今年に入ってからの異常気象は目に余るものがある。気候変動問題が一般人の知るところとなってからずいぶん時間が経つ。「とうとう来たか」という感も否めない。原因は人間が大量に排出する、温室効果ガス(GHG)だ。昨年、世界全体で排出されたGHGは363億トン。前年より6%増えている。

© Governor David Y. Ige (CC BY-NC-ND 2.0)

では、この記事を読んでいるあなたも、現時点で気候変動に加担しているといわれたら、どう感じるだろうか。そう、インターネットの利用もGHG排出に通じている。「デジタル・カーボンフットプリント」だ。

インターネットを日常的に利用する人は、現在約53億人。世界人口の66%を占めるまでになった。コロナまん延を経て、私たちの生活は以前にも増してインターネットに頼るようになった。たしかにデジタル化によって守れる資源はある。しかし、だからといってデジタル化がGHG排出を助長するのでは元も子もない。

デジタル・テクノロジーからのGHG排出量は全体の3.7%

ポストカーボン経済への移行を提唱するフランスのシンクタンク、シフト・プロジェクトが2019年の報告書で、デジタル・テクノロジーからのGHG排出量は全体の3.7%を占めていると指摘している。数ある産業界のうちでも、その排出量の多さで矢面に立たされている航空業界に匹敵する。排出量は2025年までに2倍に膨れ上がると予想されている。

インターネットが結果的にGHGを大量発生させている理由は、単純にいえば、莫大な量の電力を使っているからだ。

当たり前のことだが、インターネットを利用するにはコンピュータや携帯電話などが必要。それらを製造する際にも、配送する際にも、また消費者の手に渡ってからは、デバイスを利用する際にも電力はなくてはならない。やりとりされる情報を保存し、インターネットの接続を維持するには、インフラも関係してくる。人工衛星やケーブル、データセンターなどでも電力が使われる。

データセンター © Raw Pixel

2017年のグリーンピースによる「クリーン・クリック」報告書で、ITセクターでの電力消費の内訳が分析されている。それによれば、デバイスが34%、データセンターが29%、ネットワークが21%、商品製造が16%を占めた。使用するデバイスのサイズ、アクセスしているデータセンター、双方の電力がどこから供給されているかなどによって、GHG排出量は変わってくる。

Eメールを1通送付すると、約4グラムのGHGが排出される

カーボンフットプリントを研究するマイク・バーナーズ・リー氏の著作『How Bad are Bananas?: The carbon footprint of everything』によれば、Eメールを1通送ると約4グラム、スパムメールでは0.3グラム、写真添付されたEメールは50グラムのCO2eを排出するという。同氏の計算によれば、一般的な会社員が1年間に送るEメールは、135キログラムのCO2eを作り出しているそうだ。

しかし、これらの数字がはじき出されたのは、約10年前。同氏が設立した炭素会計を専門に行うサステナビリティ戦略のコンサルティング会社、スモール・ワールド・コンサルティングのカーボンフットプリント専門家、シャーロット・フライタグ氏は、近年デバイスのサイズが大きくなるのに比例して、Eメール送付で排出されるGHGも増えていると予想する。

また英国についていえば、2019年、国内大手独立系エネルギー供給会社のOVOエナジーが委託した調査で、調査対象者の72%が自分が送受信するEメールがGHGを出していることを認識していないことが分かった。人びとは「ありがとう」などの社交辞令的な短いEメールを毎日6400万通以上送っており、それが年間約2万3000トン以上のCO2eとなって大気に放出されている。

OVOエナジーによれば、もし英国のすべての成人がこうしたメールを1通減らすだけで、1年にディーゼル車約3300台分に相当する量のGHGが削減できるという。Eメールでもプロバイダー広告用のものは年間200万トンのCO2eを排出していることを、昨年クリーンフォックスが明らかにしている。

ネットを通じて連絡を取り合っても、環境には影響が

Eメールのほかに、メッセージをやりとりする方法としては、WhatsAppやFacebook Messengerなどのインスタントメッセージングがある。フライタグ氏は、これらが排出するCO2eは、約4グラムのEメールをわずかに下回る程度だと予想する。

SMSテキストメッセージは、テキスト1通につき、0.014グラムのCO2eで済む。この方法が最も環境に配慮した連絡方法だといえる。TwitterのCO2e排出は0.2グラムだ。

© Katerina Holmes/Pexels

携帯電話で1分間、電話をかけた場合、テキストより少しGHGは高くなるだろうとフライタグ氏は考える。

では、ビデオコールや、ZoomやMicrosoft Teamsなどを通してのWeb会議はどうだろうか。昨年、マサチューセッツ工科大学、イェール大学、パデュー大学が合同で調査・研究した結果、1時間のビデオコールやWeb会議は150~1000グラムのCO2eになるという。

もちろん、顔と顔を合わせた場合のGHGの排出量は、これをはるかに上回る。しかし、インターネットを通じて行ったからといって、排出量がゼロというわけにはいかない。

従来よりGHG排出量は少なくて済む、ネット検索とネットショッピング

検索エンジンを通して情報を得ることができるのも、インターネットの利点の1つといえる。しかし、ここでもGHGは切り離せない。

© Vyacheslav Argenberg / http://www.vascoplanet.com (CC BY 4.0)

