保護したウミガメが追える? サステナブルスニーカーの先駆け、ペルー×オランダ協働スニーカーブランド「MIPACHA」

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デザインとサステナビリティが突出、ペルー×オランダスニーカーブランド「MIPACHA」

何はともあれ、これらのスニーカーを見てほしい。夏や海が好きな人なら一目ぼれ間違いなしのビジュアルかと思うが、それに加えて履き心地にも最大限の配慮がされていて、さらに購入することで海からプラスチックを減らしたり、ウミガメの赤ちゃんを救えたり、遠い国の不平等を改善できるとしたら、財布のひもも緩もうというものではないだろうか。

これらのスニーカーを製造・販売する「MIPACHA」はオランダ・アムステルダムに本社を、ペルー・クスコにメインファクトリーを置くスニーカーブランド。

同社のミッションは、「マテリアルハンティングにより海をきれいにすること」「従業員の教育や福利厚生によりクスコの地元経済・QOLに貢献すること」「ヨーロッパの品質とペルーの美を持つスニーカーを提供すること」。

利益の10%はクスコの教育活動に寄付され、「従業員にヨーロッパ水準の労働条件を提供すること」もモットーに、各種福利厚生や休暇制度、通勤のための送迎バス、さらに教育や住宅購入のための資金の低金利での貸し付けも行っている。創業は2013年。サステナブルスニーカーブランドの「はしり」のひとつといえるだろう。

創業者は当時21歳の才気あふれる起業家

このブランドの創業者は、当時21歳で、アムステルダム大学で文化人類学を専攻するオランダ人学生だったJulias Weise氏。1992年生まれの同氏は、同領域に関心のある多くの人と同じように、豊かな遺跡の残る南米に憧れ、2012年にペルーを訪れた。

そこで彼が感じた圧倒的な「不平等」が、ブランド立ち上げの原動力となる。

彼が訪れた街のうち、観光が充実している地域は人々に収入もあり、生活の基盤が比較的安定していた。しかし首都のリマから少し南下して、ピスコの街に入ると、2007年のペルー沖地震からすでに5年が経っていたというのに生々しい震災の傷跡が残り、人々の生活は全く復旧していないように見えた。

Weise氏はそこに少し留まることを決め、住民のためのトイレと子どもたちの遊び場の復旧工事を手伝ううちに、自分がアムステルダムで享受していた「当たり前の生活」からはかけ離れた水準で生きている人たちの存在をまざまざと感じたという。

「この不平等をなんとかしたい」という思いを胸に、地元の店で買ったペルーの伝統的な布でできた靴を履いて帰ったアムステルダムで、さまざまな人から「いい靴だね」と声をかけられたことで、「この靴をヨーロッパで売れば、ペルーの人たちの支援ができるのでは?」というアイデアを得る。

すぐに買い付けにペルーに戻り、車に乗せて訪問販売したイビザ島では在庫を完売。その後オランダ、ベルギー、ドイツなどヨーロッパで販売すると、1年で1万足を売り上げた。

ビジネスのあまりの成長の速さに設備の充実が追い付かず、「アムス大の学生の新ブランドが大人気」の話題を聞きつけた地元TV局が取材に来た時には、彼が当時、住居兼倉庫として使っていた学生寮に案内するしかなく、恥をかいたためその日のうちにオフィスを借りたという。

アムス大の学生起業家がぶつかった「壁」とブランドの成長

とはいえ、その後の全てが順風満帆というわけではなかった。本格的に起業することを決め、リマに自社工場を作る過程では、信頼できる工場設備とスタッフを集めるまでに、それはもうさまざまな失敗をしたという。

地元の住民はどんな無茶な打診をしても「Yes」しか言わないが、それは生活のために要求を呑んでいるだけでもちろん納期には全く間に合わなかったり、責任者として雇用しようとしていた人が非識字者であることが後に判明したり、やっと最初の靴ができそうだと思った日が祭日で、従業員が香を焚き、聖人にお酒をふるまうのをじりじりしながら一日中眺めているしかなかったり、ウブな先進国の学生には想像もつかなかったことが何十回も起きた。

それでもなんとか生産を軌道に乗せ、販売までを全て自社で手掛けられるようになると、ヨーロッパで人気が爆発。さらに、女性用にデザインした商品が元祖スーパーモデルのナオミ・キャンベル氏の目に留まったことがきっかけとなり、アメリカ市場にも進出が決まった。2014年にはWeise氏と共同経営者のNick de Ronde Bresser氏がスタートアップ系メディア「mt sprout」で、「もっとも注目すべき25歳以下の経営者」に選出されるなど、ビジネス界からも大きな注目を集める。

毎年何千人ものファッションを専攻した学生が社会へと旅立ち、自身のブランドを持つことを夢見て足掻いているのに、Weise氏のような畑違いの学生がファッションブランドで大きな成功を収めたことで一定の嫉妬も受けたという。

しかし彼は、「私は文化人類学への興味からペルーを訪れ、そこで世界は私が思っているよりずっと問題をはらんでいると知りました。ペルーでは銀山で一日中働いて、かろうじて生きるための賃金を得ている大人をたくさん見た。当時たった19歳の学生だった私が、そこまでの飛行機のチケットを買えたのにですよ。そんな世界のバランスの歪みをなんとかしたいという思いがブランドになっただけです。いいストーリーと、すてきな商品があればできること」と涼しい顔でコメントしている。

現に起業した翌年の2014年には、「利益は全て会社の改善のためにつぎ込んでしまっているから、全然私のポケットには入ってきません。でもいいストーリーがなかったら、うちの靴を買ってくれる人はこんなにいないと思う」と、ブランドストーリーを守ることへのこだわりを語った。

創業者とブランドのその後

さて、このようにブランドの立ち上げとストーリーテリングを担当していたWeise氏は、数年後に同事業を離れ、現在は20代の若き起業家として講演会などで人気だ。

MIPACHA以外で最大のヒットは、2018年にリリースしたアプリ「Welcome App」。近年急増する、オランダに流入した難民と、地元のオランダ人市民の交流を可能にするオンラインプラットフォームで、同国で新しい生活を始めたニューカマーのサポートと、地元コミュニティのインクルーシビティの促進を目的としている。

MIPACHAブランドはその後、共同創業者のNick de Ronde Bresser氏がそのまま引き継ぎ、企業のサステナビリティをアグレッシブに拡張中だ。

ビーガン製品の充実、生産過程における電力やCO2フットプリントの70〜75%の削減、ブロックチェーン技術を利用したマテリアルや廃棄物のサーキュラー化などを実現し、2021年には1年半の開発ののちに満を持して、海を救うスニーカー「MIPACHA・oceano」をリリースした。

同ラインのスニーカーは、一足購入されるごとに9本のペットボトルを海から減らし、1匹の保護ウミガメの赤ちゃんが海に放たれるシステム。キャンバス地にも再生プラを利用することで一般的な「再生ペットボトル使用」のスニーカーよりもはるかに高いサーキュラリティを実現し、インソールには再生スピードと吸湿・抗菌性が綿より数倍優れた竹素材を利用。

さらに、情報の透明性を徹底し、製品に付属するQRコードから自分のスニーカーがどこでどの漁師が「釣った」ものか、自分の購入によって放流されたウミガメの赤ちゃんがどこから旅立ったかなどがトラッキングできる。

現在のところヨーロッパ・アメリカを中心に100カ国への配送に対応している。ブランドストーリーに共感するところのあった方は、次回配送対象国を訪れた際に手にとってみてはどうだろうか。

文:ウルセム幸子
編集:岡徳之(Livit

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