塩野義製薬は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬エンシトレルビル フマル酸(日本での製品名:ゾコーバ®錠125mg、開発番号:S-217622、以下、エンシトレルビル)について、第2/3相臨床試験のPhase 3 partより新たに得られた良好な結果を、第30回 Conference on Retroviruses and Opportunistic Infections(CROI)2023にて発表した。
Phase 3 partは、エンシトレルビル(125mg、250mgの2用量)を1日1回、5日間経口投与した際の臨床症状の改善効果を検証することを主目的に、軽症/中等症患者を対象に実施。
同試験では、日本、韓国、ベトナムにおいて重症化リスク因子の有無、またワクチン接種の有無(9割以上が接種済み)にかかわらず、発症から120時間以内の患者1,821例が登録されている。
同試験においてエンシトレルビルは、オミクロン株流行期に実施した臨床試験で、COVID-19症状の罹病期間を主要評価項目として、世界で初めてプラセボに対する有意差を示し、日本において125mg(初日のみ375mg)の用量で2022年11月22日に緊急承認されているとのことだ。
なお、CROI 2023で発表された新規データを含む内容は以下の通り(承認用量を中心に概説)。
■主要評価項目(既報)
発症から72時間未満に割付けられた患者集団において、エンシトレルビル125mg投与は、オミクロン株感染時に特徴的な5症状(鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさまたは発熱、けん怠感(疲労感))が消失するまでの時間をプラセボ群との比較で有意に短縮し、症状に対する改善効果が確認された(p=0.0407)。
症状消失までの時間の中央値は、同薬125mg投与群では167.9時間、プラセボ群では192.2時間となった。
■主要な副次評価項目(新規)
エンシトレルビル125mg投与により、感染性を有するSARS-CoV-2ウイルス(ウイルス力価)の陰性化が最初に確認されるまでの時間を、プラセボ群と比較して有意に短縮(p<0.0001)。力価陰性化までの時間の中央値は、本薬125mg投与群では36.2時間、プラセボ群では65.3時間となった。
投与4日目(3回投与後)において、ウイルス力価陽性の患者の割合はプラセボ群との比較で87%減少し、96%の患者がすでに力価陰性となっている。
■安全性(既報)
忍容性は良好であり、両用量ともに重篤な副作用や死亡例の報告はなし。125mg投与群で比較的高頻度に見られた副作用は、高比重リポ蛋白の減少および血中トリグリセリドの上昇。
その他、主要な副次評価項目として、エンシトレルビルは、投与4日目におけるウイルスRNA量を有意に減少させることが示されている(4日目におけるベースラインからのウイルスRNA変化量はプラセボとの比較で1.4 log10 copies/mL以上の差;p<0.0001)。
また、CROI 2023では、エンシトレルビルのCOVID-19罹患後症状(後遺症、以下、Long COVID)に対する効果を探索的に評価した結果が新たに発表された。
Long COVIDは、発症120時間以内に本薬による治療を開始してから3か月(Day85)、6か月(Day169)経過した時点まで各症状の有無を追跡調査することにより評価されたとのことだ。
■Long COVIDの発現リスクに対する効果(COVID-19に特徴的な14症状)
投与開始時のCOVID-19症状スコアが中央値以上の患者集団において、エンシトレルビル125mg投与は、COVID-19に特徴的な咳や喉の痛み、倦怠感、味覚、嗅覚異常など14症状のいずれかの長期持続を認める患者の割合を、プラセボ群と比較して有意に減少させた。
■Long COVIDの発現リスクに対する効果(神経系の4症状)
エンシトレルビル125mg投与は、罹患後症状として報告の多い4つの神経症状(課題解決力、集中力・思考力の低下、物忘れ、不眠)の発現を認める患者の割合を、プラセボ群と比較して有意に減少させた。
全体の患者集団においても、エンシトレルビル125mg投与はCOVID-19に特徴的な14症状、神経系の4症状に対して同様のリスク低下傾向を示した。
14症状に対する相対リスクはプラセボ比で25%低下(p=0.1774)、神経系4症状に対しては26%の有意な低下(p<0.05)となっている。
今回の評価は、患者の報告結果に基づき、抗ウイルス薬のLong COVID発現リスクに対する効果を探索的に検討する最初のプラセボ対照前向き研究となり、今回公表した結果は中間解析データであり、今後12か月時点(Day337)までフォローアップが継続される。
塩野義製薬は、取り組むべきマテリアリティ(重要課題)として「感染症の脅威からの解放」を特定し、感染症のトータルケアの実現に向けた取り組み実施。
COVID-19が世界的な脅威として人々の生活に大きな影響を与える中、同社はパンデミックの早期終息による社会の安心・安全の回復に貢献するために、本治療薬の有効性、安全性に関するエビデンスの集積に引き続き注力するとのことだ。
また、海外での実用化に向けた提携先との緊密な連携ならびに生産を含むグローバルサプライチェーンの強化を図り、今後も状況に変化があり次第発表し、企業としての社会的責任を果していくとしている。
なお、同件が2023年3月期の連結業績予想に与える影響については現時点で軽微とし、影響を認識した際は内容を精査の上、速やかに公表するとのことだ。
<参考>
塩野義製薬『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬エンシトレルビル フマル酸によるウイルス力価の早期陰性化ならびに罹患後症状(Long COVID)の発現リスクに対する低減効果について』