2023年に人口で中国を超えるインドだが、同国のスタートアップ界隈でも大きな変化が起きている。

数年前まで、数社にとどまっていたインドのユニコーン企業は、この数年でその数が急増し、これまでの累計数は103社にまで達した。ただし、評価額の変化などにより2022年現時点のユニコーン企業数は82社となっている。

ユニコーン企業の調査を行っているHurun Research Institruteの報告では、今後インドユニコーン数はさらに増加する見込みとなっており、2~4年後には122社に到達する可能性があると予測されている。

 米IT業界をリードする5社(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)を指すGAFAMの投資も活発に行われているインドのスタートアップシーンでは、これからどのようなユニコーン企業が誕生しようとしているのだろうか。

ユニコーン企業が急激に増加するインド

評価額10億米ドル以上の未上場新興企業に与えられる称号であるユニコーン企業。インドでは、たった10年ほど前の2011年に最初のユニコーン「Inmobi」が誕生した。

インドで最初に誕生したユニコーン企業「Inmobi」 公式ウェブサイトより

同社はその後、世界に22拠点、1,500名の従業員を擁する世界最大級のモバイルアドプラットフォーム企業へと成長し、シンガポールに本社を移したが、その間、インドのスタートアップエコシーンも急激な成長を達成、ユニコーンの数は100社を超える勢いで増加している。

特にフィンテック分野でのスタートアップの躍進は著しく、これまでに生まれたインド発ユニコーンのうち、少なくない数が近い将来、デカコーン(評価額100億米ドル以上の未上場スタートアップ)へとさらなる成長を遂げるのではないかと言われている。

Amazonはインドの中小企業支援のベンチャーファンドを設立

Amazonが毎年開催しているインド中小企業イベント「Smbha」 Sell on Amazon India Youtubeチャンネルより

急成長するインドのスタートアップシーンには、GAFAMなど、米国のIT企業も注目しており、活発に投資を行なっている。

Amazonはインドにおいて、豊田通商も出資している中・長距離バスアプリ「Shuttl」や、オンラインを中心に自社ブランドの化粧品を提供するユニコーン企業「MyGlamm」へ出資してきたことで知られているが、さらに「Amazon Smbhav Venture Fund」と名付けられた2億5000万ドルの新しいベンチャーファンドを設立し、中小企業のオンライン化、デジタル化、グローバル化を支援することを、同社が毎年開催するインドに拠点を置く中小企業に焦点を当てたイベント「Smbhav」で発表した。

Googleもインドで複数のスタートアップに投資

ユーザー数でインドを最大のマーケットとするGoogleも、これまでグロサリーデリバリーの「Dunzo」、ニュース・コンテンツアプリの「Dailyhunt」(旧Newshunt)などのインドスタートアップに投資を行なっている。「Dailyhunt」はインドのローカル言語にフォーカスした情報をデジタルで提供する初の企業として注目されており、Microsoftからも出資を受けている。

Googleは、昨年には、企業のオンライン化を支援するスタートアップで、約9000万ドルの評価を受けている「DotPe」に投資しており、実店舗がオンラインで顧客に販売し、デジタルで支払いを回収することを支援する同社のビジネスを強力に支援している。

インドの販売者にワンストップeコマース・プラットフォームを提供し注目「Shoprocket」

いまだユニコーン入りはしていないものの、今後急成長が見込まれているインドのスタートアップも数多くある。

そのひとつは、2013年に設立、ニューデリーに拠点を置く「Shoprocket」だ。

様々なプラットフォームでオンライン販売を簡単に始めることができる「Shoprocket」 公式サイトより

販売者が、ブログ記事に購入ボタンを埋め込んだり、自社のウェブサイトにオンラインストアを統合したりといった形で、すでに創り上げたオンラインプレゼンスを活用してオンラインでの販売を開始できるEコマースプラットフォームを提供する同社は、現在では、世界247カ国で、25,000以上のあらゆる規模の企業にEコマースのツールを提供している。

