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Bloombergのサイトに発表されている「世界のビリオネアインデックス」。毎日更新で資産価値が計算され、誰が今日世界で一番の長者なのかが分かるようになっている。
テスラ社のイーロン・マスク氏、アマゾンの創始者ジェフ・ベゾス氏、LVMHグループのベルナール・アルノー氏となじみの顔ぶれに加えて、ベゾス氏と日替わりで第2位の座を争っているインドの富豪がいる。それがゴータム・アダニ氏だ。
アジア人初のランク入り、アダニ・グループとは?
2022年9月17日付NPR(米国公共ラジオ放送)によると、アダニ氏はベゾス氏を追い抜いて世界第2位に躍進。総資産額は1470億ドルから1520億ドル(約21兆円から21兆7000億円)とみられ、アジア人がトップ3にランクインするのは、アダニ氏が初となる。
モディ首相との関係が深く、モディ政権から多くの恩恵を受けていることが公然となっているアダニ氏とは、どのような人物なのだろうか。
アダニ氏が率いるアダニ・グループは、タタ、リライアンス・インダストリーズと並ぶインドの3大コングロマリットの1つ。アダニ氏本人は起業家初代で、アダニ・グループのHPによると、同社は「インドの成長を加速させるための国際的レベルのインフラ構築に注力している」とのこと。上場会社7社を含む同社の事業はエネルギーから、港湾・空港、ロジスティクス、工業、資源、ガス、国防、航空と多岐に渡る。
アダニ氏の資産はこの2年の間に365%アップ、つまり307億ドルから一気に1163億ドル増やした計算。モディ政権の台頭とともに富を増やしているとされ、関係が噂されているもののアダニ・グループはこれを否定している。しかしながら、モディ首相が2014年に就任した際にはアダニ社の大きなロゴの入ったプライベートジェット機でアーメダバードからニューデリーへと飛んだばかりでなく、選挙運動期間中もこのプライベートジェットがモディ氏を送迎、どんなに忙しくても必ず自宅に帰宅できていたことは有名な逸話だ。
インドの北西部グジャラート州アーメダバード出身のアダニ氏は、モディ首相と同郷ということになるが、その点ではライバルのリライアンス・インダストリーズの会長ムケッシュ・アンバーニ氏も同郷だ。
モディ氏との関係を巡るスキャンダル
資産を大幅に増やしているアダニ・グループだが、今年6月にもスキャンダルが浮上した。
隣国スリランカのマナー地区の島で展開する風力発電プロジェクトを巡り、スリランカの当時の大統領がモディ首相から直々に「アダニ社にプロジェクトを委託するように」と圧力をかけられたとする証言が飛び出したのだ。セイロン電力庁の会長(当時)が同様に、大統領(当時)から圧力をかけられたと議会の公営企業委員会で発表。
これに対してスリランカの当時のラジャパクサ大統領がツイッターで即否定するなど、物議を醸した。アダニ・グループ側も「がっかりした」との声明を発表するも、テレビ局が独自のルートで「文書」を入手し公表、インド国民に「やっぱり」と思わせる内容のスキャンダルであった。
しかしながら、その2日後にセイロン電力庁の元会長が「発言を撤回する」と発表、感情的になってしまったためにうその証言をしてしまったと弁明し、辞任することで幕引きを図った。
なおアダニ・グループはスリランカで総額5億ドルのプロジェクト2つを受注したほか、過去には国営スリランカ港湾公社とコロンボ港西国際コンテナターミナルの展開で7億ドルのプロジェクトも受注しているのは事実だ。
メディア買収計画も物議
さらに現在、インド国内で物議を醸している買収計画もある。
ジェフ・ベゾス氏がワシントン・ポスト紙を、マードック一族がFoxを、というようにアダニ・グループもメディア事業の獲得に乗り出したもの。今年8月、インドの老舗メディアNDTV(ニューデリーテレビジョン)の買収計画を発表し物議を醸した。このメディア買収計画は、国内のメディアに影響力のある他のインドの3大コングロマリット「リライアンス・インダストリーズ」を率いるムケッシュ・アンバーニ氏に対抗するものとみられている。
