「ゴ----ル!!」

興奮冷めやらぬ実況者の絶叫、スタジアム中に響き渡る歓声。泣いたり、笑ったり、世界中の人々が熱狂する4年に1度の祭りの季節が、またやって来た。

今年のW杯では、「色のない」レインボーフラッグがスタジアムを彩ることになるかもしれない。それはいったいなぜだろうか。

2022年11月20日にカタールで開幕する、サッカー・ワールドカップ。今回は初の中東で、イスラム教を国教とする国での開催となる。

カタールでは同性愛行為が法律で禁止されている。W杯では、100万人を超えるあらゆる性的指向(人の恋愛・性愛の対象がどういう方向に向かうのかを示す概念)のサッカーファンがカタールを訪れるわけだが、その人権が守られるのかどうか、懸念する声もあがっていた。

これに対し、カタール大会組織委員会のナーセル・ハテルCEOは、CNNのインタビューで、「カタールは(性的指向などに関係なく)すべてのファンを歓迎する」と断言(※1)。2020年12月には、LGBTQ支持を表すレインボーフラッグに関して「FIFAのガイドラインに従う」とし、その掲揚を認める意向を表明した。

しかし、2022年10月には、カタールの国会議員ナーセル・クバイシー氏が「カタールの憲法と法律は、同性愛者が旗を掲げたり、逸脱した考えを広めたりすることを認めない。カタール国民の代表として、またその価値観を表現する者として、私は我が国における道徳的劣化の旗を掲げることを認めない(※2)とツイート。

また、同じく10月、国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)が、カタール当局は国内でLGBTQの人々を恣意的に拘束、虐待していると告発するなど、不安を煽るニュースが報じられている。

LGBTQ+を含め、すべての人が歓迎される大会になるのだろうか。本当にレインボーフラッグを振っても大丈夫なのだろうか。そんな不安に応えるようにとあるキャンペーンを行ったのが、色見本で有名な企業・Pantoneと同性愛差別と闘う団体・Stop Homophobieだ。

「Colors of Love」と題されたこちらのキャンペーンでは、レインボーフラッグのそれぞれのカラーをPantoneコード(幅広い業界で色の指定に使われるカラーコード)に置き換えた「色のないレインボーフラッグ」を作成。一目ではレインボーフラッグだとわからない見た目にすることで、堂々と旗を振ったり、フラッグをモチーフにしたTシャツを身に着けたりできるようにしたのである。

すべての文化は対等であり、外から見た価値観によって優劣をつけられるもののではないという思想・文化相対主義(Cultural Relativism)。それぞれの国の文化を大切にすることは重要だ。しかし、誰もが自分らしく生きられる世の中を作るのも同じように大切なことである。違いを尊重しながら、人権を守るのは難しい。だからこそ対話が必要なのだろう。

このキャンペーンが「自分が大切にしたいもの」について想いを馳せ、対話を始めるきっかけとなるよう願っている。

※1 Qatar 2022: Amid ongoing human rights concerns, World Cup chief promises host nation is ‘tolerant’ and ‘welcoming’
※2 カタールは「すべての人を歓迎」できるのか サッカーW杯カタール大会と露呈する価値観の相違(Yahoo!)

【参照サイト】Pantone・STOP HOMOPHOBIE Colors of Love
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(元記事はこちら)IDEAS FOR GOOD:カタールW杯で、「色のない」レインボーフラッグが掲げられる理由