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「ブロックチェーンハブ」に続き「メタバース都市」も目指すドバイ
2016年に世界初のブロックチェーン導入政府となる計画を発表し、世界のブロックチェーンハブを目指してきたドバイが、近年並行してメタバース分野でも世界の先鋒となるべく動きを加速している。
ドバイが行政レベルの戦略として「ドバイ・メタバース戦略」を発表したのは2022年7月のこと。
今後5年で4万人のメタバース関連雇用を生み出すこと、40億ドルのメタバース経済を生み出すこと、現在までに1,000社以上誘致したブロックチェーンとメタバース関連企業の数を5倍以上にすること、などを目標の柱とし、結果的に世界でトップ10以内のメタバース都市になることを目指している。
戦略はその後、11月に新フェーズがハムダン皇太子の承認を得て加速。2023年に入ってからも、今年16回目となる例年の芸術イベントArt Dubaiにデジタルアートセクションを設け、メタバースプロジェクトやクリプトアートをプレゼンすることを発表。さらに、イギリス発のメタバース開発企業LandVaultがドバイにオフィスを開設したりと華やかなニュースが飛び交っている。
まずは「バーチャル内見」が注目か?
現在までに1億平方フィート以上の仮想世界を構築し、Mastercard、Hershey’sなどのブランドにメタバース世界への扉を開いているLandVaultのCEO・Sam Huber氏は、ドバイオフィスのオープンに寄せて、「UAE(アラブ首長国連邦)の不動産業界におけるメタバースの可能性にも期待しています。ディベロッパーや不動産会社と協力して、新しくイノベーティブな方法で物件を紹介できることを楽しみにしています」とコメントした。
「ドバイを世界一住みやすい街にする」ことを目的に2021年に発表された、包括的な「ドバイ都市マスタープラン2040」に象徴されるように、あらゆる分野で世界最先端都市を構築し、人口を倍増させるために外国人を誘致しようと数々のアグレッシブな国策を進めているUAEにとって、メタバースの導入に注力するのは、それがこれから地理的な拘束のない「もう一つの世界」として無限の可能性を秘めているからに他ならない。実際、すでに医療から教育、リテールなどさまざまな分野におけるプロジェクトを発表している。
特に、投機目的の外国人に不動産を販売するビジネスが巨大な市場を築いている同国の現状において、投資家がわざわざ物件を訪れることなく世界のどこからでも没入的でインタラクティブな内見をすることを可能にするメタバース技術は、その無限の活用法の中でも即戦力になる強力なビジネスツールとして大きな期待が寄せられている。
アクセラレータープログラムも
2023年1月末にはウェブ3集積地の1つとなっているドバイ国際金融センターで、メタバースコミュニティのプラットフォームがローンチされている。
ドバイ・メディア・オフィスはこのプロジェクトが、メタバースの世界的リーダーとしてのドバイの地位を加速させるために同センターが開発している「包括的な戦略」の一部である、と声明を発表。
このプラットフォームは基本的にはメタバース上に構築されているが、アクセラレーター・プログラムには物理的なオフィスの提供も含まれること、メタバースにおけるオープン・データ、デジタルID、法律関係の調整にも取り組み、ユーザーの利用体験を向上させる方法を模索するメタバースコミュニティの開発の促進も目的としていることも明らかにした。
アクセラレータープログラムは500を超える応募者の中から最も有望なスタートアップを50社選定し、半年のトレーニングや既存の企業とのパートナーシップの促進などを提供する。優秀な企業を育てる以外にも、投資機会を刺激する狙いも。
コミュニティはメタバース分野の企業だけではなく、投資家やユーザー、民間セクター組織などを幅広く巻き込み、各種プロジェクトやイベントを行う大規模なものとなる。
プラットフォームから各方面に拡張されるインパクトは大きく、そのDX(デジタルトランスフォメーション)から生み出される経済効果は、年間1,000億UAEディルハム(272億ドル)相当になるとも言われている。
国レベルでも本腰、省庁の「メタバース支所」も
そんなドバイ・メタバース戦略に呼応して、UAEでの国レベルでの取り組みも活発化している。
そのうち最も規模の大きなものの一つとして、同国の経済省は2022年9月、世界の省庁で初めてメタバースにオフィス兼サービス拠点を開設すると発表した。
日本人の筆者には概念が新しすぎてピンと来ないので少し説明したい。現在、経済省はドバイとアブダビに2つの物理的な建物を持つオフィスがあり、各種機能や民間への窓口業務を担っているが、この「メタバース支所」ともいえるオフィスはその3つ目の拠点として機能する。
この「仮想オフィス」はメタバース上に構築された複数階建ての「ビル」で、それぞれの階が各種業務を担当している。利用者は「入館」するとチケットを受け取り、「カスタマー・ハピネスセンターの従業員(もちろんバーチャル)」の対応を受ける。
提供するのはバーチャル空間でのエンタメ色の強いサービスだけではなく、あくまで「フルサービス」。法的拘束力のある正式な文書に署名したり、契約を締結したりといった公的手続きもできるため、利用者はわざわざそのためにドバイなりアブダビの「物理的な」オフィスに体を運ぶ必要がない。イベントを開催できるホールやユーザーが画面を共有できる会議室もあるので、バーチャル会議や催事にも対応している。
これらがすべて、「物理的な訪問」でも「オンライン手続き」でもなく、物理的な支所と同等の法的拘束力を持ち、没入型でインタラクティブな体験として世界のどこからでもアクセスできる、国の省庁のバーチャルオフィスでできるというケースは、確かにまだ他にないだろう。
ドバイ・エアポート・フリーゾーンもメタバースに参入
その他にも、同国で2番目に歴史のあるフリーゾーン(外資100%企業の設立許可や関税/法人税の免除など、各種の外資系企業に対する優遇制度が存在する経済特区)もメタバースへの参入を発表した。
ドバイ空港内に位置し、1996年開設で航空・製薬・ロジスティックなど、各業界の外資企業1,300社以上が入居するドバイ・エアポート・フリーゾーンは、2022年10月にメタバースプラットフォームの解説を発表。
目的はもちろん同フリーゾーンの存在感を高め、さらなる外資をボーダーレスに誘致することだが、事務局長である Amna Lootah氏は「物理世界と仮想世界の間のギャップを埋めるこのイニシアチブは、スムーズな利用体験を提供し、フリーゾーンでのビジネスのデジタル化に貢献し、またグローバル企業が首長国での地位を確立するのを支援します」と、双方向的な貢献を強調した。
国としてのフレキシビリティと戦略で、ここ20年商業ハブ・貿易ハブ・観光ハブ・移住ハブなどとしてギラギラした存在感を急成長させてきたドバイ・UAE。今後は世界のデジタル「ハブ」になっていくのかと見守っていたが、どうやらメタバースで国ごとボーダーレスにしてしまう方向性のようだ。
彼らが未来を生きる国だとしたら、地面に線を引いて「ここからここまでうちの国ね」という国の概念はこれから崩壊していくのかもしれない、などという青い想像を持ってしまった。
文:ウルセム幸子
編集:岡徳之(Livit)