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株式会社デジタルガレージ(以下、デジタルガレージ)は、「web3 Summer Gathering 〜未来からのテクノロジーの波をサーフしろ〜」をテーマに掲げた「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2022」を6月14日に開催した。
カンファレンスでは、デジタルガレージの共同創業者であり、取締役 兼 専務執行役員Chief Architectの伊藤穰一氏がホストとなり、世界各国で 150 以上のメタバースやNFTに関する企業やプロジェクトなどに投資を実行しているAnimoca Brands(アニモカ・ブランド) 共同創業者 兼 CEOのYat Siu(ヤット・シウ)氏をはじめとする「web3」業界の世界の有識者と、「web3」が実現する分散型社会の未来とテクノロジーについて4つのセッションを設けて、各テーマに沿ったキーノートおよびパネルディスカッションが展開された。
オープニングでは、デジタルガレージ 代表取締役 兼 社長執行役員グループCEOである林 郁氏が「Web1.0、Web2.0時代と同様に、web3においてもデジタルガレージが時代を牽引していく」と表明。今年で22回目となる今回のカンファレンスは会場およびオンラインで過去最大級の約1,500人超が参加する注目度の高いものとなった。
インターネット黎明期以来、web3の衝撃
セッション1では、伊藤氏が「web3により、会計をはじめとした社会全体のアーキテクチャーがかわるくらいの衝撃が訪れようとしている」と述べ、DAOを例にしても過去にスタートアップのストックオプションが起因してウォールストリートのエリート人材が流出した以上にインパクトがあると紹介。
Yat氏は、まず、私たちは日々生活の中で貴重な資産価値を作り出していることを改めて認識するべきであると前置きをしつつ、「世界で成功しているプラットフォーマーは私たち一人ひとりが提供している資産で価値を作りだしている。一人ひとりの資産をつなげる術を持っているだけだ。これまで原油はあるけど、それを加工して価値に変える術を知らなかった国があったように、私たちはweb3によってその術を手にすることができるのだ」と力説。
さらに「自動車を所有すればカスタマイズできる、家も所有することで価値が生み出される。所有することがイノベーションの条件であるにも関わらず、今のWeb2.0では我々が作り出している資産を所有できていない。そこにNFTが必要になってくる」と持論を展開。デジタル社会ではNFTが識別子になり、リアルなファッションブランドアイテムが個人の識別子であるように、NFTを所有することでカルチャー・ブランドが築ける。そして、アイデンティティ・関係性・帰属感が創造されることで、新しい経済が生まれ、爆発的に生産性が高まる可能性があると期待を語った。
日本のためのNFT?日本はweb3でイニシアチブが取れるのか
Yat氏と伊藤氏の対談では「日本は世界が熱狂する重要な文化資産をもっている。例えば、食・マンガ・アニメ。これをWEBに解き放つことができる、web3とはまさに日本のためにあるようなもの」「いままでで皆が共通した価値基準しか持てなかったものが、web3では個人個人で違った価値基準が示せる。大衆に称えられる必要はなく、少数が価値を認めれば成立するものになる」とweb3と日本の親和性を述べた。さらに、なぜDAOがワクワクするのかにも言及。
「安くかつ安全に真の民主主義が創造される可能性がある」として、今までの民主主義は教養を必要とし、教養のある誰かがリードして、判断・決定をしなければならなかった。しかし、今はみな教養を持っているし、コミュニティでも正しい判断が下せると理由づけた。
別の講演では、Astar Network / Next Web Capitalファウンダーでありアメリカを拠点として活躍する渡辺 創太氏が「日本出身として、どうにか世界のweb3メインストリームに入り込めるように実績を残していきたい。日本は出遅れているが、まだWeb1.0でいうと1998年(ドットコムバブルが終わったフェーズ)なので、盛り返しは可能だと確信している」と述べた。
