2022年6月6日〜8日、フィンランド第二の都市タンペレで「World Sauna Forum 2022(ワールドサウナフォーラム)」が開催された。タンペレには50以上の公共サウナがあり、同市は2018年に「世界サウナ首都」を宣言をしている。

2019年以来、オンラインのみで実施されてきた本イベントだが、2022年は2年ぶりの現地開催となった。近隣国のみならず日本やアメリカからも参加者が集まり、大盛況の3日間となったようだ。

本記事では、現地で北欧・アジア間の事業開発を専門とするMonordi(モノルディ)社の代表取締役・小菅祥之さん、Head of Sales・マンシッカ由加子さんに、現地の様子や日本市場にもマッチしそうな注目アイテムを聞いた。

サウナビジネスの発展を後押しする世界的なイベント

サウナ関連の専門家による講演も実施された(©HNRI OY / Sauna from Finland)

毎年フィンランドで実施されている「ワールドサウナフォーラム」は、サウナ関連のプロダクトやサービスを提供する事業者からサウナ事業の専門家などが一同に介する場。業界では、サウナビジネスの発展を後押ししてくれるプラットフォームとして知られているようです。

Monordiは、ワールドサウナフォーラムを主催する協会「Sauna From Finland」のメンバーであり、小菅さんとマンシッカさんは同協会のメンバー企業の日本進出、日本企業のSauna From Finlandへの入会促進などを手掛ける。その他、日本で温浴施設を多数運営する温泉道場との合弁会社「Omatsuri Ltd.」をフィンランドに設立し、日本式サウナ・温浴施設の立ち上げも目指している。

「出展者は、サウナストーブなどの機器やサウナグッズなどのメーカー・ブランドがメインですが、アメリカの『Saunatimes(サウナタイムス)』をはじめとしたサウナ関連メディアやサウナ・スパ施設専門のデベロッパー、バイヤーである卸業者や小売事業者、ツーリズム関連施設専門の建築事務所、温浴施設運営事業者など多種多様な業種の人が参加していました。さまざまな分野の方と一同に出会える貴重なイベントでした」(小菅さん)

©Sauna from Finland
2022年は2年ぶりの現地開催でマスク着用義務もなし。活気のある様子が伝わる(©Pesola Objective/Sauna from Finland)

参加人数は、サイドイベントも含め16カ国から300名以上と、コロナ明け直後と考えれば、それなりの規模になったようだ。フィンランド国内はもちろん、サウナ大国といわれるドイツやエストニア、欧州の温泉大国ハンガリー、近年サウナ人気に火がつき始めたアメリカやイギリス、北欧のスウェーデンやデンマーク、そして日本からもそれなりの数の参加者がいたという。

会場では商談も盛んに行われていたようだ(©Sauna from Finland)

「昨今、サウナビジネスは世界的に広がりを見せていて、元々はサウナ文化がなかったアメリカやイギリスなどでも人気になりつつあります。そのため、フィンランド国内よりも海外からの『フィンランド式本格サウナ』への注目が集まっていると感じました。新型コロナやウクライナ情勢にもよると思いますが、サウナブームが続く日本をはじめ、来年以降はさらに参加者が増えるのではないでしょうか」(小菅さん)

現地在住日本人に聞く「注目アイテム」4選

続いて、本イベントに出展していたサウナ関連事業者のうち、小菅さん、マンシッカさんが日本人の視点で選んだ注目アイテム4点を紹介したい。

1【Narvi】本場のスモークサウナも実現するサウナストーブ

製品の100%をフィンランド国内で生産、及び研究開発をしている「Narvi」は、フィンランドの主要サウナストーブメーカーのひとつ。同社が製造・販売する薪ストーブは、ロウリュによってサウナストーンを温める一般的なフィンランド式サウナはもちろん、フィンランド語で「Savusauna(サヴサウナ)」と呼ばれる「スモークサウナ」も手軽に再現できる特徴があり、フィンランド人サウナーから人気を誇る。

「Narvi」の薪ストーブ(提供:Narvi)

日本ではスモークサウナを体験できる施設は多くないが、本場フィンランドではサウナの原点ともいわれる古風なスタイルだ。長時間に渡り何度もストーブ釜に薪をくべてサウナを温めつつ、ストーブから発生する煙をサウナ室内に溜め、さらにその煙を室外に逃す工程を経て、ようやく入ることができる。

「写真の製品は、フィンランドの伝統的なサウナストーブの形をしており、火を止めた後も高温を維持し続けます。電気や薪でサウナストーンを熱し続けなければならないストーブに比べ、体感的にやさしいソフトなロウリュが発生します。手間暇がかかるため、フィンランド国内でもスモークサウナを提供している施設は少ないのですが、根強いファンが存在します。例えば、Narvi社の同製品は先代のフィンランド大統領官邸に設置され、代々の大統領やそのゲストたちが使っていたようです」(小菅さん)

日本ではスモークサウナが主流ではないからこそ、Narvi社の薪ストーブは今後注目すべきアイテムかもしれない。

2【Drop】多数の受賞歴を持つデザインジャグジー

2015年に創業した「Drop」は、野外用のジャグジー「Drop pool」と暖炉「Drop Design Fire」を提供するフィンランド企業だ。

同社のジャグジーは、世界的なデザインアワードの「The A’ Design Award」で2019年〜2020年に浴室家具・衛生陶器デザイン賞部門のシルバーデザイン賞、Design from Finland協会が選出する「Design of the Year 2015」、ドイツのサウナ・スパ関連雑誌である「SCHWIMMBAD」のデザイン賞である「Golden Wave 2022」などの受賞歴がある。

「Drop」の「Drop pool」(提供:Drop)

社名同様にドロップのような形をしたジャグジーや暖炉は、フィンランドの美しい自然から着想を得たもの。ジャグジーは電気加熱式と薪ストーブ式の2種類があり、どんなロケーションにもフィットする、ミニマルなデザインだ。

「Drop」の「Drop Design Fire」(提供:Drop)

暖炉もまたドロップ型をしており、火を使わないときは蓋をかぶせてテーブルとしても使用できる仕様だ。

「Drop社のデザインは国内外で高く評価されています。昨今は、スパやサウナ施設にとどまらず、コワーキングスペースなどにも設置され、人気を博しているようです」(小菅さん)

野外に設置された同社のジャグジーはなんとも絵になる。休憩スペースに暖炉も設置すれば、一気に北欧らしい雰囲気を演出できそうだ。

3【Avantopool】湖に浸る疑似体験ができる小型プール

Avantopool」が4年の歳月をかけて開発、2018年に初めて発売された「Avantopool Kinos」は、冷水処理が可能な持ち運べる小型プールだ。商品名の「アヴァント」とは、氷が張った湖に穴を開けて、そこに浸ることを指し、フィンランドではサウナに入った後にアヴァントをするのが冬サウナの定番のようだ。

「Avantopool」の「Avantopool Kinos」(Avantopoolの公式HPより)

本体には4〜38度まで液体の温度調整ができるチラーが設置されており、好みの水温に設定可能。キンキンに冷えた湖に浸るアヴァントの疑似体験ができるということで、現地で人気だという。

「同社の製品は、フィンランド国内、特に湖畔や水辺が側にないサウナ施設に多く設置されていて、多くの人がアヴァント体験を楽しんでいます。日本の玄人サウナーにも人気のようですね。アスリートの体力回復、筋肉疲労やむくみ改善、 神経の興奮を抑え、心拍数を整えるのにも水風呂が効果的といわれており、スポーツ業界でも幅広く同製品が利用されています」(小菅さん)

確かに、日本のサウナにとって水風呂や水シャワーは欠かせない要素の一つだ。本場のアヴァントを疑似体験できるプールは、施設の売りになるかもしれない。

4【Studio Puisto】デザイン性が高いリゾート用キャビン

サウナ、コテージ、ホテル、スパなどのホスピタリティ関連施設に特化した建築事務所「Studio Puisto」がデザインした「Space of Mind」は、さまざまな用途に利用できるキャビンだ。ユニット型になっており、サウナ+コテージ+カフェのように、関連施設を組み合わせることが可能だという。

「Studio Puisto」の「Space of Mind」(提供:Studio Puisto)

「同製品は、世界的なデザイン賞である『Wallpaper* Design Awards 2022』でLife-Enhancer of the Yearを受賞しています。デザインはもちろん、レゴのようにそれぞれの木片を組み合わせることによって、容易に組み立てられるのも魅力。サウナや宿泊施設を含む簡易的なリゾート施設の建設を実現する設計です」(小菅さん)

「Studio Puisto」の「Space of Mind」(提供:Studio Puisto)

「Space of Mind」は、自然に囲まれたような場所でも建設できるよう軽量化されており、クレーン、またはヘリコプターで運べるとのこと。場所を選ばずに建設できる汎用性のあるキャビンは、サウナビジネスの可能性を広げてくれそうだ。

北欧最大の「水上サウナ」も!現地のサウナトレンド

提供:©HNRI OY / Sauna from Finland

日本では、コロナ禍の影響もあり、一人やグループでサウナや水風呂を独占できる「個室サウナ施設」が増えつつある。一方、本場フィンランドでは、都市型の複合サウナ施設が一つのサウナトレンドになっているようだ。

「近年、『サウナ・レストラン』と呼ばれるレストランとサウナが融合した都市型施設の開業ラッシュが続いています。2016年に開業した『Löyly Helsinki(ロウリュ・ヘルシンキ)』が先駆けといわれていて、その後、タンペレに『Kuuma(クーマ)』、東部クオピオ市に『Saana(サーナ)』が開業。今年8月には、中部主要都市のユバスキュラに『Sataman Viilu(サタマン・ヴィ―ル)』、中西部の都市ヴァーサに北欧最大の水上サウナ施設『Meri(メリ)』が開業予定です」(小菅さん)

ヘルシンキにある「Löyly Helsinki」はサウナ後、そのまま海に飛び込める(筆者撮影)

筆者は、2020年に「Löyly Helsinki」を訪れ、レポート記事を執筆している。興味がある人は、こちらから確認してみてほしい。

小菅さんがあげた施設の中で、特に注目したいのが、まもなくヴァーサに開業予定の水上サウナ「Meri」。ヴァーサの若い起業家グループが所有する海沿いのエンターテインメントテラス「Sisäsataman Terassi Oy」がオーナーで、プロジェクトの総費用は約250万ユーロ(約3億5千万円)にものぼるらしい。資本投資のほか、クラウドファンディングでも資金を募ったという。

2022年8月に開業予定の水上サウナ「Meri」のイメージ(Meriの公式HPより)

サウナやスパだけでなく、フィンランドの著名なミシュランシェフによる北欧料理や季節料理を提供するレストランがあり、外国人観光客の誘致につなげたい意向があるようだ。フィンランドの新たな観光名所になるかもしれない。

最後に、マンシッカさん、小菅さんに、サウナビジネスにおける日本市場への期待を聞いた。

「近年の日本と同様、本場フィンランドでも静寂と平穏を感じる一人サウナは、人々の精神性において欠かせないものです。ここではサウナ付きの住宅がめずらしくありませんが、今後は日本でもサウナ付き戸建て住宅やコテージ、共用サウナ付きマンションなどが充実していくかもしれません。歴史と信頼あるフィンランド企業のサウナ製品も、より求められるのではと期待しています」(マンシッカさん)

「日本では高温度のサウナ、キンキンに冷えた水風呂、休憩のサイクルによって多幸感を味わう『ととのう』行為が人気ですよね。一方、フィンランドではサウナの温度を80〜90度とそれほど上げず、会話を楽しみながらゆったりと過ごすのが主流です。サウナは、少しシャイなフィンランド人が心を開いて本音を話す場ともいわれます。サウナにコミュニティとしての雰囲気・機能が加われば、より精神的な充足感を味わえるのではと思います」(小菅さん)

サムネイル写真提供:©Pesola Objective/Sauna from Finland

<取材協力>
Monordi Ltd.Omatsuri Ltd. / 代表取締役 / 小菅祥之
Monordi Ltd.Business Design Hug / 代表 / マンシッカ由加子

取材・執筆:小林 香織
編集:岡徳之(Livit