日本でもこのところ一気に普及し、多くの人の生活に欠かせない存在となったUberEatsやWoltなどのフードデリバリーサービス。Uberは最近、旅行予約サービスのUberTravelや、球場グルメを自宅で楽しめるUber Eatsをソフトバンクと開始するなど、いくつかの新サービスを発表している。

その一環で、米国では、ロボットスタートアップのServe Robotics、そして自動運転テクノロジー企業Motinalとの協業のもとに、一部地域で無人配達UberEatsの実現可能性に期待が高まっている。

欧州やアジア各国でも続々と開発やテスト運用が始まり、渋滞や公害対策としても注目されている無人デリバリー。現在、米国をはじめ、世界各地でどの程度普及しているのだろうか。

パンデミックで急速に普及する自律型配送ロボット

パンデミックが始まって以来、食事や日用品などのデリバリーサービスやEコマースが世界中で急成長しているが、同時に、デリバリー業務に従事する人を必要としないロボットやドローンの活用も急速に拡大した。

米国では、エストニア発のデリバリーロボットStarship Technologiesが大きな成長を遂げ、2020年にロサンゼルスで生まれたデリバリーロボットCOCOは、オースティンやヒューストンにサービスエリアを拡大、今後はさらにダラスとマイアミへの展開を予定している。

急速に規模を拡大するデリバリーロボットCOCO(同社公式サイトより)

中国でも、厳格なロックダウンのなか、物資輸送にドローンやロボットが活用される様子が報道されており、これまでにEC世界最大手アリババが、オンラインショッピングの需要急拡大に対応する形で、配送ロボットGplusや小蛮驢(シャオマンリュ)を急ピッチで開発している。

UberEatsの新プロジェクトは無人デリバリー

フードデリバリー大手であるUberEatsも、今年に入ってロボット配達のスタートアップ「Serve Robotics」、自律走行車を開発している「Motional」と共に、ロボットと自律走行車を用いた無人フードデリバリーのパイロットプログラムをロサンゼルスでローンチした。

人力配達が主流のUber Eatsに無人配達へのシフトが始まっている Photo by Kai Pilger on Unsplash

このパイロットプロジェクトで設定された2つのテストゾーン内に居住するユーザーは、会計を済ませる際、無人デリバリーによる食事の配達を選択するオプションを選ぶことができる。このオプションを選び、フードがユーザーの元に到着すると通知が届き、携帯電話で取得するパスコードで車両あるいはロボットのロックを解除すると、注文したフードを受け取ることができるという流れだ。

Motionalの自動運転車を使ったテスト走行には人間も同乗

Motionalは、これまでUberの競合ライドシェアサービス企業であるLyftなどとの提携のもと、2020年11月からドライバーレステストをネバダ州で行い、ラスベガスでのロボットタクシーの実現を目指してきたが、このたびのUberとの提携でカリフォルニアに進出、初めて無人配送の分野で事業展開することになる。

Motionalの自動運転車によるフードデリバリー(同社YouTube公式チャンネルより)

もっとも、今年の夏すぐに無人カーがUberEatsの宅配を行う光景を見ることはなさそうだ。カリフォルニア州陸運局試験許可証の規定により、配達時には人間のオペレーターが安全監視のため同乗する必要があるからだ。また、到着地点付近では、必要に応じて手動運転も併用するとのことで、今後徐々に完全な無人デリバリーへとシフトしていく予定となっている。

このパイロットプログラムが順調にいけば、法人向けオンデマンド配送の試験導入を行っているLyftも、Uberに倣って配送に無人サービスを取り入れる可能性があるかもしれない。

Serve Roboticsは小型自動配送ロボットで短距離輸送に特化

一方、Uberから昨年独立したスピンアウト企業であるServe Roboticsが提供しているのは、自律走行車ではなく、歩道を走行する、黄色のボディに印象的な目がついた、アニメのキャラクターのような小型ロボットだ。

Serve Roboticsは小型自動配送ロボットを開発(Ali Kashani氏のYouTubeチャンネルより) 

こちらは、サンタモニカでの長距離輸送を担うMotionalの自律運転車と差別化し、ウエストハリウッドでの短距離輸送に焦点をあてた小規模なテストを予定しており、ロサンゼルスで人気のオーガニック・コールドプレスジュースカフェ「Kreation」など、数軒の店舗からのデリバリーのみが対象となっている。

スペインでは段差にも対応するデリバリーロボットを開発

欧州でも無人デリバリーは、発展著しい分野だ。

カタルーニャ工科大学とフォルクスワーゲングループなどが出資する、スペイン、カタルーニャのCARNETが開発したロボットは、6つの車輪があり、約20cmまでの段差を上り下りできる点で、他のデリバリーロボットとの差別化を図っている。

AjespluguesのYouTubeチャンネルより

このロボットは、配送センターからユーザー指定の届け先を指す「ラストマイル」の商品の配達に使用され、今年、スペイン、ドイツ、ハンガリーで試験的に運用を開始する予定だ。

デリバリーロボットで「ラストマイル」の諸問題の軽減を目指す

物流の最後のステップであるこの「ラストマイル」は、さまざまな物流上の問題が発生する段階として知られている。その問題の多くは、車を利用した配達に起因するため、電動のデリバリーロボットの活用が、その解決の一助となる可能性に期待が寄せられている。

たとえば、都市部ではラストマイルの配送が、大気汚染などの公害や交通渋滞に与える影響は少なくないとされており、研究者や行政の担当者たちは、デリバリーロボットの導入によって配送の総コストの40%を占めるとされる「ラストマイル」の輸送コストを下げるだけでなく、このような「ラストマイル」の負のインパクトを軽減することを目指している。

イギリスで進む大気汚染対策としてのロボット配送

イギリス中東部ケンブリッジシャーでは、空気の質を改善する同州議会の環境政策、また道路混雑緩和対策の一環として、前述のエストニア発のゼロカーボン電力を動力源とするデリバリーロボットStarship Technologiesが、生活協同組合Co-opとのパートナーシップのもと、スーパーマーケットからの配達ロボットとしての試験的なプロジェクトを開始している。

Starship Technologiesの配達ロボットの1日(同社YouTubeチャンネルより)

まずはテスト対象地域の5,000世帯、12,000人の住民が、ロボットによって商品を受け取ることができるようになり、これが成功すれば、対象エリアをさらに拡大していく予定だ。

世界各地で急速に開発が進む無人デリバリー関連テクノロジー。日本でも昨年、公道での無人デリバリーに関連した法整備が急速に進められたが、今後自宅の周りで配達ロボットを目にする日も近いのかもしれない。

文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit

ラストマイル
「ラストワンマイル」ともいう。物流において、最終拠点からエンドユーザーまでの最後の区間に生じるさまざまな問題を指している。再配達による業務効率の低下や人手不足などが代表例。