また、リスボンを拠点としているWeb3 Foundation, Next Web Capital / CryptoAgeファウンダー大日方 祐介氏も「日本はweb3の中心に返り咲くチャンスは残っている。Web2.0はシリコンバレーの時代だったが、web3でのシリコンバレーの地位は揺らいでいる。規制や税制などの影響で、web3プレイヤーや投資家はスイス、シンガポール、ドバイ、ポルトガルなど新たな活躍の場を求めて世界へ流出している」とし、食・文化・インフラ・治安などどれをとっても、魅力的な都市が乱立する日本はweb3プレイヤーや投資家を惹きつける要素が揃っていると語った。
アーティスト、クリエイターにとってのweb3の現在地
環境オープンデータの非営利団体Safecast共同創業者であり、NFT領域で世界的に活躍するweb3アドバイザーSean Bonner(ショーン・ボナー)氏は、「今後、アーティストにとって、革新的なステージに入る」と口火を切り、スプツニ子!氏 、Kawaii SKULL氏らと対談。
「コミュニティごとにアバターを使い分ける。性別を変えたり、見た目を変えたりもできる。でもそれが偽っているわけでもなく、自然に受け入れられる。今は、リアルとデジタルのアイデンティティの境界が溶け合っていく、なくなっていく過程にあり、自らを取り払って自由に創造活動ができる感覚を覚えている」と語った。
別の対談では、web3クリエータープラットフォームを展開するOP3N 共同創業者Jaeson Ma(ジェイソン・マー)氏が「NFTは暗号資産と文化が交差する場を提供し、我々はソーシャルアイデンティティを感じることもできるだろう」と語り、アーティスト 兼AMBUSH® CEOであるVERBAL氏は、自身のメタバースシルバーファクトリーを開設した活動から「web3は、リアルとデジタルをマージできるのが面白い。ジュエリーPOWのNFTはローンチ後4分で完売した。Tシャツにしても、パルコのリアル店舗で販売し、メタバース用をNFTで販売している。今後、ここでクリエイターエコノミーを展開する計画が進行中。どんどん可能性が広がっている」とアーティストとしての魅力を語った。
一方、Jaeson氏は「現在のWeb2.0 では巨大プラットフォーマーが7兆ドルもの市場価値を生み出しているが、その価値はクリエイターである我々一人ひとりが生み出した作品があってこそ成り立っている。なのにアーティストやクリエイターの手元には数%の配分しかない」と課題を提示し「web3ではアーティストやクリエイターとそのファン・コミュニティが平等に利益を得ることができる。それによってコミュニティの全員が成功することだってできるのだ」と力説した。
株式会社Fictionera代表の草野 絵美氏も同調し、この数年で10年分の活動をした感覚があると実感を語ったうえで「8歳の息子が夏休みに作ったNFT250作品が世界中で話題となりコミュニティは今も成長しつづけている」とし、自身のNFTコレクション『新星ギャルバース』についても「8,888体が6時間で完売し資金が集まり現在は叶わぬ夢だと思っていたアニメ制作を準備している」と展望を語った。
カンブリア爆発期であるweb3における社会システムとは
web3領域の急激な成長に伴って、各国ではまだ規制や制度、セキュリティが整っていないことが不安視されている。今後のあるべき社会システムについて議論したセッションでは、Cega共同創業者 兼 CEOの豊崎 亜里紗氏が「課題はあるが、規制にも価値がある。全員がミスやエラーに気が付けるわけではないし、間違ったスキームが構築されないように規制をかけないといけない」とし、「やはり文化を醸成していくことが重要。それぞれがそこに意識が向けば自主規制によって課題は解決できるし、より多くの人がメリットを享受できる」と提言。
