャリアチェンジの選択肢の一つに、「People First」なデロイト トーマツを入れてみると、自分でも気付いていないような新たな道が見えるのかもしれない。

取材・文:相澤優太
写真:水戸孝造