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大豆に変わる新たなトレンドとして、世界的に注目されている「ルパン豆」。タンパク質、食物繊維、ミネラルなどの栄養素にすぐれ、生産における環境負荷が少ない。素材としての使い勝手もよく、スーパーフードとも呼べる逸材といえる。
2015年頃からグローバルでルパン豆を使った製品化が本格化し、徐々に食品業界に浸透している様子が見られる。ルパン豆のポテンシャルと製品化事例を紹介したい。
「ルパン豆」が世界的に注目される理由
マメ科の植物であるルパン豆は、大豆に代わる植物由来の代替タンパク質として、世界的に認知が広がっている。ルパン豆を使ったパスタなどを販売するアメリカの企業「Brami」によれば、ルパン豆は「奇跡の豆」と呼ばれているそうだ。その理由として、同社は以下をあげている。
●地球上のあらゆる植物の中でカロリーあたりのタンパク質がもっとも高く、カロリーあたりの食物繊維もトップクラスに位置する。
●プロバイオティクス、消化の良さ、ミネラルの豊富さ、低脂肪、低GIの利点があり、グルテン・大豆・コレステロールを含まない。
●低炭水化物で、食欲を抑える効果があるとも知られている。
また、牛乳の代替としてルパン豆を使った食品を販売するドイツの企業「Prolupin」は、ルパン豆の環境負荷の低さや使い勝手の良さにも言及する。
ルパン豆は、CO2排出量が大豆よりも少なく(上記図参照)、大豆よりも少ない土地で栽培ができる。水の使用量は大豆と同程度で、牛乳を利用した場合と比較して約5分の1となるという。
素材としての魅力も高く、特許を取得した生産プロセスにより、溶解性が高くニュートラルな味の仕上がりに。「Prolupin」いわく、味や口当たりは乳製品に近いそうだ。
世界で加速する「ルパン豆」の製品化事例
続いて、世界的に増えているルパン豆の製品化事例について触れたい。
●ルパン豆の先駆者、アメリカ発「Brami」
ルパン豆市場の先駆者ともいわれるのが、2015年創業のアメリカ発「Brami」だ。同社では、そのまま食べたり、サラダのトッピングに使ったりできる「Lupini Bean」(4パックセットで24.69ドル、約3,600円)のほか、ルパン豆を使ったディップとパスタを販売する。
●特許技術を強みとするドイツ発「Prolupin」
2010年創業、ドイツ発「Prolupin」は、約30年の研究でルパン豆からタンパク質を分離させる独自の生産プロセスを開発、特許を取得している。2015年にコンシューマーブランドとして「MADE WITH LUVE」を立ち上げ、牛乳を使わないヨーグルト、飲料、アイスクリーム、クリームチーズなどを販売する。
●新星のスウェーデン発「Lupinita」「LuFu」
2019年に創業したスウェーデン発「Lupinita」は、地元で栽培したルパン豆を使ってテンペ(豆などをテンペ菌で発酵させた醗酵食品)を販売している。同社は、テンペを選んだ理由として「旨みが凝縮されており、さまざまな味付けが可能である」と話している。
4名の学生によって2020年に創業したスウェーデンのLuFuは、同じく地元産のオーガニックのルパン豆を使って食品開発に励む。インスタグラムでは、豆腐やナゲット、チョコレートブラウニーなど、精力的に開発する様子がうかがえる。
●代替え肉・魚に挑むオーストラリア発「Eighth Day Foods」
2020年に創業したオーストラリア発「Eighth Day Foods」は、食品製造業のパートナーと協力して、栄養価の高い植物由来の肉・魚介類代替製品を開発している。同社は、ルパン豆を使う強みとして、以下の4つをあげている。
1、画期的なシンプルさで、もっとも汎用性の高い製品を生産できるようにする
2、肉類より大幅に安い価格設定
3、持続可能性が高く、土壌を回復させる植物に由来する
4、単一の植物からすぐれた栄養を提供する
世界的に評価される「代替素材」はまだまだある
ルパン豆は、まだ爆発的な伸びには至っていないものの、世界の企業がいち早くマーケットシェアを獲得しようと開発に挑んでいる状態だ。日本でも、ルパン豆ビジネスにトライしようとしている起業家が現れている。
創業予定の企業「Lupinus」(ルピナス)は、世界最大のグリーンビジネスアイデアのコンテスト「ClimateLaunchpad 2022」日本大会で、ルパン豆の生産・植物性ミート開発をプレゼンテーションして優勝。起業に向けて取り組んでいるところだという。
最後に、将来有望なプラントベース関連企業を評価する世界的なアワード「World Plant-Based Awards 2022」から、ユニークな代替食品を抜粋して紹介したい。
●カシューナッツミルクから作るチーズ
Best dairy product alternative(最高の乳製品代替品)で受賞したのは、スイスで創業した「New Roots AG」。同社は、カシューナッツを原料にしたミルクを使用して、チーズ、スプレッド、ヨーグルトの代替品を提供している。環境負荷は、植物性チーズの10倍低くなるそうだ。
●ヘンプの実&ひまわりの種で作るアイスクリーム
Best plant-based dessert/confectionery(最高の植物性デザート/お菓子)で受賞したのは、オーストラリアで創業した「SuperSeed Ice Cream」。グルテン、乳製品、ナッツ類などのアレルゲンを排除した植物性のアイスクリームが評価された。原料は、天然のヘンプの実のミルクと、サンフラワーシードバター(ひまわりの種バター)。ヘンプとは麻のことで、栄養価の高いスーパーフードとしても知られている。
●マメ科植物ベースの全卵
Best plant-based functional product(最高の植物由来の機能性製品)で受賞したのは、シンガポールで創業した「Float Foods」。同社が開発するのは、卵黄と卵白ともにマメ科植物を原料としたアジア初の全卵「OnlyEg」だ。
全卵と同等の栄養価を持ち、豊富なタンパク質を含む。また、コレステロール、ホルモン、残留薬剤を含まないメリットもある。
Bloomberg Intelligenceによれば、植物性食品市場は2030年までに世界のタンパク質市場の7.7%を占め、2020年の294億ドル(約4兆3,000億円)から1,620億ドル(約23兆7,000億円)以上に増加する可能性があるという。まだまだ発展途上であり、注視すべき市場だ。
文:小林香織
編集:岡徳之(Livit)