19歳が起業、高速グローサリーデリバリーの「Zepto」

「Shoprocket」のようなEコマース関連企業は、パンデミックで急成長しているが、同じようにグローサリーデリバリーの需要も急増している。

スタンフォード大学を中退した19歳のインド人学生2人が母国に戻って立ち上げた「Zepto」は、ムンバイなど11都市で展開する、10分以内の食料品配達を謳ったクイックコマーススタートアップだ。最近、シリーズ D ラウンドで2億米ドルを調達し、時価総額は9億米ドルとユニコーン入りまであと一歩となっている。

10分間以内に日用品や食品、軽食等を配達する「Zepto」 公式サイトより

現在、新しい試みとして、ムンバイの一部の地域で、コーヒーなどカフェの商品を10分で配達するサービス「Zepto Café」を試験的に開始、運用が順調に進めば、このサービスもインド全域に拡大する予定だ。

オンラインでインド市民の保険へのアクセスを拡大「Turtlemint」

2019年の時点で、保険に未加入の国民の割合が96.3%と圧倒的なインドにおける保険普及率の向上に貢献、ムンバイに本社を置く、2015年設立の「Turtlemint」も、ユニコーン入りを期待されている。

インドの保険加入普及率に貢献 オンライン保険契約プラットフォーム「Tutlemint」 Insurance Gyan by Turtlemint Youtubeチャンネルより

保険の選択と購入を支援するオンラインプラットフォームを提供している同社は、インド全土にサービスを拡大しており、これまで複雑で面倒であった販売プロセスを、モバイルアプリを通じてオンライン化することで効率的に進化させ、120,000人以上の保険アドバイザーが150万人以上の顧客に対応するまでに成長した。

インド全土に電動スクーターの普及を目指す「Athter Energy」

著しい経済発展を遂げている新興国で課題となっている環境問題に関連して、ユニコーン入り間近かと注目を集めているのが、2013年に設立された電気スクーターメーカー「Ather Energy」だ。 

電動スクーターと充電インフラをインド全国に提供している「Ather Energy」  Ather Energy You tubeチャンネルより

バイクとスクーターが車以上に使用されるインドにおいて、Ather 450XとAther 450 Plusの2種類の電動スクーターの製造に加え、2021年11月時点で、インド国内23都市で220以上のAther Gridと呼ばれる急速充電ポイントを設置している。

昨年から稼働している新工場はスクーター110,000台、バッテリーパック120,000台の年間生産能力を持ち、インドで深刻な排ガスによる大気汚染問題にも一石投じることが期待されている。

インド最大のB2B生鮮食品サプライチェーンプラットフォーム「Ninjacart」

一方、インドのモディ政権が農業の生産性向上と、農業従事者の困窮の解決に取り組んでいる農業分野では、ITを活用したサプライチェーンの効率化が課題となっているが、インド最大のB2B生鮮食品サプライチェーンプラットフォームを開発、提供し、この課題に挑むのが「Ninjacart」だ。

農作物の生産者と小売業者をテクノロジーでつなぐ「Ninjacart」 Ninjacart Youtubeチャンネルより

インド主要7都市で17000以上の小売業者にサービスを提供している同社は、農場から小売店まで12時間以内に生鮮食品を届けるネットワークを構築、インドでこれまで伝統的に行われてきた複数の仲買人による農産物の競りというプロセスにおいて、仲買人が取引を過剰にコントロールすることにより、農家が価格の決定において不当な扱いを受ける上に、不必要な手数料を徴収されるという状況を打破するきっかけとなっている。

米国と中国に次いで、新しいユニコーンが誕生する国として知られるようになったインドは、急速に発展する中で、大気汚染や、農村の困窮など社会的な課題も多い。しかし、スタートアップシーンの興隆はその解決の一助になる可能性を秘めていると言えるだろう。

文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit