近年、空前の大ブームとなっているサウナ。新型コロナウイルスの影響で一時的に閉鎖した施設もあったようだが、現在は営業を再開している施設も多く、“ととのう快感”を求め、人々は足繁くサウナに足を運んでいるようだ。

サウナの発祥は北欧フィンランドで、その起源はなんと2000年以上も前にさかのぼるとか。今回はフィンランドの首都ヘルシンキを拠点に活動する筆者が、現地で暮らす人々のサウナ事情を取材。

マンション等に設置された自宅のサウナをリサーチしたほか、2016年にオープンしたヘルシンキ市内の本格的な公共サウナ「LÖYLY HELSINKI」(ロウリュ ヘルシンキ)を体験取材した。

自宅でも休日でもサウナ三昧。生活に密着したサウナ

人口約550万人に対して、約330万ものサウナが存在するというフィンランド。この数字だけ見ても、フィンランド人にとってサウナがどれだけ不可欠なものであるかが伺える。

首都ヘルシンキのグーグルマップ上で「sauna」と検索すると、このように中心地にいくつもの公衆サウナが点在していることがわかる。とはいえ、近年建てられる住宅にはサウナが完備されていることから、公衆サウナは劇的に減少しているという。

2014年からヘルシンキ在住、現地でフィンランド雑貨と現地ツアーの通販サイト「キートスショップ」を営む台湾人のケンさんに伺ったところ、「うちのマンションにもサウナがありますよ」とのこと。自宅のサウナをどのように利用しているのか聞いてみた。

「キートスショップ」ケンさん

このようにケンさんの自宅にあるサウナは、かなり本格的で広々としている。フィンランドのサウナは、サウナの元祖とも言われる煙突のない「スモークサウナ」、煙突付きの「薪ストーブ式サウナ」「電気式サウナ」が一般的と言われており、一般家庭では電気式サウナが普及している。

マンションにあるサウナは最上階や地下などに設置されており、住人が予約制で使うそう。ケンさんのマンションでは月に5枠の無料予約枠があり、1枠1時間で設定されている。毎日とはいかなくとも、毎週自宅でじっくりと体を温め、汗を流せるのは至福かもしれない。

「キートスショップ」ケンさん

温度は80度前後だが、入り口付近に置かれたサウナストーンに水をかけて水蒸気を発生させ、90~100度前後に温度を上げることができる。この入浴スタイルは「ロウリュ」と呼ばれ、フィンランドでは伝統的な手法。日本でもロウリュはサウナ通の間で欠かせないもののようだ。最大で8人ほど入れるため、友人を招いてサウナを楽しむのも良いかもしれない。

「サウナは生活の一部という感覚で、日本でいう『温泉に行く』ほど特別な感覚ではないですね。ちょっと疲れたり、体が冷えたりして『サウナに入りたいな』とふと思ったときに、自宅のサウナや公衆サウナに入ります」(ケンさん)

外出が制限される今の時期でも、自宅にサウナがあればステイホームでバッチリととのうことができるのではないだろうか。

開放的なビューがたまらない「LÖYLY HELSINKI」

せっかくヘルシンキに住んでいるのだから、「本場のサウナを体験してみたい」と思い、現地に住む人に勧められた海辺のモダンなサウナ「LÖYLY HELSINKI」(ロウリュ ヘルシンキ)を訪問。なんともスタイリッシュな外観で目立つので、一目でわかった。

サウナスペースとレストランスペースに分かれており、晴れた日はスカイブルーの海と空が一面に広がる。レストランで眺めの良いテラス席に座るなら予約必至のようだ。この日もコロナ禍で観光客が減っているタイミングにもかかわらず、テラスは大盛況だった。

サウナも予約必須となっており、公式HPから英語で予約ができる。HPの説明によると、ここには木材で加熱された3つの異なるサウナが存在し、伝統的なフィンランドのサウナが体験できるとのこと。継続的に加熱される薪ストーブ式サウナ、一度加熱されたあと、夜通し暖かさが維持されるサウナ、そして伝統的なスモークサウナだ。

2時間19ユーロ(約2,400円・水、タオル、シャンプー、ボディーソープを含む)と、フィンランドの一般的なサウナより、やや割高の金額設定だ。

更衣室とシャワールームは男女別に分かれているが、サウナは男女混合・水着着用での入浴となる。サウナ内部も木を生かしたモダン、かつリラックスできる雰囲気。ただ、広々しているワケではないので、荷物は必要最低限にすると良さそうだ。

3つのサウナ室の他に室内・室外の休憩スペースがあり、ゆっくりとくつろぎながら外気を浴びることもできる。また、休憩スペースではアルコールを含むドリンクを購入できる。

最高温度は130度!?ロウリュによる熱波がすごい

いざサウナへ! 3つのサウナのうち、1つはプライベートサウナとなっている。予約がある日は使えないようだが、この日は自由に使ってOKとのことで、3つのサウナをローテーションで回ってみることにした。

まずは、継続的に加熱される薪ストーブ式サウナへ。入った瞬間、圧倒される熱気が体を包む。正直、サウナ初心者には厳しい熱さかもしれない。正確な温度はわからなかったが、80度以上はありそうだ。金属のピアスやネックレスを付けたまま入浴すると、それらが熱されてやけどをする危険性もあるので気をつけてほしい。

「熱い、熱い」と思いながら耐えていたところ、その場にいたフィンランド人の男性がおもむろに席を立ち、熱したサウナストーンに水をかけた。その瞬間、ものすごい熱波(水蒸気)が発生し室内の温度が上昇。もちろんロウリュは伝統的な入浴法だと知っていたが、100度を超えているかもしれない肌がピリピリする熱さに怖気づき、すぐに部屋を出てしまった。

とはいえ、フィンランドサウナ協会が運営する伝統的なサウナハウスだと、最高130度まで温度が上がるというから驚きだ。

LÖYLY HELSINKIでの醍醐味は、サウナで十分に温まった後、海で泳げること。野外にも休憩スペースがあり、そこから階段を降りてバルト海に入ることができるのだ。海の水がキレイではないのが唯一残念だが、開放的な雰囲気はたまらなく気持ちがいい。

真冬は階段に雪が積もることもあるが、そんな底冷えの日でもフィンランド人は入浴後に海に浸かるという。

続いてスチームサウナに入ってみると、先程よりかなり薄暗い。温度はやや穏やかな気もするが、初心者の筆者にはどちらも変わらず熱かった。ここでもフィンランド人はロウリュを頻繁に行い、最高温度でのサウナを楽しんでいた。

サウナ入浴時のマナーとして、「水をかけていい?」と一言声をかける習慣があるようだが、残念ながら1人で来ているアジア人の筆者に声をかけてくれた現地人は1人もいなかった。日本の多くのサウナでは1時間に1回など、ロウリュの頻度が決められている施設が多いが、LÖYLY HELSINKIでは訪問者が自由にロウリュができる。

そのため、場合によっては体感温度が上がるすぎることもあり得る。熱すぎるときは部屋を出るか、その場にいる人と交渉する必要があるかもしれない。

最後にプライベートサウナへ。ここは3つのうちもっとも狭いのだが、穏やかな温度で初心者には入りやすいサウナだった。途中、10分ほど室内で1人になれたタイミングがあり、その瞬間はまさに至福。静寂の中で心を落ち着け、心地よい温度で芯から体を温める。本来のサウナの喜びを感じられた気がした。その後、広大な海を眺めながら外気に触れる瞬間もまた憩いの時間だった。

この日はたまたまだったのかもしれないが、筆者以外は友人や家族と一緒に複数人で来ている人ばかりで、サウナ内は終始騒がしかった。部屋はいずれも狭く、話し声は筒抜けになる。とはいえ、公共サウナの役割の1つは「コミュニティ」であり、サウナ内で会話をするのは現地人からすれば、ごく自然なこと。「静寂に浸りたい」というのはワガママな願いなのかもしれない。

LÖYLY HELSINKIは、海辺の絶景と共に伝統的なサウナを体験できる場所であり、外国人観光客にも人気のスポット。ヘルシンキを訪れた際は、立ち寄ってみてはいかがだろうか。他にも、観覧車のゴンドラがサウナ仕様になっている「スカイ・サウナ」や24時間無料で入れるサウナなど、さまざまな公共サウナが存在しているので、巡りながら好みを見つけるのもフィンランド旅行の魅力の1つだろう。中には混浴なのに全裸で入る人もいるかもしれないが、この国ではわりと当たり前の光景だと聞くので、驚かないでほしい。

<取材協力>
キートスショップ
LÖYLY HELSINKI

取材・文・撮影:小林 香織