NDTVはインド国内外で人気のある一般ニュースおよび政治ニュースのチャンネル(ヒンディ、英語のチャンネル有)で、モディ首相に批判的なメディアとしても知られている。アダニ・グループの傘下会社が29.18%の株式獲得に向けて権利を行使したと発表し、さらに26%分を買い増す計画を発表。これに対してNDTV側は創業者の同意もなければ対話もない一方的なものと猛反発し、阻止を試みている。
同社がアダニ・グループの傘下に置かれれば、モディ首相に批判的な言論が封じ込められ、アダニ・グループの事業に都合の良い報道に偏るのは確実だとする懸念の声がジャーナリストたちから上がり始めている。
また、リライアンス・インダストリーズもまた巨大メディアハウスのNetwork18をコントロール下に置いている。
インドの将来をけん引する財閥、急激な富に集まる反発も
ライバル視されているインドのビジネス立役者、アダニ・グループとリライアンス・インダストリーズの両財閥を合わせた収益は、インドのGDPの実に4%を占め、世界的に投資そのものが控えられている昨今でも非金融系の上場企業の資本支出の25%を担っているという計算もある。
一方、非営利団体オックスファムによると、新型コロナウイルスのパンデミックで、世界の人口の99%が収入源に苦しむ中、世界のトップ10富豪の資産は倍増していると警告。極めてリッチな人々が人類史上類を見ない勢いで富を増やしている。
報告書で名指しされているアダニ氏は特に、パンデミックの最中に資産を8倍にし、その多くがフットプリントを残す化石燃料セクターからのものだとされる。政権との親密な関係を利用し、港運営では国内最大、最大の石炭火力発電者でもある。かつては「公共事業」とみなされていた電力の輸送やガス供給、空港を私有化することによって富を得ているとも指摘されている。
なお、アダニ・グループは傘下のアダニ・グリーンエネルギーで、風力と太陽光発電から成る再生可能エネルギーを産出し、2030年までに世界最大の再生可能エネルギー会社になることを目標に掲げている。
さらにセメント大手のホルシムからインドの事業であるアブジャンを買い取ると、インド最大の社会基盤分野での獲得となりその額は65億ドル、アダニ・グループとしても過去最大の買収規模であったと発表している。
アダニ氏は「世界最大の再生可能エネルギー会社として、循環経済の原理に基づいたグリーンセメントの生産をし、2030年までに最大かつ最も効率的なセメント生産者となる目標に向けて邁進する」と述べている。
このセメント会社は2030年までに生産量を現在の2倍、年間1億4000万トンにまで上げていく。奇しくも、政府のインフラ整備計画なども相まってセメントの需要は長期的にGDP成長率の20~50%増しで増加すると見られている。
英国を追い越したインドのGDP
インドのGDPは2022年1〜3月期に英国を抜いて世界第5位に躍進した。IMFは次の10年でドイツと日本もインドに追い抜かれる可能性が高いと予想。
また、アジア開発銀行が7月に発表した「アジア経済見通し2022年版」では、今年のインドの経済成長率を下方修正しつつも7.2%という見通しを発表。これは、アジア・太平洋地域の開発途上国の見通し4.6%と比較しても高水準だ。
一方で、モディ首相肝いりのアダニ氏には噂話やフィッチレーティングスによる「負債が多すぎる」という警告がまとわりついて離れない。これほどの巨大なコングロマリットが、負債での投資を続けたり、長期負債を抱えていることによって、同グループだけでなくインド経済全体が負債地獄のスパイラルに陥る可能性も指摘されている。
インド国内では、このままモディ首相が財閥と癒着して建国という危ない橋を渡り続けるのか、そして25年後には先進国入りすると宣言した首相のかじ取りとそれを取り巻く財閥の噂に注目が集まっている。
文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit)