パナソニックはこのほど、同社のスイッチ・コンセントなどの配線器具や照明器具のうち、ブラック色の電気設備をまとめた「BLACK DESIGN SERIES(ブラックデザインシリーズ)」を発表し、3月21日、22日の2日間、都内でその魅力を紹介するインスタレーション展示を開催した。20日には「BLACK LANDESCAPE」と題し展示を手掛けた建築家の佐々木慧氏とインテリアスタイリストの大谷優依氏を招いたトークセッションが開催され、同シリーズが生まれた背景やユーザーのニーズ、インテリアにおける“黒”色の可能性などが語られた。

なぜ、ブラックデザインシリーズが生まれたのか

コンクリート打ちっぱなしの無機質な空間に、あたかも生き物のような存在感を放つ黒い塊が現れた。角度によってなだらかな傾斜がつけられた姿は「黒い森」や「住宅街の模型」のようにも見えるが、近寄ってみるとその1つ1つはスイッチやコンセント、照明だ。全てにブラック色が施され、その質感は配線器具とは思えないほど高い。

建築家の佐々木慧氏は「エッジまでシャープに作られていて、一見するとコンセントやスイッチ類に見えないほど研ぎ澄まされたデザイン。『ブラックデザインシリーズ』は、機能性から解放された美しさがあります。それを理解した上で、1つ1つのシンプルな幾何学が一番美しく見える空間を目指しました」とインスタレーションの意図を語った。

建築家 佐々木慧氏

これまでスイッチやコンセントは白色やベージュ色などが一般的だった。しかし時代と共にインテリアにデザイン性を求めるニーズが高まる一方で、対応できるプロダクトは限定的だった。それらの声に反応して生まれたのが「ブラックデザインシリーズ」。開発を担当したパナソニックエレクトリックワークス社シニアデザイナーの近藤高宣氏(以下近藤氏)はシリーズ誕生の背景を次のように語る。

近藤氏「1つには、社会が古いものをゼロベースに戻すリフォームから、今あるものを活かしながら、プラスの価値を生み出すリノベーションへと移行していることが挙げられます。空間を開放し活用する為に壁や天井の表面材を取り去り、柱や梁、配管や電気設備を露出して見せるインダストリアル(工業的)な空間デザインが支持されています。またコロナ禍によりステイホーム期間が長くなったことで住環境のクオリティを重視する中で、緑を屋内に積極的に取り入れるバイオフィリックデザインが注目される中、空間の背景としてのブラック色のニーズが高まってきていると考えます。

最近では、壁4面のうち、1面だけの色を変える「アクセント壁」や、天井を暗くして上に空間があるように見せる「ブラックアウト」と呼ばれる手法のニーズがあります。そこでダウンライトや煙感知器、スポットライトなどが白いままだと、どうしても主張してしまう。その時にブラックデザインシリーズの黒はインテリアを壊すことなく空間に馴染むことができます。元々、弊社でもブラック色の照明器具や電気設備を扱っていましたが、黒を主軸とする1つの商品群として打ち出すことで、お客様にポジティブにご採用頂ける電気設備を知って頂きたいという意図があります」

パナソニックエレクトリックワークス社シニアデザイナー 近藤高宣氏

シリーズを打ち出す上でこだわったのはそのシャープなデザイン。また名称にもなっているブラック色を生み出す上で、開発の苦労があったという。

近藤氏「デザインのコンセプトとしては、「図」と「地」になることを目指しました。ここで言う「図」は主役やアイキャッチになるもので、具体的にはダイニングペンダントやシーリングファン、フロアスタンドなど、それがあることによって空間にイメージを持たせるものです。それに対して「地」は空間の背景になるもので、ダウンライトや煙探知機、配線器具やダクト等です。「図」と「地」、それぞれに対応できる商材群を目指しました。

