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世界各地で都市化が進む中、それは筆者が現在滞在しているアフリカも例外ではない。ワシントンポストのデータによると、2025年にはメガシティのほとんどがアジアに集中するのに対し、2100年にはほとんどがアフリカ大陸に位置する、という予測がなされている。
アフリカにおける地方から都会への人びとの移動は激しく、過去15年で、エチオピアの都市人口は3倍、ナイジェリアでは2倍となった。そんなアフリカでは、いくつかの都市で、最新のテクノロジーを活用した大規模なスマートシティ開発が同時進行中だ。
この記事では、セネガルのAKON CITY、ナイジェリアの海浜新都心エコアトランティックなどの事例を紹介しつつ、これまで欧米社会や中国を中心に推進されてきたスマートシティとは異なるアフリカのアプローチや、新しい未来を提言しうるアフリカ的都市モデルの可能性について論考する。
人口増加と都市化の進むアフリカの都市
アフリカでは、人口増加と都市化が同時進行している。21世紀後半になっても人口増加を続けるであろう大陸は、世界でアフリカだけという調査もある。すでに増えつつある人口は、水や電気などのインフラや、高等教育、仕事口など、より多くの機会を求めて都市に流入している。
現状では、ワシントンポストの調査による世界で最も大きな都市ランキングでは、20位中、2都市しかアフリカの都市はランクインしていない。しかし将来的には、13都市がアフリカの都市となり、世界人口の3分の1がアフリカに集中することになると言われている。
すでに、ナイジェリアのラゴスや南アフリカのケープタウン、エジプトのカイロなどでは都市化が進み、さらに今後は、コートジボワールのアビジャン、スーダンのハルツーム、コンゴのキンシャサ、ケニアのモンバサなどが大都市に成長していくと予想されている。大都市とは、ここでは人口の過密する場所として定義されている。
注目の集まるリープフロッグ現象
そんなアフリカでは、「リープフロッグ現象」と呼ばれる急速なテクノロジーの発展が見込まれており、若者を中心とした実験的なスタートアップやイノベーティブなプロジェクトが数多く生まれつつある。
「リープ」は飛ぶ、「フロッグ」はカエルの意味で、リープフロッグとは、ある国や地域がまるでカエルが飛び立つかのように一気に発展を遂げることを指す。新興国が先進国に遅れて新しい技術に追いつく際に、途中の段階的な進化を飛び越して一気に最先端の技術に到達してしまう現象だ。
既存のインフラや社会経済基盤に乏しいアフリカには、変化をおおらかに受け入れる気風があるとされている。また、いまだに独裁政権の続く国々では、政府に頼らずに自分たちの力で未来を切り開いていこうとする民間のパワーも強い。
このため、E-ガバナンス、E-教育、E-ヘルス、再生可能エネルギー、電子通貨など、先進国では導入に時間がかかっているようなテクノロジーを、アフリカでは多くの国々が柔軟に受け入れ始めている。
例えば、銀行口座を持たない人口が多いからこそモバイルマネーが急速に普及するなど、基盤となるインフラがないからこそ、一気に最先端のテクノロジーにジャンプできるのだ。
アフリカのスマートシティ最新動向
そうした背景から、今アフリカでは最先端のテクノロジーを駆使し、イノベーションのハブとなっているスマートシティのプロジェクトが数多く進行している。
エイコンシティ(AKONCITY)は、アメリカのR&Bシンガーソングライター・AKONが、セネガルに建設を計画している未来都市だ。独自の仮想通貨「Akoin」によって、家賃の支払いや日用品の購入などを含むすべての取引が行えるようになる予定で、アフリカの金融空間で暗号通貨の利用を普及させ、若者たちの経済活動の活性化や起業家の成長を後押しする狙いがあるようだ。
エイコンシティ全体は、「アフリカ・カルチャー・ビレッジ」「オフィス&住宅地区」「エンターテイメント地区」「ヘルス&セーフティ地区」「教育地区」「テクノロジー地区」のほか、撮影やレコーディングスタジオが中心となった「セネウッド地区」の合計7つの主要地区で構成。循環型のスマートエネルギーなど最新テクノロジーを駆使した開発に加え、教育機関とテック企業の連携など、今後の技術発展を準備する仕掛けがあるのが興味深い。
AKONはセネガルの大統領から建設予定地の賃貸と開発許可を与えられており、今後10年以上の歳月をかけてエイコンシティを建設していくとのこと。ハイパーウルトラモダンなデザインが特徴的で、アフリカのスマートシティプロジェクトの代表として紹介されることも多い。
アフリカ最大の都市・ラゴスでは、レバノン系不動産デベロッパー、シャゴーリグループの関連会社、サウス・エナジック・ナイジェリアを主導に、海浜地区に大規模なスマートシティ「エコアトランティック(Eco Atlantic)」の計画が進行中だ。完全民間主導で、埋め立て・造成はオランダに本部を置くロイヤル・ハスコニングが担当する。
ラゴスでは、道路、鉄道、電力網、通信、下水処理など政府主導のインフラ開発がなかなか進まない。そのため、政府自らが民間から開発計画を募り、開発権益を譲渡するコンセッション契約を行ったのが今回の開発だ。造成計画面積は1,000ヘクタールにおよび、ホテル、ショッピングモール、マリーナなども備える計画で、常住人口30万、通勤流入人口20万を見込んでいる。
このプロジェクトが先駆的なのは、電力、水道、通信などのインフラをエコアトランティック内で自給自足する予定である点だ。基礎インフラが整備されていないラゴスでは、停電や水不足などが頻繁に起こる。民間主導でインフラを整備し、自給自足することでより快適な都市生活が実現できそうだ。
新しい都市モデルの提案となるか?
華々しく見えるこうしたプロジェクトだが、批判もつきものだ。
ケニアで最大規模のスマートシティ開発と言われているKonza Cityは、2008年に構想が発表されてから現在まで大きな進展がないまま。前述のエイコンシティも建設の着手までかなりの時間を要している。欧米や中国資本のプロジェクトも多いことから、トップダウン的なアプローチや、住民のニーズとの乖離などもあると指摘されている。
なにをもって”スマート”とするかの定義もプロジェクトによってさまざまで、単なる超高層ビルの集積だと批判されるプロジェクトも多い。
また、モダンな高層ビルの立ち並ぶ姿に対し、「アフリカの今後の発展は、欧米の真似をすることではないはずだ」という懸念の声も出ている。
例えば、上海での活動経験のあるルワンダ出身の建築家・クリスチャン・ベニマナ氏は、「出稼ぎ労働者の搾取や大規模な立ち退き、急速な開発に伴う環境汚染など、現代都市につきものである課題を、アフリカではより持続可能かつ公正な方法で乗り越えていく必要がある」と話す。
そんなベニマナ氏が主導するアフリカン・デザイン・センターでは、アフリカ出身の若手建築家による新たなネットワークの構築を目指している。アフリカの気候や文化にあった建築技法を理解した建築家を増やすことで、欧米のコピーではない形で独自の都市開発の方向性を探れるのでは、という想いが背景にある。
また、外資ではなくアフリカ人が主体のプロジェクトが増えることで、海外に出ずとも才能のある建築家が地元で活躍できる土壌も創出できる。
アフリカには、植民地の暗い歴史やディアスポラの経験、人種差別といった重いテーマが常につきまとう。アフロ・フューチャリズム(Afrofuturism)という言葉があるが、そのようなさまざまな挑戦や課題に向き合いながらも、アフリカが新しい未来像を積極的に描いていくことに期待したい。
文:杉田真理子
編集:岡徳之(Livit)