言わずと知れたビジュアル探索ソーシャルメディア、ピンタレストは6月、AI技術を活用したファッション用ショッピングプラットフォーム、イエスの買収を完了したことを発表した。イエスは、ユーザー自らが提供したブランドやスタイルの好み、サイズなどの情報に基づき、パーソナル化されたフィードでのショッピングをAIで可能にしている。

ピンタレストは、雑誌やカタログのように商品を視覚的に探せる機能と、オーディエンスのコマーシャルインテントの両方を兼ね備えた、ショッピングの場を構築しようとしている。

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コマーシャルインテントとは、あるキーワードで検索した人が顧客になる可能性を評価するプロセスのこと。この段階で、イエスが培ってきた技術、ショッピングについての専門知識、ファッション業界における信頼性を取り込むことで、好み主導型のショッピングのメッカを目指すというビジョンの実現・拡大を加速させる狙いだ。

ピンタレストに見られるように、最近、ショッピング体験を取り込もうというソーシャルメディア・プラットフォームの動きが活発化している。これが、ソーシャルコマースだ。

2025年には、従来のEコマースの3倍の1兆2000億米ドル(約161兆円)の市場に成長すると、コンサルティング会社のアクセンチュアは予測する。昨年後半、ソーシャルコマースに関する調査を行い、結果をまとめ、今年1月に発表した報告書『ホワイ・ショッピングス・セット・フォー・ア・ソーシャルレボリューション(ショッピングがソーシャル革命を起こす理由)』からの数字だ。

世界で20億人が利用するソーシャルコマース

ソーシャルコマースは、商品を見つけるところからチェックアウトして支払いを済ませるところまで、ショッピングという行動のすべてがソーシャルメディア・プラットフォーム上で行われる。

アクセンチュアの報告書によれば、過去1年間にソーシャルメディア・ユーザーの約3分の2が、ソーシャルコマースを通じて買い物をしたと回答。全世界でソーシャルコマースを利用する人は約20億人と見積もられている。

成長を主にけん引するのは、主にZ世代とミレニアル世代だ。これら2つの世代が、2050年までに世界のソーシャルコマース支出の62%を占めると予測される。

調査対象の「ソーシャルバイヤー」の63%が、ソーシャルコマースを通じて買い物をしたブランドや企業で再び買い物をする可能性が高いと答えている。消費者のロイヤルティを育むのにソーシャルコマースは有効だ。

消費者がいるところに製品やサービスを提供しに企業が行くのが、ソーシャルコマース。消費者が自社のウェブサイトを訪れるのを企業が待つのが、Eコマース。どちらの方が売り上げが多いかは明白だ。

現在、インターネットトラフィックの50%以上が、モバイルデバイスからのアクセスだ。モバイルユーザーのショッピングカート放棄率は、デスクトップユーザーよりもはるかに高い。つまり、スマホの小さな画面での買い物を意識し、チェックアウトプロセスを合理化することはビジネス上重要だ。

国ごとの利用状況としては、英国と米国ではソーシャルメディア・ユーザーの大半がまだ何も購入したことがないとする一方で、中国ではソーシャルメディア・ユーザーの10人に8人が、ソーシャルコマースを利用して商品を購入している。

ソーシャルコマースの注目トレンド

消費者は、買おうとする商品を探すためにオンラインを利用する。一方で、自分が何を探したいかはっきりしていなかったり、ショッピングする意図すらなかったりしながらもオンラインを利用している時に、ソーシャルコマースは役立つ。ソーシャルメディア・プラットフォームを見ている間に、消費者は自分の好みの商品を発見することができるからだ。

ライブストリーミングが主流になる勢い

動画に特化したプラットフォーム、TikTokが驚きの速さで人気を確立したのを背景に、購入前に商品を実際に使っている動画を見たいと考えている消費者は全体の半分にも上ると、インスタグラムの事業責任者、アダム・モッセーリ氏は、多国籍Eコマース企業のショッピファイに話す。

