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メタ、インドでスーパーアプリの取り組み開始
GrabやUberなど、配車だけでなく、ショッピングや支払いなど、アプリ1つでさまざまな役割を果たす「スーパーアプリ」が世の中にいくつか存在する。
しかし今のところGAFAM発のスーパーアプリはない。ここにメタが切り込んでいくようだ。
メタは、世界20億人のユーザーを抱えるメッセージアプリWhatsAppをスーパーアプリに進化させる試みをインドで開始。この取り組みではインドのEコマース大手JioMartと提携、これによりユーザーはWhatsAppを離れることなく、アプリ内でショッピングができるようになる。
メタが目指すのは、ショッピングだけでなく、家賃支払い、コンサートチケット購入など多様な機能を持つWeChatともいわれており、今後様々な機能が追加されることが見込まれる。
インドでは、JioMartを傘下に持つリライアンスが250億ドルを投じ、インド国内すべての地域に5Gを普及させようとしているところ。国内のモバイルユーザーがさらに増え、WhatsApp利用者も増加する公算が大きい。
インドにおけるWhatsAppの現状
日本でメッセージアプリといえばLINEの名が真っ先に挙がるが、世界市場ではWhatsAppが圧倒的シェアを持っている。
WhatsAppは、2009年にローンチされ、2014年にメタ(当時フェイスブック)が推定190億ドルで買収した。
Backlinkoがまとめた2022年1月までのWhatsApp関連のデータを見てみたい。
まず現時点のユーザー数は20億人。買収された2014年時点のユーザー数は4億6500万人だった。そこから365%増加したことになる。1日あたりに送信されるメッセージ数は2020年に1000億件に達した。
米国市場での調査によると、WhatsAppユーザーは、26〜35歳が全体の27%を占め最多。これに36〜45歳が20%、15〜25歳が19%、46〜55歳が17%、56歳以上が13%と続く。
注目したいのは、国別ユーザー数だ。
最もユーザーが多い国はインド。その数は3億9000万人以上と2番目のブラジル(ユーザー数1億840万人)の4倍近い規模となる。
1億人を超えるのは、インドとブラジルのみ。以下、米国7510万人、インドネシア6880万人、ロシア6470万人、メキシコ6230万人、ドイツ4830万人、イタリア3550万人、スペイン3300万人、英国3010万人と続く。
この数字を見ると、メタがWhatsAppのスーパーアプリ化に向けインドを選んだ理由がわかるだろう。
5Gネットワーク拡充とモバイルユーザー拡大
2023年に中国の人口を超えるとみられるインド。総人口は14億人を超える。
現在、そのインドで5Gモバイルネットワークを拡充する動きが報じられており、モバイルユーザーはさらに増える見込みだ。これにともない、WhatsAppユーザーも増える可能性がある。
2022年8月末には、インドの通信最大手といわれるReliance Jio Infocomm(Jio)が5Gネットワークの拡充に向け250億ドルを投じる計画を明らかにした。同社の通信サービス利用者数は現在4億2100万人。同社は5Gネットワークの拡充により、2023年末までにインドの「すべての街」に5Gを普及させると公言している。
また、Jioはグーグルと提携し、安価な5Gスマートフォンの開発を進めており、モバイルユーザー拡大の基礎固めに余念がない。同じくグーグルと開発した4G版「Jio Phone Next」は2021年11月にローンチされ、現在60ドルほどの価格で提供されている。
冒頭でも触れたが、今回メタがWhatsAppのスーパーアプリ化でまず手を組んだのが、リライアンス系のEコマース企業JioMartだ。
JioMartは、リライアンス・リテールとJio Platfromsの合弁事業として発足し、2019年12月にサービスがソフトローンチされた。当初は、食品・雑貨(グロサリー)に特化していたが、ファッション、インテリア、ライフスタイルなど取り扱う範囲は幅広くなっている。
前出のReliance Jio Infocommは、Jio Platfromsの子会社という位置づけ。一方、Jio Platfromsとリライアンス・リテールは、インド財閥企業リライアンスの子会社となる。
インドのWhatsAppユーザーは、WhatsApp上のJioMartアカウントに「Hi」とメッセージを送信することでショッピングを開始できる。支払いもWhatsApp上で完結するため、ワンストップのショッピング体験が実現した格好だ。
東南アジアにおける先行プレイヤーの動き
スーパーアプリとして先行するプレイヤー動向から、WhatsAppに今後どのような機能が追加されるのかを予想することができるはずだ。
アジア圏において利用者が多いスーパーアプリの1つがGrabだ。
配車サービスから始まり、現在はフードデリバリー、Eコマース、デジタル支払い、後払いサービスなどさまざまな機能を持つスーパーアプリとして、主に東南アジアで利用されている。
Grabは2012年にタクシー配車アプリとしてマレーシア・クアラルンプールでローンチされた。ローンチ時のサービス名は「MyTeksi」だったが翌年にGrabTaxiに変更、さらにシンガポールへの移転にともない現在のGrabに名称を変更した。
Grabが配車以外の領域でまず注力したのがデジタル決済機能の拡充だ。2017年4月には、インドネシアのフィンテック企業Kudoを買収し、同プラットフォームとGrabの支払いシステムを統合。同年11月には、配車サービス以外でも利用できるデジタル決済機能「GrabPay」をローンチする運びとなった。
また2018年1月には、フィンテック企業iKaazを買収し、Grabアプリでデジタル決済できる領域を東南アジア全域に拡大した。
その後Grabは、2018年5月にフードデリバリーサービス「GrabFood」、10月にパッケージデリバリーサービス「GrabExpress」、金融サービス「Grab Financial」など短期間で多様なサービスを追加している。
Deal Streat Asiaの市場分析によると、東南アジアのスーパーアプリプレイヤーにとって金融サービスが将来の成長に欠かせない存在となっており、今後金融サービスを一層強化する動きが活発化する可能性があるという。
東南アジアでは、Grabとインドネシア発のGoToがスーパーアプリの成功事例として注目されているが、タイなどでも国産スーパーアプリを開発しようという動きがみられる。
タイ地元メディアBangkokPostが2022年8月4日に伝えたところでは、タイのフードデリバリー/旅行プラットフォームRobinfood、グーグルクラウド、さらにシステムインテグレーターMFECが提携し、タイ発のスーパーアプリ開発を目指すという。
このほか、マレーシアの格安航空サービスとして知られるエアアジアが東南アジア域内でスーパーアプリの普及に乗り出している。もともと航空券予約機能しかなかったエアアジアアプリだが、今ではホテル予約、配車、フードデリバリーなどの機能が追加され、スーパーアプリに進化。マレーシアのほか、タイでのアプリ普及を目指すようだ。
メタによるWhatsAppのスーパーアプリ化の取り組みはインド国内やアジア市場にどのようなインパクトをもたらすのか。また、東南アジアのスーパーアプリは、WhatsAppがスーパーアプリとして台頭した場合、どのような対応を見せるのか、今後の動きから目が離せない。
文:細谷元(Livit)