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エルコンでは、身の回りの生活や仕事で感じる「もしも○○を見分けられるAIがあったら」をテーマに、ELFEでどのようなことができるのか、こんなことができたらという想像を膨らませ、ELFEの実用可能性を広げるアイデアを募集するコンテスト。「エルコン」を通して多くの方々にELFEを知ってもらうと同時に、世にある課題のタネを発見することが本企画の目的だ。
今回は、一般参加者向けのアイデアのみ募集する「アイデア部門」と、事業会社向けの実際にPoCにチャレンジする「PoC部門」を同時開催。本稿では、PoC部門に参加した企業によるプロジェクトを振り返る。
PoC部門では5社が参加し、1ヶ月のPoCを実施
PoC部門では、参加した5社は、協賛企業であるソニービズネットワークスのサポートのもと、ELFEライセンスを無償で利用し1ヶ月間のPoCを実施した。各社が取り組んだテーマは以下の通り。優秀賞は株式会社welzo(旧:株式会社ニチリウ永瀬)による「いちごの病害検査」のプロジェクトが勝ち取った。
- 株式会社welzo(旧:株式会社ニチリウ永瀬)
「いちごの病害検査」 - 株式会社アドバンテスト
「基板の外観画像から、正常基板/異常基板を判別」 - 株式会社aba
「おむつの中の排泄物(便/尿)の量を見分けるAI」 - 株式会社地層科学研究所
「地震波形の誤検知判定」 - 新潟国際情報大学
「ドローン撮影画像からのハクチョウのカウント」
株式会社welzo(旧:株式会社ニチリウ永瀬)「いちごの病害検査」
優秀賞を勝ち取った株式会社welzoは、農園芸の領域でさまざまな製品を扱う専門商社だ。今回は同社の新規事業開発室に所属する生嶋拓也氏がエントリーした。
PoCではELFEを活用し、画像診断によっていちごの病害検査ができるモデルを作成した。具体的には、いちごの葉の表面の画像によって「健全」「うどん粉病」「炭疽病」の判別をするモデルを作成。
最初のモデルは、それぞれの画像数200程度(学習:検証=50:50)で作成し精度79.52%だったところ、画像数を400程度(学習:検証=50:50)に増やし82.60%まで向上。その後ソニービズネットワークスから学習に使う画像の比率を高めるべきというアドバイスをもらい、学習データと検証データの比率を75:25でモデルを作成することで、87.68%を実現したという。データについては農研機構が公開しているオープンデータを活用した。
ソニービズネットワークス株式会社でELFEの営業を務める菅原翼氏は、優秀賞に選定した理由についてこう話す。
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- ーー菅原
- 「どのプロジェクトも甲乙つけがたかったのですが、これまでテクノロジー活用未経験の方が1ヶ月で精度をどんどん上げられ、もともとのベンチマークも達成され、目的をもってPoCをやりきられました。自社データに縛られることなくオープンデータを活用されたり、チューニングを変えたりなど、どんどん知識をつけていきながら精度を上げる過程を楽しまれていたのが非常に印象的でした。当社としても、welzo様のようにAIに取り組む企業が増えてほしいという思いで、今回優秀賞に選定させていただきました」
実際に、生嶋氏は今回のPoCでさらに知識をつけてみたいと感じ、自らPythonを触ってみるようにもなったという。この内容は下記のインタビュー記事にて深堀りしているので、ぜひこちらもチェックしてほしい。
株式会社アドバンテスト「基板の外観画像から、正常基板/異常基板を判別」
株式会社アドバンテストは、半導体デバイスの測定器などを扱うメーカーだ。今回は、基板を始めとした故障品を修理する社内のリペア部門において、異常箇所を特定する際に人への負荷が高いことから、基板全体を撮影した画像からAIで異常箇所を特定できる状態を目指し、PoCを実施した。
PoC実施にあたっては、リペア部門は大量の異常基板画像を所有していたものの、AI学習に利用できない状態だったことから、正常時の外観画像のみを学習させる、異常検知のモデル作成を目指した。しかし、正常画像に絞っても、基板が大きいため、細部の部品が画像では見えにくいこと、基板の上にカバーが被さっているエリアがあり、これらを外すことも困難だったことから、実装部品が露出している一部のエリアの画像のみを使用するなどの制約があったという。
データの準備において、不鮮明な画像では正しい学習・判定ができず、数々のチャレンジがあった。AIへのインプットは画像のみであり、AI利用に適した画像や撮影環境が重要だと感じたという。
株式会社aba「おむつの中の排泄物(便/尿)の量を見分けるAI」
「誰もが介護できる社会」をつくるケアテックカンパニーである株式会社abaが取り組んだのは、「おむつの中の排泄物(便/尿)の量を見分けるAI」のPoCだ。
これまでの介護におけるおむつ交換記録の課題として、以下の3つを解決しようとしたものだ。実現すれば、業務の効率化や定量化、記録することで健康管理に役立てるなどのメリットがある。
- 人手で記録
紙からPCへの二重記録などの発生 - 介護職員によるバラつき
便や尿の量・形状の記録は介護職員の目により判断 - 便や尿の量・形状は記録しない
施設によっては便や尿の量・形状は記録しない施設も
実施にあたっては高齢者の便データ収集がこれまで無かったため、健常者3人でデータ収集を行った。結果として、教師データを確保し画像認識技術を用いることで、便の形状判定ができる可能性が見えた一方、データの収集面での課題を感じたという。将来的には、においデータを用いた排泄検知と画像認識AIを活用することで、量や形状を認識できるよう研究を進めていくという。
株式会社地層科学研究所「地震波形の誤検知判定」
株式会社地層科学研究所が取り組んだのは「地震波形の誤検知判定」。同社はコンピュータ技術を用いて、地質学・岩盤工学などの知識や理解に基づき、人間と地層との関わり合いで生じる防災・環境問題など、さまざまな問題解決に取り組んでいる。
日本は4つの大陸プレートに挟まれ、日々地震の脅威にさらされている地震大国だ。世界で発生するマグニチュード6以上の地震の約2割が、日本周辺で発生しており、今後30年以内に「南海トラフ巨大大地震」「首都直下型地震」の2つの大きな地震がくることが予測されている。
地震の大小にかかわらず被害を最小限に抑えるためには、地震が発生した場合に緊急地震速報を、正確に発信することが重要だ。実際に波形が取得され、その波形が地震かどうかの判断においては、現在も波形の振幅や周波数特性を考慮した方法などが検証されている。
今回同社が行ったのは、波形を画像に変換した上で、特定の波形が地震かそうでないかの検証を行うPoCだ。詳しくは、下記のインタビュー記事にて深堀りするのでこちらを参照してほしい。
新潟国際情報大学「ドローン撮影画像からのハクチョウのカウント」
新潟国際情報大学 経営情報学部 情報システム学科の河原和好氏が取り組んだのは、ドローン撮影画像からハクチョウをカウントするPoCだ。
2022年、新潟市はラムサール条約「湿地自治体」に国内で初めて認証され、ハクチョウやガンの飛来数について、市民有志が新潟県水鳥湖沼ネットワークを立ち上げ、10月から翌年3月までの毎週金曜日の早朝の同時刻に目視で飛来数を調査している。新潟国際情報大学でも教職員及び学生によるドローン研究会が、田んぼで画像を撮影し、環境調査等への応用を研究しており、今回のドローン撮影画像からハクチョウをカウントするチャレンジに至った。
実施にあたってはドローンで撮影した画像内にハクチョウが写っているかどうか、またハクチョウ以外にカモも写っているので、ハクチョウ、カモが映っているかどうかの判別や、空や陸地なども分類できるか試したという。結果として、データを用意して分類することができていれば、見分けやすいものはほぼ分類することができることがわかったという。そのためデータセット作成に注力すればよいが、一方でもともと分類が難しいものはAIでも難しいことや、AIではない他手法との比較もしてみたいとした。
AIはデータの質・量が正義
2022年12月14日に行われた表彰式での、ELFEの企画・設計を担うソニーネットワークコミュニケーションズの成瀬禎史氏による総評では「AIではデータの質・量が正義」だと話された。
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- ーー成瀬
- 「AIではデータの質と量こそが正義です。最近は画像であれば10枚でモデルはできてしまいますが、精度要求が高いとそれでは難しいことが多い。今回PoCを行っていただいた皆様には、データの重要性を痛感いただけたかと思います。まずはデータを集める、集められなければ擬似的に作るなどの取り組みが必要です。ELFEなど、学習ツールは日進月歩な一方で、データの良し悪しは非常に普遍的なものです。ぜひ収集したデータを資産と捉え、今後の実装に活かしていってほしいと思います」
AIモデルの作成にはデータが不可欠であり、データの量と質を両立することが求められる。ELFEなどの画像判別ソリューションを使うにも、まずはデータの収集が必要だ。時には、画像を何千枚と仕分けるといった非常に泥臭い作業が必要となる。
加えて成瀬氏は、「アイデアとプロトタイプはセット」とも指摘していた。実現したいアイデアを考え、データを収集し、モデルを作り、プロトタイプに落とし込んでみる。参加者の方々がアイデアとデータを武器に、このサイクルを回してどのようなサービスを作り上げていくのか、今から楽しみだ。