2020年の新型コロナウイルスのまん延に伴うロックダウンや外出制限に適応するために企業が取った方策、ライブストリーミングも動画の1つ。ブランドは、ZoomやMicrosoft Teamsで一部のグループに、あるいはFacebook LiveやTwitchほか、多くのストリーミングアプリで、より広いオーディエンスに製品を宣伝した。

インフルエンサー・マーケティング・ハブは、マーケティングリーダーの26%が小売のライブストリーミングを特に重視している。この傾向はさらに強くなり、今後12~18カ月で倍の52%になると予想されている。

米国ライブストリーミング市場は、2022年に110億円(約1兆4800万円)に達し、2023年には約250億円(約3兆3600万円)にまで成長すると推定される。

プロダクト・トゥ・コンシューマー(P2C)のプラットフォーム、プロダクツアップによれば、米市場が急成長を遂げているのは、Tiktok、ピンタレスト、フェイスブック、ツイッター、インスタグラムがチャンネルを立ち上げたり、ライブストリームショッピングに力を入れたりし、消費者の関心を集めているからだという。

会話とパーソナル化にライブチャット/チャットボット

昨年9月末にShopifyが明らかにした「Eコマース・マーケット・クレディビリティ・スタディ(Eコマース市場における信頼性調査)」によると、消費者の60%が、過去に経験した満足のいくカスタマーサービスが、商品を購入する際の意思決定に影響を与えていると考えているという。また自分が連絡を取りたい方法で、簡単にカスタマーサービスと連絡がとれるかどうかを重要視している。

カスタマーサービスに欠かせないのが、ブランド・企業と消費者との会話だ。インフルエンサー・マーケティング・ハブもソーシャルコマース上、会話は今や不可欠な存在になっていると分析。消費者はオンラインでリアルタイムにライブチャットすることを好むが、質問・問題に迅速に対応・解決してもらえるのなら、チャットボットでもいいと考えているという。

最新のチャットボットは、一般的な質問に答えるだけでなく、AI機能をフルに活用し、人と自然な会話ができるようになっている。ライブチャットのために人件費を割くことが難しい企業もある。チャットボットの利用は今後も増え、またチャットボット自体の機能も改善されていくものと見られている。

マッキンゼー・アンド・カンパニーが2021年11月に『バリュー・オブ・ゲッティング・パーソナライゼーション・ライトーオア・ウロングーイズ・マルティプライイング』という報告書を発表した。内容はパーソナル化についてだ。

新型コロナウイルスの蔓延とその影響を受けたデジタル行動の変化で、パーソナル化された顧客体験への需要が今まで以上に高まっているそうだ。消費者の71%がブランドからパーソナル化された体験を期待し、76%がそれがないと不満を抱くそうだ。

新タイプのインフルエンサーは「お隣さん」

昨年あたりから、TikTokに登場する一般人が世界を席巻することが珍しくなくなった。また、インスタグラムでは、過度に修正されたインフルエンサーや演出されたライフスタイルの写真が敬遠されるようになった。この傾向がインフルエンサー像に変化をもたらしていると、ファンジョイの創業社・CEOのクリス・ヴァッカリーノ氏はShopifyに話す。

今や注目されるインフルエンサーはセレブではなく、ごく普通の一般人に取って代わられているのだ。

インフルエンサー・マーケティング・ハブは「マイクロインフルエンサー」に注目する。マイクロインフルエンサーは、特定のジャンルにおいて継続的に情報や動画を公開。フォロワー数はそれ程多くないものの、フォロワーとより親密に交流し、信頼関係を確立している分、注目に値する、大きな影響力を持つ。

ユーザー生成コンテンツ(UGC)は現状維持

従来、企業・ブランドは、ソーシャルメディアに広告を出す際、消費者に広告だとすぐに見破られるような広告を出さないよう努めてきた。広告だとわかれば、ユーザーはそれを見ないからだ。そこで広告は、製品に関する情報の提供という形をとってきた。

