メタバースに集うブランド、ブランドに関心の低いユーザー。今後望まれるアプローチとは?

注目を集める「メタバース」

メタバースといえばインターネット上に3Dで構築された仮想空間やそこで行われるサービスのことだが、日本語においては狭義で2021年以降に参入したバーチャル商業空間のことを指すという。

概念自体はなんと今から30年前、1992年に小説の中の架空の空間として登場した時から存在するらしい。Second Lifeブームが起きた2000年代中盤から主にゲーム業界を主戦場として徐々に利用者を増やしてきたが、『Fortnite』や『あつまれ どうぶつの森』などパンデミック中に爆発的にプレイヤーが増加したゲームの後押しも受け、リアルでの移動・交流がしづらい時代の社会活動の場として再び注目を受けることになった。

現在メタバースへの参入は、テック界隈のみならず様々な領域から熱い視線を注がれている。エンタメ(Fortniteでの各アーティストイベントなど)、旅行業界(あつ森『JTB島』など)、ほかにも教育・不動産業界などさまざまなビジネスが導入を検討中だ。

Facebookが2021年に、SNSからメタバース企業への脱皮を図って社名を「Meta」に変更したことも記憶に新しい。

Image : Unsplash

参入を図るブランド各社

そんな「第二の現実世界」へと進化中のメタバースだが、利用が一般的になるにつれて既存の様々なブランド企業が参入への取り組みを始めている。

Roblox内でユーザーが入手できる自社ブランドのウェアラブルをリリースしたGucci、Burberry、Ralph Laurenなどはもとより、あのハイエンドブランドの仏BalenciagaまでFortnite内で自社ブランドのスキンを発売。

多くのブランドは実店舗で販売を始めた新商品をメタバース上でもコレクションに加えるなど、現実世界でのビジネスと仮想空間でのブランド運用になんらかの連携を持たせ、リアルへのフィードバックを図っている(ゲームからそのまま飛び出てきたような同じ服を実店舗で見たら、それはつい買ってしまうだろうと思うのは筆者だけだろうか)。

BALENCIAGAとコラボしたスキン(Fortnite公式Youtubeチャンネルより)

メタバースのユーザーはブランドに興味がない? 

一方で最近、そのアプローチにおいて慎重になるべきことを示す調査結果が発表され、関係者の関心を集めている。

この調査は、米ロジスティックシステム企業のZiplineが同国内で13~50歳の600人の消費者を対象に実施したもの。

それによると全世代平均で、メタバースを利用する動機は「ゲーム」にあると回答した人が83%であるのに対し、「ショッピング」を目的とする人は4割程度にとどまった。特にメタバースの主要ユーザーとなることが想定されるZ世代では、85%が「メタバース上に登場するブランドに興味がない」と答えている。

「モノを売る」プラットフォームとしてメタバースに熱視線を送るブランド各社の思惑とは裏腹に、ユーザの多くが「メタバースにショッピングは求めていない」ことが判明した形だ。

「セカンドライフの教訓を思い出せ」との指摘も

アメリカ人テック系ジャーナリストのJanko Roettgers氏はこのような背景を受け、メタバースへの参入を急ぐブランドに「やめとけ」と断言している。

理由は「メタバースは今のところ、場所というよりもただの概念だから」。まるでテクノロジーを信用していないアナログな人の発言のようで若干意外な印象も受けるが、投資して、やっと軌道に乗ったところでその「場」が急に消えてなくなってしまう可能性もあるのだから、そんな不確実なものにお金をつぎ込むのは危険性が高い、というのがその理由だ。

同氏はまた、「Second Lifeブームの時の熱狂を覚えていますか? コカ・コーラ、BMW、インテルといった企業がリンデン・ラボの作った仮想世界で自社をアピールしようと必死になっていたことを」と、歴史から学ぶことを促している。「ユーザーはメタバースに現れるブランドに興味がなかったでしょう」。

そして今回のZiplineの調査を引用し、先述のように全世代の83%が「ゲーム」を目的にメタバースを利用していること、NFTを主な目的としてメタバースを利用していると回答した人が5%以下であったことなどを指摘している。

一方でRoettgers氏は、とはいえX世代の84%、Z世代の63%が『すでにお気に入りのブランドが何らかのNFTを提供したら、少しは興味が湧くかもしれない』と回答していることにも目を留めている。そしてメタバースは「実際には存在しない」概念でありながら、完全に無視もできない理由として以下のいくつかの点を挙げている。

1. メタバースは存在しない単なる概念でありながら、全く存在しないというわけではない。すでに様々なプロトタイプが試みられており、ゲームや土地の所有、NFT取引といった未来の利用を見据えている。

2. すでに多くの大企業が片足を突っ込んできている。

3. マーク・ザッカーバーグが勝算なくメタバースの領域にシフトしてくるわけはない。RobloxやMinecraft、Fortniteの成功を踏まえての決断のはず。

4. VRやARといった没入型ビジュアルコンピューティングへの関心は確実に高まっている。専門家の推算によると、Metaが2020年にリリースしたQuest2(VRヘッドセット)は現在までに1500万台を売り上げている。

正解は「ハイブリッドショッピング体験」か? 

Roettgers氏の主張だけを見ても、「結局メタバースは存在すると見なして投資してもいいの?ダメなの?どっちなの」と混乱する。実体があいまいなまま、確実に支持と利用を広げている現在のメタバースの複雑な立ち位置が明確になる。

ただし、ブランド各社のメタバース利用は是か非かという問いには、「条件付きで是」というのが実態のようだ。

先述のZiplineの調査においては、回答者のうちZ世代の85%、ミレニアル世代の75%、X世代の69%が、「対面の実店舗においてARやVRといったテクノロジーを利用し、オンラインで購入する」といった、ハイブリッドなショッピング体験に興味があると語っている。

また、Z世代とミレニアルの2世代は、リアル店舗がメタバースに進出する際には、「そこでしか入手できないゲームや無料特典」を求めている点で一致している。

つまり、ブランドやリテーラーのメタバース利用においては、リアルとバーチャルのハイブリッド体験を目指し、そこでしか手にできないユニークな特典を提供するというスタイルが、現在のところの「正解」となるようだ。

また同調査では、今メタバースに進出するブランドはすでにそのフィールドで成功を収めている戦略を見つけて、それをARやVRで深化させることの重要性も指摘している。

ZiplineのCEO・Melissa Wong氏によれば、「鍵は、メタバースユーザーがすでに利用している場にこちらから出向き、消費者にとって楽しくて利用しやすいデジタルコンテンツを提供して利用の垣根を下げること」。

それはオンライン上のどこかの場かもしれないし、何らかの理由でメタバースユーザーがよく出向くリアルの店舗や場所かもしれない。ブランドがアピールを展開する「場」の選択肢は、リアル・バーチャルを問わずに広がっていくだろう。

メタバースとリアルがシームレスに融合したショッピング体験が一般的になるのも、もうすぐかもしれない。

 文:ウルセム幸子
編集:岡徳之(Livit

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