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評価額1000億円はもはや珍しくないスタートアップの世界
評価額1000億円以上のスタートアップは、ユニコーンと呼ばれ重宝されていたが、欧米では1000億円を超えるスタートアップが続々登場、最近ではその希少性は薄れてきている。
特にコロナ禍では、世界中の企業がデジタルシフトを加速、その需要を満たす新しいプロダクトやサービスを提供するスタートアップの評価額はうなぎのぼり状態となっている。
たとえば、米国のクラウドデータベース企業「Cockroach Labs」はこのほどシリーズFラウンドで2億7800万ドル(約377億円)を調達。その評価額は50億ドル(約5700億円)に達した。
売上ベースで1500億ドル(約17兆3800億円)規模といわれる世界のクラウド市場は、アマゾンのAWS(市場シェア32%)やマイクロソフトのAzure(20%)が幅を利かせている。しかし、Cockroach Labsは、コロナ禍における企業のデジタルシフト需要を取り込み、急速にユーザーベースを拡大、投資家の関心を集めるようになっているのだ。
Cockroach Labsのデータベース「コックローチDB」は、ディストリビューテッドSQLと呼ばれるもので、スケーラビリティに長けるクラウドデータベース。広域のオンラインビジネスを展開する企業に重宝されている。顧客企業には、米Eコマース大手eBay、中南米最大のネオバンクといわれるブラジルのNubankなどが名を連ねている。
コロナ禍、スマホ、タブレット、PC、スマートTVなどの様々なデジタルデバイスを通じてオンラインにアクセスする消費者が増加。これに伴い、使用されるデータが急増し、各企業においても、スケーラブルなクラウドデータベースに対する需要が高まったと思われる。
実際、すでにニューヨーク証券取引所に上場した同業のスノーフレークの売上は、2020年に前年比173%増、2021年に123%増を記録している。
このほか同業企業として米Databricksが2021年8月にシリーズHラウンドで16億ドル(約1853億円)を調達、評価額を380億ドル(約4兆4000億円)にするなど、データ関連企業の活況を示す事例には事欠かない。
評価額1兆円超えのスタートアップ
Cockroach Labsやスノーフレークの好調は、データベースだけでなく、エンタープライズ向けテクノロジー市場全般の活況を反映するものでもある。
たとえば、コラボレーションプラットフォームのAirtableは2021年12月、シリーズFラウンドで、7億3500万ドル(約851億円)を調達、これにより評価額は110億ドル(約1兆2739億円)に達した。
Airtableが提供するのは、プログラミングの専門家でない人でもすばやくアプリケーションを作成できるローコードの開発プラットフォーム。コロナ禍、民間企業だけでなく、政府機関や病院などでもオンラインシフトが起こり、このことがローコード開発環境需要の急速な拡大につながった。
CNBCによると、Airtableの顧客企業数は30万社に上り、その中にはネットフリックスやShopifyなどの大手企業も多数含まれるという。
4兆6000億円、オーストラリア発のグラフィックスタートアップ
オーストラリア発のグラフィックデザインプラットフォーム「Canva」も好調のスタートアップだ。2021年9月には2億ドル(約231億円)を調達、評価額は400億ドル(約4兆6335億円)に達した。
Canvaは190カ国でサービスを展開、月間アクティブユーザー数は6000万人に上る。Canvaの企業顧客にも、セールスフォース、マリオット・インターナショナル、ペイパル、アメリカン航空など大手企業が多数含まれる。
AIによる文章訂正サービスを提供するGrammarlyも2021年11月に2億ドル(約231億円)を調達し、評価額を10億ドル(約1158億円)から130億ドル(約1兆5000億円)に伸ばした注目スタートアップだ。
ロイター通信によると、現時点のユーザー数は3000万人。デル、シスコ、エクスペディア、ズームなどの大手企業のユーザーも多いという。
2020年から2021年にかけて、欧米を中心にベンチャー投資が記録的な増加を見せたが、上記事例はその投資資金がエンタープライズ系スタートアップにも流入したことを示すもの。
スタートアップ分析企業PitchBookの予測によると、2022年もベンチャー投資トレンドの勢いは衰えを見せず、さらに拡大する見込みだ。どこまで拡大するのか、ベンチャー市場の動向から目が離せない。
文:細谷元(Livit)