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ダイバーシティやウェルビーイングが企業の成長に欠かせないキーワードになりつつある昨今。個人の成長や自己実現、多様な働き方、それらを実現するためのマネジメント体制は、企業にも求められるようになっている。しかし、いざ就職先を選ぶ段階になると、抽象的なメッセージや企業理念が伝えられる一方で、社風や育成支援など、具体的な働き方をイメージしづらいことも事実だ。真に自分を成長させてくれる会社には、どのような環境が整備されているのだろうか。
「World’s Most Attractive Employers(世界で最も魅力的な就職先)」のランキング上位に選出されるなど、学生の就職先としても人気が高いデロイト トーマツ グループ(以下、デロイト トーマツ)は、2023年4月に新たな採用ブランドムービーを発表。独自性の強いメッセージ発信の根底には、個々の人材が持つ才能を最大限引き出す「People First」という考え方があるという。
そこで今回は、人材を重視するデロイト トーマツの実像を取材。前編では最前線で活躍する現場の声から、才能や個性を発揮させる同社の風土をひもといていく。
デロイト トーマツが打ち出した、個性全開のブランドムービー
4月に公開された、デロイト トーマツのブランドムービー。目を奪うのは、スタジオ内につり下げられた巨大なタペストリーだ。そこに浮かび上がるのは、登場するメンバー11人が入社時に使用した履歴書の証明写真。一人ひとりが“過去の自分”と向き合いながら、入社後の変化や成長を、赤裸々に語る仕掛けになっている。
「想像を超える生活を今しています」「やりたいことがやれる場所」「成長できる環境はすごい整っている」「イノベーティブなプロフェッショナル」「パートナー」など、各々が全く異なる視点でデロイト トーマツを表現している点がユニークだ。
そして、「物語は、つづく。何度でも、私を楽しむために。」というコピーからは、メンバー一人ひとりがキャリアの主人公であることが伝わってくる。リーダーやスペシャリストが多いイメージのコンサルティング・プロフェッショナルファームだが、デロイト トーマツにはそこにとどまらない多彩な人材やキャリアが存在しているのだろう。
今回のブランドムービーでは個性と本音が前面に打ち出されている。「根底にある思いは、グループ全社が重視する『People First』」。そう語るのは、デロイト トーマツ グループ CTO(Chief Talent Officer)/DEIリーダーの大久保理絵氏だ。
大久保氏「デロイト トーマツでは2022年6月、グループ CEOに木村研一が就任しました。所信表明の冒頭で木村が語ったのは、『個人の多様性を尊重し、全ての社員・職員に光を当て、潜在的なものも含めた才能を輝かせたい』という言葉。これを一言で表したのが『People First』です。設備も商品もない当グループでは、人が全ての価値に通じます。本人さえも気付かないような才能が開花した時、自然に発揮される高いパフォーマンスはグループ全体の成長をけん引するはずです。ブランドムービーにも、そのような思いを込めました」
「本人さえ気付かないような才能」を強調する点に、デロイト トーマツの覚悟が見られる。具体的にはどのような方法で、潜在する能力を開花させるのだろうか。
大久保氏「自分の才能を自分一人で発見するのは難しく、一人で山にこもって悶々と考えても答えは出ません。周囲が個性にフォーカスし、引き出していくことが必要です。そのためデロイト トーマツでは、“対話”の機会を存分に設けています。場合によっては一人のメンバーに対し2〜3人の評価者やコーチが応援団として機能し、ゴール設定や評価面談、長期的なキャリア設計などを充実させることにリソースを割いてきました」
マネジャーが人材の才能を最大限引き出すためにもスキルが必要だ。デロイト トーマツでは現在、研修制度の充実化を進めているという。
大久保氏「ビジネスエシックスやダイバーシティなどの“カルチャーチェンジ”、各ビジネスで必須となる“専門知識”の研修は、これまでも充実させてきました。しかし他者の才能を引き出すためには別のスキルが必要で、優れたコーチや評価者は必ずしも豊富な知識を備えるだけでなれるものではありません。育成やコーチング、採用面接など、対話のためのスキルセットを身に付ける“ソフトスキル”の研修も強化していく方針です」
個性を磨き上げることを何よりも重視するデロイト トーマツ。では、実際に同社の働く環境において、個々はどのように力を発揮しているのだろうか。ブランドムービーにも出演した現場で活躍するメンバー3人のケースからひもといていく。
新人の自信を高めてくれる、頭ごなしに“NO”と言わない上司たち
まずは入社後の育成について見ていきたい。有限責任監査法人トーマツの能瀬勇希氏は、入社2年目。新卒でデロイト トーマツに入り、現在は保険会社の監査業務、アドバイザリー業務に従事する。