Quantstamp, Inc. APACリージョナルマネージャー小田 啓氏は、「世界中から寄付を集めて、特定の社会課題解決をテーマとしたDAOをつくって、有志がその業務にあたる。DAOは法的な枠組みはないが、すべてのDAOは透明性とセキュリティを保持できる。中央集権的になるとDAOのメリットもなくなるし、リスクを恐れてオフチェーンにしてしまったら透明性がなくなってしまう。DAOの公平なシステムが進化すれば、人も救えるし、最終的には地球を救える可能性だってある」と展望を語った。
「インターネット時代において、今はカンブリア爆発期である。リスクもあるが、みんなやってみる価値はある。楽しみながら慣れていくことが必要だと思う」と締めた。
web3立国になるための日本の成長戦略
過日、岸田内閣が発表した成長戦略「新しい資本主義」の中核にweb3が組み込まれたことを受けて、政治家とのセッションも開催。
衆議院議員・自民党デジタル社会推進本部長の平井 卓也氏は、「通信環境も整っている日本を世界のテストマーケットとして活用できるようにしたい。世界中の頭脳が日本でチャレンジし、成功すればアジアで成功する。そしてアジアから世界を席巻するために日本がハブになることが重要。そのための整備をしていかないといけない」と展望を語り、「デジタルでは、日本の所有権は適用されない。幸い日本の法律はそうなっていて、日本はタンジブルしか所有権が発生しないので、web3は非常にやりやすい。まずはweb3フレンドリーであることを世界に知らしめたい」とメリットを示した。
伊藤氏は「行政が介入することは良くないという意見もあるが、例えば、今世界で注目されている炭素トークンは、現状ではほとんど木を植える程度の簡単な活動しかできていない。加えて、実行するためのブローカーも高い費用を要求してくる。
一方、安い炭素トークンはアフリカに怪しいダム作るなど非現実なことにつながって、炭素トークンの信用を下げている。
世界中に炭素トークンに価値を感じてやりたい人はいっぱいいるのに、良質の炭素がどこにも売りに出てないのが一番の課題。信用をベースに取り組みができる行政がしっかり取り組めれば、この分野で日本は世界に先端事例を示せるのでは」と提案。また「今やらないと競争力がなくなっちゃう気がしている」と危機感も示した。
web3はデジタルネイティブである若者のためのもの
クローズセッションでは、再びYat氏と伊藤氏が対談。
伊藤氏は、22回目となったカンファレンスを振り返り「過去にないほど今回は20代の登壇者が多くなった。若い人たちが完全にイニシアチブを持っている」と語った。
Yat氏は、もちろんまだ課題が残っているとしたうえで「NFTをどこの国も規制・禁止しようとは思っていない。消えることが良いことだとも思っていない。だた、どう対応していいのかまだわからないので動けないという状況」と持論を展開。
一方で、不可逆的な動きもあるとし「ドバイやシンガポールもトップダウンでweb3を推進している。共通点は将来資源が枯渇する、あるいは資源がないということ。NFTに活路を見出す必要があり、アメリカでは特にマイアミが注目されている。土地柄生活の質も高いので、通貨が不安な地域である南米から、優秀な若い頭脳が集まりだしている」としたうえで、改めて「日本は最もNFTに適している。NFTランキングのTOP20はすべて日本のカルチャーに影響を受けているし、テクノロジーに強く、気候も食も治安もいい。我々web3業界では間違いなく憧れの地である」と日本への期待を語った。
最後に伊藤氏は「ジェンダーや国籍のみならずリアルとデジタルにおけるダイバーシティの感覚も有している10代、20代が重要。自分がかわいいと思ったこと、価値があると感じたことを素直に表現してNFTに挑戦してほしい。結婚して住宅ローンもあるような歳になると難しい。私もデジタルガレージを創業したときは20代だった。得体の知れないインターネットでどこの大企業にも負けたくないとがむしゃらに挑めたのも若さがあったからだ」と自身の経験をもとに日本の若手にエールを送った。
約30年前、インターネットが産声を上げた時からインターネットと寄り添い共に成長してきたデジタルガレージが今回示したweb3の潮流は、真の民主化への変革につながり、誰にとってもよりよい世界・環境が実現する輝かしい未来へとつながっていくことを期待させた。また、世界から集まった有識者の展望とエールは、日本の新たな可能性を示すきっかけになったのではないだろうか。