2022年11月30日にOpenAIからリリースされた人工知能チャットボット「ChatGPT」。人間と会話しているような自然なテキストを作成できる革新性から、またたく間にユーザーが増えている。
大手金融機関UBSの調査によれば、2023年1月時点のChatGPTの月間アクティブユーザー数は1億人に達し、歴史上もっとも急速に成長している消費者向けアプリだという。”ゲームチェンジャー”ともいわれるChatGPTは、海外のビジネスシーンでどのように活用されているのか。
「ChatGPT」の海外活用事例8選
海外の関連記事を参照して、ChatGPTの最新の活用事例や活用可能性をまとめた。事業内容に関わらず活用できるシーンが幅広いので、参考にしてみてほしい。
【事例①】カスタマーサービス
もっとも代表的な事例は、カスタマーサービスへの導入だ。リクエストに基づいて自然なテキストを作成し、迅速に返信ができるため、業務効率化や顧客満足度の向上に役立てられる。
例えば、インドの旅行代理店「Travel Professor」は、ChatGPTを顧客サービス、及び顧客獲得戦略に統合している。フェイスブックメッセンジャーやInstagramのDMを通じて個人の旅行の好みが収集・保存されると、ChatGPT APIにリクエストが送信され、旅行先のリストを含むメッセージが顧客に返信される仕組みだ。これはコンバージョンの増加にもつながっているという。
米国の大手食品ブランド「Cello Cheese」も同様の仕組みを採用する。顧客が好みの味、食感、ベジタリアンかどうか、付け合せ、用途などの質問ついて回答すると、ChatGPTが顧客の好みに基づいてオーダーメイドのチーズボード(チーズの盛り合わせ)を作成する。
【事例②】コンテンツ制作
高い情報収集力や言語力を生かして、コンテンツ作成の効率化にも活用できる。特定のワードやユーザーの関心に応じて関連性の高いコンテンツを素早く作成できるのは、ChatGPTの強みといえる。
特定の製品や事柄の説明、クイズや記事タイトルの作成など、その活用範囲は広い。ただし、現時点ではChatGPTに100%の精度を求めるのは難しく、作成された内容の確認は求められる(ChatGPTが架空のレストランを紹介する、なんてケースもあるそうだ)。また、ChatGPTによるコンテンツを多く使用したWebサイトが、検索エンジンからペナルティを受ける可能性もあるようなので、十分な配慮しなければならない。
【事例③】調査・分析
特定の事柄を調べたり、大量のデータを迅速に処理したりする調査や分析でもビジネス上の意思決定に役立つ貴重な洞察を得られるという。例えば、ヘルスケア分野ではChatGPTを使用して大量の医療記録や患者データ、医学雑誌の情報を処理し、エラーや意思決定、患者の転帰に役立つ洞察を得ることが可能だ。
米ダラスに本拠を置くヘルスケアAI 企業の「Pieces Inc」は、臨床AIソフトウェアPieces PredictのGPT-3 対応バージョンをリリースした。このソフトウェアは、病院が患者の入院を長引かせるような臨床的、運用的、社会的障壁を特定し、優先順位をつけるのを支援する。GPT-3はスタッフがより速く、より解釈しやすい文脈にサマリーを変換するのに効果を発揮する。
【事例④】言語翻訳
自然な言い回しが求められる言語翻訳においても、活用が期待される。ただし、リソースの多いヨーロッパ言語では商用の翻訳製品 (Google翻訳やDeepLなど)と競合するパフォーマンスを発揮するが、日本語を含むリソースの少ない言語では大幅に遅れを取っているという。
とはいえ、日本語への翻訳においても対話形式で翻訳作業を繰り返すことで、より自然な表現に変えられるそうだ。例えば、ChatGPTが翻訳した言語に対して「もっと自然な表現で翻訳して」とリクエストすると、より自然な言い回しを提示する。
【事例⑤】マーケティング
マーケティング活動の効率化にも大いに役立てられる。例えば、新たな製品開発や事業構築をする場合のペルソナを設定する、競合他社のSWOT分析をする、SMARTの法則(目標設定に役立つフレームワーク)を用いて目標を設定する、ニュースレターやSNS向けのコンテンツを作成するなど、マーケティングにおけるさまざまなシーンで活用できる。
【事例⑥】ソフトウェア開発とデバッグ
アプリやWebサイトをゼロから構築するための基本的なコードの記述もできる。プログラミングの知識がない人でも、パラメータや命令を指定するだけでコードを作成できるほか、バグを発見して修正し、エラーと解決策を提示するという。
160カ国以上でローコード/ノーコードのワーク プラットフォームを提供する「Kissflow」のCEO・Suresh Sambandam氏は、「ローコードやノーコードが従来の開発者やソフトウェアエンジニアを完全に置き換えることはないように、OpenAIは反復作業をなくし、アプリ開発の市場投入までの時間を短縮する有用なツールを提供するだろう 」とコメントしている。
【事例⑦】非構造化データの分類や整理
非構造化データを分類・整理して構造化フォーマットに変換することもできる。「ChatGPT in Google Sheets™ and Docs™」を活用すると、GoogleスプレッドシートやGoogleドキュメントで取得したデータを構造化したり、箇条書きのデータを見やすくリスト化したり、シートやドキュメントの内容を編集・要約・翻訳したりできる。
【事例⑧】要約
長文の要約にも能力を発揮する。長文を提示した後、「この文章を要約して」と指示すると、すぐに要約が提示され、その精度はかなり高いものだという。また、長文の中から特定の要素だけを抽出することも可能。概要だけを把握したい場合などに重宝しそうだ。
業務の丸投げは難しいが、時間短縮は実現できる
上述している通り、ChatGPTは革新的な業務効率化をもたらす一方、現時点では完璧とは言い難い。というのも、ChatGPTのトレーニングに使用されているのは2021年第3四半期のデータであり、インターネット上で入手できる情報に基づいているため、誤った情報や古い情報が含まれていることも多いのだ。
既存の情報の要約や構造化であれば、ほぼ自動化が実現するかもしれないが、最新の情報を含まなければならないコンテンツ制作や調査、マーケティングに使用する場合は、特に配慮が求められる。このような注意点を意識しつつ導入すれば、これまでの業務が格段にスピードアップするはずだ。
文:小林香織
編集:岡徳之(Livit)