GAFAM間で激化するメタバース、VR・AR開発競争、

ゴールドマン・サックスが2021年12月に公開したレポート「Framing the Future of Web 3.0」によると、メタバース関連投資は今後3年間で最大1兆3500億ドル(約155兆円)に達する可能性がある。

またブルームバーグは2021年12月1日の記事で、売上ベースで2020年に5000億ドル(約56兆円)だったメタバース市場は今後二桁成長となり、2024年には7833億ドル(約88兆円)になるとの予想を展開している。

メタバース市場の拡大とともに盛り上がると見られるのがVR・AR市場だ。

PwCのレポート「Seeing Is Believing」によると、2030年にはVR・ARによる経済効果は1兆5000億ドル(約170兆円)に達する見込みという。

このように今後急速な成長が予想されるメタバース市場とVR・AR市場、GAFAMの中では現在メタ(旧フェイスブック)とマイクロソフトが優位なポジションにいるとみられる。しかし、その様相は今後数年で大きく変わる可能性が見えてきている。

理由の1つとして、アップルが独自にVR・ARヘッドセットを開発しており、近々リリースする可能性が報じられていることが挙げられる。米メディアThe Informationが2021年9月に情報筋の話として伝えたところでは、2022〜23年にアップルがVR・ARに関するデバイスをリリースする公算が大きいという。

そしてもう1つがグーグルによる参入可能性が挙げられる。このところ、メタバースやVR・AR関連のニュースでは、メタとマイクロソフトにスポットライトがあたり、グーグルは蚊帳の外という状態だったが、2022年1月20日に米メディアThe Vergeが情報筋の話として、グーグルのARヘッドセット開発に関するリーク情報を公開したのだ。

リーク情報によると、グーグルのARヘッドセットは2024年にリリースが計画されているという。

以下では、The Vergeが報じた情報をまとめつつ、周辺情報を加味し、グーグルのAR開発動向を探ってみたい。

海外メディアにリークされたグーグルのARヘッドセット開発情報

The Vergeの報道によると、グーグルのARヘッドセットは「Project Iris」という開発コードネームで、厳重な情報管理のもと開発が進められている。開発チームは300人ほどだが、今後さらに数百人を加える計画という。開発拠点にアクセスするには、特別なキーカードが必要となり、また携わるチームメンバーは「秘密保持契約」を締結することが求められる。

ARヘッドセットの試作機はすでにいくつか開発され、シリコンバレーの拠点でテストが実施されているという。形状はスキーゴーグルに似たもので、コードを接続せずワイヤレスで動く。グーグルのスマートフォン「Pixel」の最新モデルで使用されているようなグーグルのカスタムチップが埋め込まれており、アンドロイドをOSとしているとのこと。

このProject Irisを率いるのは、2005年にグーグルに入社した古参クレイ・ベイバー(Clay Bavor)氏で、同社のサンダー・ピチャイCEOに直接報告する立場であるという。

ベイバー氏は、ピチャイCEOと親しい仲で、懐刀のような存在とみられている。実際、入社時期や社内での境遇が似ており、旧知の仲であることがうかがえる。ベイバー氏は、2005年にアソシエイト・プロダクトマネジャーとしてグーグルに入社、一方ピチャイCEOは2004年にグーグルに入社し、同じくプロダクトマネジメントを担当している。

2021年11月には、ベイバー氏はAR・VR部門のVPから、より広い部門を担当する「VP of Labs」に昇格。これにより、重要な研究開発に幅広く携わるようになっている。その1つが、Project Irisと並ぶ目玉プロジェクト「Project Starline」だ。

Project Starlineは、超高画質を売りとするビデオ会議ブース。The Vergeによると、このビデオ会議ブースのデモを体験した人々は口々に、最もすばらしいテクノロジーの1つだと賞賛しているという。Starlineの出荷時期もIrisと同じ2024年が目標となっている。

ARヘッドセットだけでなく、メガネ型ARデバイスも開発?

グーグルの動きを観察していると、AR開発に関しては、Project Irisのほかにもいくつか並行して別のプロジェクトが進められている可能性が見受けられる。

理由の1つは、グーグルによる「Waveguides(導波路)」分野の研究者の求人が増えているという事実だ。

この技術は、Project Irisのようなヘッドセットではなく、メガネ型のARグラスを開発するのに適した技術といわれている。シリコンバレー(マウンテンビュー)のほか、カナダのウォータールー拠点の求人が掲載されており、The Vergeは、カナダでも何らかのARプロジェクトが進行している可能性があると推察している。

グーグルが開発するARデバイスで、どのようなことが可能となるのか未知数であるが、少なくともスマートフォン上で現在利用できるAR機能が使えるようになることは間違いないだろう。

スマホで使える「Google Lens」では、カメラで写したモノや文字を解析し、検索や購買につなげることができる。グーグルマップの「Live View」では、リアルタイムに地図上にAR映像を映し出すことが可能だ。また、グーグルのAR開発プラットフォーム「ARCore」を活用した様々なARアプリが開発されているが、それらもいずれARヘッドセットやARメガネで利用できるようになるかもしれない。

2022年のメタバース市場とVR・AR市場は、研究開発競争だけでなく、情報合戦も加熱していくことになりそうだ。

文:細谷元(Livit