その最も自然な形が、ユーザー生成コンテンツ(UGC)だ。コンテンツの制作者であるユーザーはブランドから単に情報を与えられているというより、ブランドとコラボしている感覚を得ることができる。消費者がUGCを含むメッセージを共有する可能性ははるかに高く、ブランドにとってUGCは、ソーシャルマーケティング・キャンペーンをより広範に実施するための絶好のツールとなる。

またUGCは、ブランドに属する人ではなく、ブランドと消費者の中間ともいえる位置に立つ人によって作成される。中立的な立場にある人からの情報が、消費者にとって信頼性が高いのは言うまでもない。

5G、仮想世界、NFTで、今度ますます目が離せなくなる

ソーシャルコマースのトレンドの中でも、まだこれからの部分が多いのがXR分野だろう。

ソーシャルコマースの成長は、世界中で継続的に展開する第5世代ワイヤレス(5G)に支えられている。5Gがあるからこそ、接続したさまざまなデバイスで、シームレスな複合現実を体験することが可能になる。

例えば、2021年4月に発表された、eMarketerの報告書『USバーチャル・アンド・オーグメンテッドリアリティ・ユーザース2021』によれば、米国のARユーザーは、2020年に8370万人だったのと比較し、今年には1億160万人以上に増加すると予測されている。ブランドがARなどに代表されるXRと5Gを活用すれば、消費者はより没入感のあるショッピングを体験できるようになる。

インフルエンサー・マーケティング・ハブは、ファッション界の例を紹介している。同業界の場合、今後もインフルエンサーが重要な役割を担うことは変わらないとしながらも、デジタルアバターの存在の重要性も強調している。デジタルアバターのおかげで、デジタルウェアのレイヤリング、新コレクションの宣伝などで、ブランドはより柔軟な対応ができるようになるという。

ソーシャルメディアに関する情報を提供するオンライン・コミュニティ、ソーシャルメディア・トゥデイによれば、幾つかのブランドでは、すでに消費者が商品を試着したり、購入したりできるAR・VRのアプリを発表しているそうだ。消費者にとっては、オンラインショッピングであっても、服やアクセサリーを実際に試着しているかのような、リアルな着用感が感じられることは重要だ。

© Nan Palmero (CC BY 2.0)

さらにメタバースの台頭で、ファッション業界におけるデジタルアバターの活用がさらに本格化すると推測されている。ブランドはアバターが身に着けるデジタルウェアやデジタルアクセサリーを提供することで、このトレンドを担うことになる。

また、メタバースの広がりと共に、その通貨の1つである非代替性トークン(NFT)も注目を集めている。NFTは、仮想世界、オフライン・オンラインの取り引きに無限の可能性を与えるものだ。NFT取引市場の1つ、OpenSeaは、昨年8月の取り引きだけで30億米ドル(約4050億円)という驚きの記録を打ち立てている。

季刊誌とオンラインで世界の金融市場関連の情報を提供する、ファイナンス・ダイジェストによると、例えば、アディダスはNFT専門家、NFT投資家と提携し、メタバースに進出するスポーツウェア企業として、独自のNFTを立ち上げた。これに触発され、ナイキ、ロレックスといったブランドもアディダスに追随している。

さて、ツイッター買収に向けて手続きを進めるイーロン・マスク氏は6月中旬、ツイッターの従業員に向け、ビデオ会議を行った。そこでは「ユーザー数10億人を達成するためには、ツイッターもTiktokやWeChatのようになるべき」と発言。地球上で最も影響力がある人々がこのプラットフォームを利用するにも関わらず、商業化が進んでいなかったのは不思議ともいえるツイッター。ソーシャルコマース面で、劇的な展開を見せるかもしれない。

文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit