日本電信電話(以下、NTT)は、高出力レーザの照射によってアスベスト(石綿)を繊維形状から球形状に変形できることを確認したと発表した。

さらに、回折光学素子(DOE:Diffractive Optical Element)を用い、レーザ照射に伴うアスベスト粉塵の飛散を抑制する技術を開発。

一般的なアスベスト建材の除去作業では、有害なアスベスト粉塵の吸引によって、作業者に肺がんや悪性中皮腫等の病気を引き起こすリスクがあります。同技術を用いれば、アスベストを無害な球形状へ変形するとともに、飛散する粉塵量を抑制できるため、作業者の健康リスクを大幅に低減することが可能であるとのことだ。

1.背景

アスベストは建築物等の断熱材として広く使用されてきたが、ヒトが吸い込むと肺がんや悪性中皮腫等を引き起こす問題が広く知られるようになり、現在では多くの国において使用が禁止されているという。

アスベストが有害である主な理由は、その極めて細く尖った形状であると考えられ、人体に吸入されると肺胞に沈着しやすく、長期にわたり肺の組織が傷つけられて遺伝子異常が起こり、細胞ががん化する可能性が指摘されている。

そのため、老朽化した建築物の解体に伴うアスベスト除去は年々増加しているが、電動工具をはじめとする現状のアスベスト除去ツールは有害な粉塵を周囲に飛散させるため、作業者や作業現場周辺をアスベスト粉塵のばく露から守る防護を必要とするとのことだ。

このようなばく露リスクを根本的に回避するには、有害な粉塵を無害化するアスベスト除去技術が求められている。

2.同技術の概要

高出力レーザはその照射点でアスベストを熱融解により形状を変更させることが期待されていたが、NTTはレーザ照射実験を行い、アスベストの形状が変化することを世界で初めて確認したとのことだ。

図1は実験の観察、実証した結果。

図1. 建材に含まれるアスベストを溶融した例

さらに、回折光学素子を用いて、アスベスト含有塗材に照射する高出力レーザのパワー密度とビーム形状の制御を行うことで、レーザ照射時の粉塵量の抑制にも成功しているという。

回折光学素子は、光の回折現象を利用してレーザビームの形状を自在に変えることが可能なデバイス(図2)。

図2. 回折光学素子によるビーム形状制御の例

回折光学素子でレーザ光をベッセルビームに成形し、レーザ照射時に発生する粉塵の飛散量を大幅に抑制することで、アスベスト粉塵のばく露リスクをさらに低減している(図3右側:ベッセルビームに成形して照射)。

図3. 回折光学素子の粉塵抑制効果

3.今後の展望

NTTでは、10kW級の高出力レーザに対応した回折光学素子を低廉材料であるシリコンで実現しており、アスベスト無害化のためのレーザ照射装置の低コスト化が可能。

また、回折光学素子を用いることで、レーザ照射部分(レーザヘッド)を軽量且つ小型化することができ、狭い場所や天井などの従来工法では除去しにくい場所にも持ち込むことが可能になると考えているとのことだ。

このようなレーザツールの実現へ向け、回折光学素子を用いて、光ビームの照射範囲を拡大することで、アスベスト含有塗材をできる限り短時間で無害化して除去できる技術や、レーザ光を直線形状にすることで、アスベストを含む建材を安全且つ効率的に切断する技術の検討を行う。

NTTは、安全なアスベスト除去技術の開発を通して、環境保全の実現に貢献していくとしている。

なお、同技術の内容は、2022年2月21日~27日に開催されるSPIE (The international society for optics and photonics) Photonics West On-demandで発表するとのことだ。