帝国データバンク(以下、TDB)は、円安による企業業績への影響について調査を実施し、結果を公表した。

資源高や原材料高が続くなか、2021年後半から急速な円安進行。さらに各国との貿易額やインフレ率を加味した実質実効為替レートは、固定為替レート制度だった1971年以来となる円安水準を記録。

企業の想定レートと実勢レートの乖離がみられるなかで、円安にともなう企業業績への影響が懸念されることからTDBは同調査を実施したとのことだ。

■円安により6割超が業績に「マイナス」、バリューチェーン全体に悪影響が広がる

円安が自社の業績にどのような影響があるか尋ねたところ、『プラス』計(「大いにプラス」「どちらかといえばプラス」の合計)は4.6%にとどまった。

一方、『マイナス』計(「大いにマイナス」「どちらかといえばマイナス」の合計)は61.7%となり、企業の6割超が円安を自社業績にマイナスの影響があると考えていた。また、「どちらともいえない(プラスとマイナス両方で相殺)」は7.9%、「為替は業績には影響しない」は13.5%、「分からない」は12.3%という結果に。

業績へマイナス影響がある主な業種では、「繊維・繊維製品・服飾品卸売」の87.6%や「専門商品小売」の83.9%、「飲食料品・飼料製造」の83.3%、「飲食店」の83.0%、「飲食料品卸売」が82.4%で8割を超えており、特にアパレル関連や飲食料品関連の業種でマイナスの影響を与えている。

さらに「運輸・倉庫」も7割を超え、「値上げは荷主企業自体も業績悪化しているため、容認されにくい。また燃料を始めとする物価高で収益が悪化しており、打ち手がないのが現状」などの声が聞かれたという。円安による悪影響がバリューチェーン全体に広がっている様子がうかがえたとのことだ。

円安による影響

■マイナスの理由、原材料価格などをはじめとする「コスト負担増」が約8割に

円安が自社の業績に「マイナス」の影響を与える企業にその理由を尋ねたところ、「原材料価格の上昇でコスト負担が増えた」が79.2%と約8割に達し最も高かったという。

さらに「燃料・エネルギー価格の上昇でコスト負担が増えた」も72.6%で7割を超えており、原材料価格や燃料・エネルギー価格の上昇をあげる企業がいずれも7割台にのぼるなど、突出して高かったとのことだ。

次いで、約4割にあたる38.7%の企業が「コストを販売・受注価格に転嫁できず収益が悪化した」を理由にあげ、不十分な価格転嫁が収益の悪化につながっていた。

一方で、「コストを販売価格に転嫁して売り上げ・受注が減った」が9.1%で1割近くとなっており、価格転嫁を進めたことによる売り上げ等の減少に直面している様子もうかがえるという。

企業からは、「外国人実習生受け入れに対して応募者の確保が難しくなってきている」や「海外子会社への送金で、為替差損が発生している」、「消費者心理の冷え込みで売り上げが減った」といった意見があがり、原油・原材料のコスト増や価格転嫁の影響に加え、外国人材の確保や為替差損、マインドの低下なども下押し要因となっている。

「マイナス」の影響

■プラスの理由、4社に1社が「海外での販売価格低下で売り上げ増」を実感

円安が自社の業績に「プラス」の影響を与える企業にその理由を尋ねたところ、「海外での販売価格(現地通貨ベース)が下がり売り上げが増えた」が26.3%とトップとなり、企業の4社に1社が円安による海外での販売価格の低下を業績のプラス要因として実感している様子がうかがえる。

以下、「海外事業の円ベース利益が増えた」が22.7%、「取引先の業績が改善した」が20.5%、「輸出競争力が高まり輸出が増えた」が20.3%と続いた。

ただし、プラスの影響であげる理由は企業規模による差が大きく、特に「海外事業の円ベース利益が増えた」と「海外での販売価格が下がり売り上げが増えた」は顕著に表れていたという。

「海外事業の円ベース利益が増えた」は「大企業」は44.6%、「中小企業」は18.2%で2.5倍も高い。また「海外での販売価格が下がり売り上げが増えた」は、「大企業」が32.6%で、「中小企業」の25.0%を7.6ポイント、「小規模企業」の18.1%を14.5ポイント上回った。

海外での販売や海外事業の円ベースの利益増は「大企業」を中心に表れているとのことだ。

円安が自社の業績に「プラス」の影響を与える理由

従来、円安は輸出を促す効果を持つことから日本経済にはプラスの影響があると捉えられてきた。しかし現在では、輸出企業は海外での現地生産を進め、円安による輸出拡大はかつてほどの効果がみられなくなっている。

むしろ、輸入物価を押し上げ、日本の実質購買力を悪化させるマイナスの側面が重くのしかかるようになってきたが、政府が為替市場に直接影響力を及ぼすことは難しいとしている。

2022年に入ってからの為替相場は日本と諸外国との金利差でその多くを説明できていたが、今後の為替動向は地政学リスクや欧米の景気の行方も含め不透明感が高まっている。

一方で、燃料・エネルギー価格、原材料価格は今後も高水準で推移することが想定される。なかでも昨今の円安で、アパレルや食品関係の卸売業、小売業や飲食店におけるマイナスの影響が大きくなっているという。

メーカーや卸売、小売を結ぶ運輸業も大きく影響を受けるなどバリューチェーン全体への影響が見られており、結果、商品・サービスの値上げにつながり、消費者にも大きな影響が避けられない見通しに。企業においても仕入価格の上昇を要因とした倒産の件数も増加傾向となっており、今後もその傾向が継続することが懸念されるとのことだ。

しかし、政府は市場の急変を落ち着かせる環境を整えることや企業が受ける悪影響を緩和させる措置を取ることは可能であるとし、輸入物価の上昇に対しては減税や補助金の適用条件の緩和など、財政政策で対処することが重要となるだろうとTDBは考察している。

【調査概要】
調査期間:2022年7月15日~7月31日
調査対象:全国2万5,723社
有効回答企業数:1万1,503社(回答率44.7%)
調査方法:インターネット

<参考>
帝国データバンク『円安による企業業績への影響調査