一方、色に関しては自然界に存在しない黒、「純黒」を追求しました。樹脂(ペレット)の調達のレベルまで踏み込んで、樹脂成型できる限界の黒を調色しました。純黒を出す上で苦労したことは、金型で成型する際に、溶けた樹脂が流れ込む速度によって、筋が出てしまう「ウェルド」という問題です。それも弊社の開発部門が非常に頑張って金型調整し、ウェルドの出にくい仕上がりを実現しました。また光の反射を低減させる「シボ処理」を施し、器具の厚みやスイッチの形状をしっかり認識できるように、しっかりと面をとるようにこだわりました」

隠していたものから必要不可欠なものへ

プロダクトとユーザーをつなぐ、建築家の佐々木氏、インテリアスタイリストの大谷優依氏も、ブラックデザインシリーズの登場をそれぞれの立場で歓迎する。

佐々木氏「コロナ禍で在宅時間が増えたことで、インテリア環境を改善しようというクライアントのニーズもあって、『やっと出てきてくれた』という感じです。これまではメーカー保証が外れることを承諾してもらった上で、白色のスイッチなどを黒色に塗るなどの対応しかできなかったので、商材として出てきたことは歓迎したいです。

ブラックデザインシリーズは、展示のコンセプトにも直結しますが、黒を引き立たせる為に形がとても洗練されているんですね。表現できる極限のバランスが保たれていて、パッ見てもその美しさが伝わってきます。

僕らは普段、クライアントにパース(透視図)を提示する際に、コンセントやスイッチ類はわざわざ書き入れていないのですが、今回の展示で普段消しているものを主役にして置いてみることで、インスピレーションが起きることを期待しており、洗練されたブラックデザインシリーズにはその可能性が大いにあると感じました。インテリアでは、落ち着いた木目やコンクリート、金属などの素材を引き立たせるのに、黒は重要な役割を果たしますし、副次的にもその需要は高いと思います。今後、色のバリエーションが広がればインテリアデザインの選択肢がより広がるのではないでしょうか」

大谷氏「ライフスタイル雑誌などを中心に、家電や雑貨、インテリア、空間イメージのスタイリングを担当しているのですが、私の仕事の中ではコンセントやスイッチ類は極力写さないか、編集で消してしまう存在でした。でもブラックデザインシリーズは黒やグレーの壁にも馴染んでいて、何よりそのデザインがカッコイイので、敢えて見せるという手法もありだと思います。スイッチにデザイン性を持たせることはインテリアの選択肢を広げることにもなるので、リノベーションの際に「ここもこだわりたい」というユーザーも増えてくるのではないでしょうか。パナソニックさんのような大きいメーカーが、沢山のカッコいい商材を作ってくださると、オフィスや商業施設の空間もより素敵になりますし、デザイン性の底上げにつながると期待しています」

インテリアスタイリストの大谷優依氏

パナソニックが追い求める“黒”とは

高いデザイン性と無彩色の黒を突き詰めることで、インテリアにおけるブラック色が持つ可能性を改めて示したブラックデザインシリーズ。現状の課題も含め、今後の展望を近藤氏は次のように語った。

近藤氏「課題としては様々な電気設備のブラック色を統一することが必要になります。どうしても、色々な事業部で複数の商材を作っていて、工場も違えば、仕入れている樹脂もルートも違うという事情もあるので、なかなか一斉にとはいかないのが現状です。

ですので、デザイン部門としては、指標を作って少しずつではありますが統一を図って参ります。ブラックデザインシリーズが目指すのは、黒一色の空間を作るというよりも、他の建築素材と組み合わせて、より上質な空間を作って頂く為の電気設備をご提供すること。

建築家やインテリアコーディネーター、空間設計者やお施主さまに『これなら使ってもいい』と思って頂けるよう、引き続き取り組んで参ります」

これまでの常識を疑い、時代の需要に合わせ進化することを止めないパナソニック。“黒”一色にもこだわりを見せるその追求力と挑戦にこれからも期待したい。

文:小笠原 大介