能瀬氏「就職先にデロイト トーマツを選んだのは、最も自分が成長できる環境だと感じたからでした。能動的で知的好奇心が強く、一人ひとりが専門家として自分のバリューに自信を持っている。仕事を語る担当者のエネルギーは、説明会で他社と比べても群を抜いていました。そんな先輩を見て、『自分もこうなりたい』と実感したんです」
デロイト トーマツの監査法人では、入社後に約1カ月半の新人研修が行われる。全国から300人ほどが集まる集合研修で身に付けるのは、コミュニケーションやソフトウエアの基礎スキル。加えて、語学やデジタルなどのスキルに関しては、オンライン動画などの任意研修も用意され、能瀬氏は現在も主体的にスキルを学習しているという。
能瀬氏「集合研修を終えた後は、さっそく現場配属です。とはいえエクセル一つとっても、座学と実践では求められる技術が変わってきます。私のチームでは育成担当の先輩がおり、綿密なOJTによって研修と実務のギャップを埋めていくことができました」
入社から半年ほどたつと、会計監査のプロフェッショナルとして、責任を持ち判断を下す立場を与えられる。能瀬氏が最初に感じたのは、「NOと言わない組織風土」だった。
能瀬氏「一般的には拙速とされるような仕事も、上司が『やってみる?』と声を掛け、裁量を与えてくれます。最初は失敗を恐れていましたが、上司が背中を押し、自分の提案に誰一人として『ダメ』『NO』と言わないので、自信につなげることができました。こうしたチャンスを逃さず、期待に応えようと努力しているうちに、“やり切る力”が身に付いたと思います。自分の強みであるこの力を引き出してくれたのは、先輩が整えた環境でした」
能瀬氏の挑戦を支えるのは、周囲の単純なチャレンジ精神だけではない。裁量を与えながらも、いざという時にはバックアップする「セーフティーネット」もまた、心の支えになっているようだ。
能瀬氏「会計士とはいえ社会に出たばかりの新人なので、顧客にメールを一通送るだけでも、不安でおじけづいています(笑)。ですが上司がタイムリーに相談にのってくれるので、リモート環境なのにストレスを感じないんです。上司の『無理はしないでね』という言葉も印象的で、見守ってもらえているんだなと感じました。入社1年目はコロナ禍で、気持ちがふさぎ込むこともあったのですが、そんな私を察してか、何の用もないのに雑談の電話をかけてくれる先輩もいました。温かい空気感があるからこそ、挑戦できるのだと思います」
将来は監査の枠組みを超えた「ゼネラリスト」になりたいと語る能瀬氏。その方針も、グループ内の出会いの中で明確になっていった。
能瀬氏「総合プロフェッショナルファームであるデロイト トーマツの強みは、税務、経営、ITなど、多岐にわたるプロフェッショナルが在籍していることです。彼らとの対話を通じて視野を広げることができたため、次は私が皆の専門性を生かし、社会に貢献する人材になりたいです」
「みんな違っていい」キャリアの多様な在り方を模索できる組織
一人ひとりの個性的な能力が発揮されるためには、組織全体の多様性も必要だろう。デロイト トーマツでは「Diversity, Equity & Inclusion」を、重要経営戦略の一つとして位置付けている。特筆すべき施策は「Panel Promise」だ。
役員や従業員が参加するイベントやフォーラム、カンファレンスなどのパネルセッションにおいて、登壇者の比率を「男性40%:女性40%:国籍や年齢など多様性の調整枠20%」に設定し、要件を満たさないものには主催者への働きかけも行っている。同グループの主催だけでなく、外部主催のイベントにも適用している点は、極めて先進的だ。
では、実際に働く従業員はどうだろうか。デロイト トーマツ コーポレート ソリューション合同会社の野曽原志帆氏は、人事を担当。面談を通じて多くの従業員と接する中で、「一人ひとりが、強みを生かして仕事をしている」と感じるという。
野曽原氏「デロイト トーマツを一言で表すならば“畑”。何を植えてもいいし、育てるひともいれば、収穫する人もいます。いわゆる『みんな違って、みんないい』ですが、単に多様な人材が所属していることは当たり前です。その上で、個性をビジネスにおける“価値”に昇華させようと、管理職が真剣に考えている点が、デロイト トーマツの特徴だと思います」
野曽原氏本人も、自身の個性を発揮して働く一人だ。製薬会社出身の野曽原氏は、仕事の傍らMBAの大学院に通う中で、「一つの会社・業界で人生を終えるのがもったいない」と、コンサルタントへの転職を決意。デロイト トーマツ入社後は、リスクアドバイザリーでのキャリアをスタートさせた。筋道が通ったキャリアチェンジに見えるが、入社後は“モヤモヤ感”を抱いていたという。
野曽原氏「前職の常識がアップデートされ、新たな環境で成長を実感する日々でした。しかし同僚と話す中で、皆が感じるコンサルタントの醍醐味を、『私はどこか楽しめていない』と感じていたんです。転機が訪れたのは、新型コロナウイルスに感染した時。人生で初めて死を意識する中で、大学院で聞かれた『余命半年だったら、今の仕事を続けますか?』という問いが、頭をよぎりました。改めて考えてみると、自分はどちらかといえば“副委員長”タイプ。前線で戦うコンサルタントやプロフェッショナルたちを後方から支援してみようと、人事の道に進みました」