Googleを例に挙げると、同社は検索1回あたり0.2グラムのCO2eと主張する一方で、英国の環境コンサルタント会社、carbonfootprint.comの最高経営責任者、ジョン・バックレー氏は検索1回あたり1~10グラム、『Ten Technologies to Save the Planet』の著作のあるクリス・グーダル氏は7~10グラムのCO2eを排出していると予測する。

また、コロナまん延の影響でより人気が高くなったオンラインショッピングは、MITによれば、従来のショッピングよりGHG排出量は少なくて済むという。しかし、商品発送と返品によって出るGHGは2020年、全排出量の約37%を占めたと、環境関連のニュースとデータのプラットフォーム、Earth.Orgは指摘する。特に当日発送や即時発送を選ぶ消費者が増えているが、環境への影響を考えれば避けるほうがいいと世界経済フォーラム(WEF)は警告する。

オンラインで最もエネルギーを消費するストリーミングは要注意

ストリーミングは、オンラインで最もエネルギーを消費するものの1つだと指摘するのは、ボランタリーカーボン市場をリードしてきた2社の専門知識を生かしたグループ、クライメート・インパクト・パートナーズだ。

米国のNetflixとYouTubeだけで、全世界のインターネット・トラフィックの63%も占めるという。これらを1時間視聴すれば、約36グラムのCO2eが発生すると、国際エネルギー機関(IEA)が分析する。

© RODNAE Productions/Pexels

音楽の場合、1曲を1回ストリーミング再生した場合のCO2排出量は非常に少ない。ある曲を聴く回数が27回以下なのであればストリームのほうが環境に優しいと、英国キール大学の環境科学講師、シャロン・ジョージ氏らが、ザ・カンバセーションへの寄稿記事で触れている。

英国ランカスター大学の研究者は、2030年までに、クラウドゲームが環境に与える影響を予測した。30%のゲーマーがクラウドゲームのプラットフォームを使用すると仮定した場合、GHGが約30%増加すると警告している。これは、今後もクラウドゲーミングの人気がほとんと伸びないと仮定した場合で、もし人気が出た場合、GHGは劇的に増加するそうだ。

ビットコインの年間CO2排出量は、ヨルダン全土のそれより多い

クリプトカレンシーも決して環境負荷なしというわけにはいかない。

ブロックチェーンの分散型台帳システムで取引を検証するために使用される、いわゆる「プルーフ・オブ・ワーク」アルゴリズムには、膨大な量の計算能力が必要だ。

2019年に発表されたビットコインのカーボンフットプリントの調査・研究結果で、ビットコインの年間電力消費量は約46Twh (テラ・ワット・アワー)、年間CO2排出量は約22〜23 MtCO2e(約2200万トンのCO2)にも及ぶことがわかった。これは、ヨルダン全土のCO2排出量よりも多い。

2030年までに、デジタル・テクノロジー企業38社がカーボン・ニュートラル

The Carbon-Neutral Net from Logan Franklin on Vimeo.

今年6月に、世界の主要デジタル・テクノロジー企業150社のデジタル・カーボン・フットプリントを調査・分析すると同時に、気候変動に対する取り組みを紹介した報告書「グリーニング・デジタル・カンパニーズ:モニタリング・エミッションズ・アンド・クライメート・コミットメンツ」が発表された。国際電気通信連合(ITU)と、ビジネスのSDGsを推進する国際NGO、ワールド・ベンチマーキング・アライアンス(WBA)が協働でまとめたものだ。

これら企業の運用時のGHG排出量は2020年に2億3900万トンを占め、世界全体の0.76%に、また電力消費量は425TWhで、世界の電力生産量の1.6%に相当した。これらのうち、38社が2030年までにカーボン・ニュートラルになることを目指し、堅実に努力を積み重ねている。さらに5、6社がそれらを追い、カーボンニュートラルを達成する見込みだという。

デジタル・テクノロジー企業だけでなく、一般企業も自社のウェブサイトからCO2が生じるのを抑えようと試みている。ウェブサイトは、一般的に1ページビューで1.76CO2e、月間10万ページビューのウェブでは、年間2110キログラムのCO2eを発生している。

例えば、フォルクスワーゲン・カナダは、EV車のウェブページを低炭素型ウェブサイトに切り替えた。コードとアセットの最適化、フォントのサブセット化、高解像度の写真をASCIIテキストベースの画像に置き換え、データ転送量を軽減し、転送にかかるエネルギー消費を削減したのだ。これで、1ページビューを0.022グラムのCO2eに抑えることに成功した。

さて、インターネットはGHGを大量に排出するというデメリットがある。しかし、一つひとつの利用法を考えたとき、従来の方法よりインターネットを通して行うほうが排出量を減らせることがあるのも事実だ。気候変動を少しでも解消するために、GHGに対するデジタル・テクノロジー企業の努力と消費者の認知度アップが、今、必要とされているのではないだろうか。

文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit