学内トイレの個室内に設置された装置に専用アプリをかざすと、生理用ナプキンが無料で手に入る。龍谷大学は、連携協定を結んでいるオイテル株式会社の装置「OiTr(オイテル)」を2021年度中に、学内700カ所のトイレに設置予定であると発表した。

2021年9月の導入開始時には、関西の大学で初めての試みということもあり、新聞やテレビで「生理の貧困」というキーワードが何度も取り上げられた。貧困という言葉は、経済的な意味で捉えられがちだが、それだけでなく、適切なケアや知識にアクセスできていない現状や、そのために生じる誤解や失う機会などに対して、考えていくことが重要だ。

今回のサービス導入のきっかけをつくった、「生理の貧困を解決するためのワーキンググループ」のメンバーである経営学部の松永敬子教授と、文学部生の大木優芽さんに「生理の貧困」と向き合う真意について伺った。

ムーブメントの始まりは学生の情報発信

今回、生理用品の無料設置を実現に導いたのは、ワーキングメンバーが実施した事前調査による女性たちが秘めてきた生理にまつわる本音だった。その前年となる2020年11月に本学内で開催された龍谷大学 社会起業家育成プログラム2020で、現在文学部2年生の大木優芽さんらのチームが、ビジネスアイデア「生理に関する正しい情報発信」を発表した。

文学部生 大木優芽さん

大木さんが、このプログラムに参加したのは1年生の時。

「大学受験後すぐのタイミングだったので、友達の『受験と生理がかぶってしまって本気が出せなかった』という感想が記憶に残っていたことや、自分自身が高校生の時、『生理が辛くて婦人科でピルを処方され、こんな魔法みたいなものがあるならもっと早く知りたかった』と思った経験から生理をテーマに選びました。“生理に関する正しい情報発信“を求めて具体的なデータを集めてみると、予想以上に多くの人が苦しんでいること、生理に対する理解が日本では全然進んでいないことに気づいたのです」

経済的な面だけでなく、生理について安心できるキャンパスライフへ

経済的、心理的な理由や、正しい知識がないばかりに、生理に関してひとりで苦しんでいる学生がいる。その事実を知った龍谷大学は、教育機関として早急な対応が必要だと判断。「生理の貧困を解消するためのワーキンググループ」を2021年6月に設置し、学生へのヒアリングなどの調査を続けた。

ヒアリング調査で出た「生理用品を長時間使用して、交換頻度を減らしている」「急な生理の対応にトイレットペーパーを代用することもある」「インターンシップ先を選ぶ際に、生理の時期も考慮している」といった本音から、キャリアセンター長でもある松永敬子教授は学生たちの実情を知った。

経営学部 松永敬子教授

「コロナ禍でアルバイトがなくなってしまった学生、自分で学費や生活費を工面しないといけない学生など、事情はそれぞれ異なっていても、経済的に苦しい場面や困窮まではしていなくても節約をしたい場面で生理用品が後回しになるという意見は同じでした。買えないわけではないけれどナプキン購入が二の次になってしまう。生理不順で急な生理への対応に苦労している。そんな学生の皆さんに快適なキャンパスライフを提供するのも大学の使命です。

また経済的なことだけではなく、生理不順の学生にとってトイレにいつもナプキンが置いてあるというのは学生はもちろん教職員にとっても安心に繋がります。そういう安心感こそ龍谷大学が大事にしている『まごころ』や掲げている行動哲学『自省利他』に基づいた活動だと思うのです」

性別も年齢も超えてオープンに生理のことを話す好機に

「OiTr(オイテル)」設置のニュースが報道された後、大学に入学してスマホも使っている学生がナプキンを買えないはずがない。なのに、大学が生理用品を用意するのかといった批判も寄せられたこともある。

「貧困という言葉が一人歩きしてしまった部分がありますが、ナプキン購入を二の次にする学生をサポートすることは入り口です。この活動の真意は、誰にも語れなかった生理の悩みについて語ることのできる土台をつくることにあります。生理の話題を性別も年齢も超えて学内でできること自体が画期的。いろんな人と議論できるとてもいい機会を、学生の大木さんたちが与えてくれたことにも大きな意味があると思います」

男子学生が恩恵を受けられないナプキンを大学が負担するのは不公平、という意見もあったようだが、それは正しい認識ではない。

生理用ナプキンの無料化サービスは基本、広告収入によって成り立つビジネスモデルだ。女性の身体と生理の関係、生理痛緩和のための低用量のピルの紹介など、企業から提供された情報を流すことで収入を得ている。女性だからと言って必ず生理があるわけではないし、トランスジェンダーの人など、男性トイレ利用者の中にも生理がある人がいると考えられる。

このことから、男性用トイレを含むあらゆるトイレに「OiTr(オイテル)」を設置している。

こうした取り組みを通して、生理を意識したことがなかった人にも生理を正しく知ってほしいという思いがある。生理に関して不安や苦痛を感じている人が安心して過ごせるキャンパスは、すべての人にとっても安心して過ごすことができるキャンパスになると考えているからだ。

今回の調査では、生理痛を和らげるために低容量ピルを使用している学生や、興味を持って調べている学生が想像以上に多いこと、低用量ピルはネットでも購入できるが保険適用にならず経済的負担が大きく、それが生理用品の購入にも影響していること、生理痛が重くて授業を欠席する学生がいても教員には伝えにくく、無断欠席となってしまっていること、男性トイレで「OiTr(オイテル)」に救われる学生がいるかもしれないことなど、ヒアリング調査や先進事例でさまざまな学生の本音が顕在化した。 この活動はスタート地点に立ったばかりだ。生理の貧困を解消するためのワーキンググループのメンバーを中心に、教職員、学生など龍谷大学に関わるすべての人と一緒に、「誰一人取り残さない」キャンパスライフとは何か、これからも考え続けていく。

※この記事は龍谷大学オウンドメディア 「ReTACTION」からの寄稿記事になります。

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