グループの中で居場所を発見し、現在はストレスフリーで働けているという野曽原氏。自己肯定感が飛躍的に上がったのは、グループが持つ多様性の恩恵だったと振り返る。
野曽原氏「コンサルティング・プロフェッショナル業界と聞くと、多くの人が『リーダーシップ』『上昇志向』『狩猟民族的』のようなイメージを抱くかもしれません。でも実際には、『裁量を与えられると不安』『プレーヤーでいつづけたい』『農耕民族的』といったプロフェッショナルも多く、本来はそれも個性だと思います。ポテンシャルをそのままに、ジョブローテーションやマネジメントを通じて、ゆっくりと適材適所を探していく。デロイト トーマツは多様性を重視する組織なので、必ず真の自分にたどり着くと思います」
変化するライフステージに、柔軟に対応できるからこそ感じた働きやすさ
ビジネスの内容だけでなく、働き方そのものにも多様性を見いだしていくのが、デロイト トーマツの方針だ。
ウェルビーイングを尊重する同グループは、先述した「ソフトスキル」に加え、栄養や睡眠などパフォーマンスに寄与する「ウェルネス」も強化する。ワーケーションにも積極的で、瀬戸内海に面した広島県三原市の須波・佐木島地域では、リラックスした環境とパフォーマンスの相関関係を検証。場所や時間に縛られない、クリエイティブな働き方改革を推進してきた。
またワークライフバランスにも注力しており、育児・介護と仕事との両立を望む従業員は、「フレキシブルワーキングプログラム(FWP)」の利用が可能だ。育児の悩みを相談できる「育児コンシェルジュ」の常駐、シッター利用料補助制度や家事代行サービスなど、会社からのサポートも手厚い。2021年にはDFV(ドメスティック/ファミリーバイオレンス)被害を受ける従業員へのサポートを始動するなど、他社と比しても先進的な制度も存在する。
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社のM&Aチームで働くXiaotong Fan氏は、5歳児の母だ。新卒で入社し、3年目で出産を経験した。
Fan氏「学生の頃に抱いていたデロイト トーマツのイメージは、現在とあまりギャップがありません。唯一価値観が大きく変わったのが、ワーキングマザーになったことでした。子どもがいなかった頃は限界まで働くことができましたが、今は時間を自由に使うわけにはいきません。周囲のサポートがあるからこそ、仕事と育児を両立できています」
妊娠中のFan氏が最も不安を感じたのは、身体の疲労だった。顧客への対応がある以上、自分のペースで働くことには限界がある。上司やチームメンバーに相談し、業務をカバーしてもらうことで、妊娠・出産を乗り越えた。育児休暇を経てデロイト トーマツへの復帰を決めたのも、そうした風土があったからだという。
Fan氏「『自分らしく生きていきたい』が最大のモチベーションでしたが、他の会社に移ることは考えませんでした。慣れた環境ですし、メンバーも優しく、自分の限界を遠慮なく伝えれば、サポートしてくれると信じていました。私もそんなチームの役に立ちたいと、デロイト トーマツで働きながら育児を続けることを決めました」
妊娠、育児、介護、不妊治療等の勤務軽減をサポートする「フレキシブルワーキングプログラム(WP)」も、Fan氏の働き方を支えている。同プログラムでは働き方や得られる支援を段階的に選べる仕組みがあり、Fan氏は目標を標準の7割に軽減するコースを選択。基本的には100%リモートワークで日中働き、夕方に保育園へと迎えにいった後は家庭に専念する日々だ。
Fan氏「子どもが熱を出したり、おなかを壊したりすれば、即座に周りがカバーしてくれます。コロナ禍で保育園が休園になった時には、業務量の調整に上司が応じてくれて、無事に乗り越えました。現在は母親という顔を持ちつつも、一人のコンサルタントとしてプロの仕事ができています。些細なことでも言い合え、互いに難色を示さない雰囲気こそが、デロイト トーマツのチームワークなのでしょう。ワーキングプログラムに関しても、今後さらなる制度の見直しがあると聞いているため、期待しています」
現在は社内のDEI(Diversity, Equity & Inclusion)活動にも積極的に参加しているというFan氏。女性の活躍や男性の育休取得に関し、アンコンシャス・バイアスを考えるイベントでは、参加者同士が交流し、会社に提言をすることもあるそうだ。
Fan氏「社員・職員の意見を吸い上げる仕組みはちゃんとできています。コンサルティング・プロフェッショナル業界は女性比率が少ないものの、デロイト トーマツは意見を吸収する風土があると感じます。生き生きと働ける女性が増えれば、それを見て入社する人材も増えるはず。そんな好循環を育むためにも、私自身が積極的に仕事と育児を楽しみたいです」
3人の活躍から見えてくる、デロイト トーマツの「People First」。育成、多様性、働き方さまざまな視点でも、個を尊重する風土が醸成されていることが分かる。そこで育まれる価値観のバリエーションが、今回のブランドムービーにも表れていた。記事後編では“キャリア”を軸に、デロイト トーマツが手がけるスキル開発やキャリア設計の特徴に焦点を当て探っていく。
取材・文:相澤優太
写真:水戸孝造