首相が「王族も同性婚OK」とコメントして話題に。開かれた自由な王室の文化あれこれとそれを支える国民性の秘密(オランダ)

この秋、日蘭両国でホットだったロイヤルファミリーの「結婚」の話題

今年の10月、日本では皇族の結婚がホットな話題だったようだが、同月オランダでもロイヤルファミリーの結婚についてちょっとトレンド入りした話題があった。

なんだかんだありつつも在職12年目となるマーク・ルッテ首相が、「次期女王がもしも同性のパートナーとの結婚を希望した場合、王位継承権を放棄することなく結婚を実行して問題ない」という見解を公式に示したのだ。

その婚姻関係における子どもの王位継承権に関してこそ、「(そういう状況になったら)その時にまた検討する」と現時点での明言を避けたものの、さすがのオランダでもこれはかなりの話題となった。

ただ国民の主観的幸福度も高く「身勝手ながら他人の自由も尊重する」徹底した個人主義のオランダ国民は、一瞬驚きはしたもののほんの2、3日で「まあ、だよね、個人の選択だし」と急速に関心を失っていた。

日本の皇室とオランダの王室は、その歴史も国民にとっての意味合いも全く違うので当然と言えば当然なのだが、なんというかたまたま同時進行中だった日本のロイヤルマリッジへの反応との温度差が面白かったので今日はその周辺の話をしたい。

この議題のきっかけとなった、もうすぐ成人のアマリア王女(画像:オランダ王室公式サイトより)

実は「同性婚が公式に許可されていない唯一のオランダ国民」だった王位継承権第一位

世界で初めて同性婚を合法化した国でもあり、王室関係者も日本人の筆者から見ると目をむくような人間味をたびたび見せるオランダ。

それでもやはりキリスト教的な背景もロイヤルデューティもあり、同性婚合法化当時(2001年)の政権は、基本的に「次世代の王位継承者を作る必要があるので、王位推定相続人は同姓婚できない」という見解を示していた。

今回の公式回答は、それから20年が経って人権やダイバーシティに関する社会のモラルも変化した今、唯一の同性婚合法化の「例外」だった王位継承者をその制限から解放することを政府が公式に宣言したという意味で様々な反応を呼んだ(オランダでは次期王位継承者の結婚には、国会の承認が必要)。

「女王も同性婚OK」に対する国民の反応

で、先述の国民の反応。日本のロイヤルウェディングにあたってはニュースサイトのコメント欄が荒れすぎて閉鎖されたと聞いたが、オランダ国民はどんな反応をしているのだろうか。 

ニュースサイトやSNSのフィードでコメントをざっと見回してみると、コメントは多く寄せられているもので100件程度だが、ざっくり数えて7割程度が好意的に捉えている、というか「当たり前だ」「同性婚してもいいとかダメとか、外野が口を出すことじゃない」「放っといてやれ」という風潮のよう。

反対派の理由はあまり整然と述べられているものが見つからないが、「女王が同姓婚とか頭おかしいのか」といった敬虔なお年寄りのコメントもないことはない。

ちらほら見えるのは「え、でも彼氏いるよね?」(アマリア王女は、隣国ベルギーの王子と付き合っているという噂が絶えない)や、「(王座に)女が二人ってどれだけ王室経費かさむんだよ」(オランダでは王室の経費や国王の給与も一般公開されており、常に国民の『高い』という非難にさらされている)といった国民目線の指摘。

コメント合戦になっている場合は、やはり「女王は立場に相応しい結婚をするのがモラルだ」という主張と「誰であろうと自由と愛に基づいた結婚を保障されることこそがモラルだ」という主張が拮抗している。この辺になると割とどこの国でもあり得るというか、理解できる切り口なのではないだろうか。

こんな反応を見せるオランダ人の国民性とは

そもそもオランダは国民性として「個人の幸福」至上主義。

滅私奉公が美徳の日本人としてこんなオランダに住む筆者は、その副作用であるままならないサービスや人の身勝手な振る舞いに天を仰ぐこともしょっちゅうだが、一方で各種国際調査でワーク・ライフバランス、子どもや大人の幸福度、などで毎回上位ランクインする国の基礎はここにあるとも思う。

これは筆者の主観でもあるが、みんなが自分の幸福や個人的選択を優先し、主観的な幸福度が高いので、他人の幸福をねたむこともなければ、逆にバカな選択をしても「まあ、あんたがそれでいいなら」と生暖かい目で見守ってくれる社会はやはり一般庶民としては生きやすいと感じる。

王族の中に国民の支持を得られない結婚相手を選んだ人も後述の現国王を含め複数いるのだが、世論はそのたび「本人が選んだなら結婚すれば。金は出さないけど」という立場を崩さない。で、本人が王位継承権と各種の報酬を捨てて結婚すれば、税金の無駄遣いも減ったし本人は王位継承権を捨てるほど好きな人が見つかってよかったね、めでたしめでたし、で片付いてしまう。

オランダの王室ってこんな感じ 

そもそもオランダの王室経営は、非常に庶民的で国民に近い距離感で行われている。

などというと詳しい人には「年間ファミリー総額44,400,000ユーロ(58億円程度)を受けている王室のどこが庶民的?」とつっこまれてしまいそうだが、逆にここまで経費が透明な王室って世界にいくつある?とも思う。

別に貧乏王室ではありません(画像:オランダ王室公式サイトより)

各種公務では本当に何の線引きもなく国民に混じってふれあったり、女王や王女がH&MやZARAの数千円のドレスを着ていたり。マキシマ女王がイベントの際、観覧者からもらった「35%引き」のシールが貼られたチューリップの花束を手に嬉しそうに手を振っていた時の写真は、「なんてオランダらしい一枚だ!」と国民の彼女に対する好感度を爆上げした。

「35%引き」のシールが貼られたチューリップの花束を持つマキシマ女王(metro公式サイトより)

この女王も実は、当時まだ王子だった現国王との結婚に国民の支持を得られず相当な苦労をした人。そもそも外国人(アルゼンチン人)だが問題はそこではなく、母国の政治家である彼女の父親が3万人の国民を殺戮した独裁政権下で農務大臣を務めていたことが結婚前に発覚したのだ。

結婚詐欺などとはスケールの違う疑惑に鷹揚なオランダ国民にも「さすがにちょっと無理」という反応を引き起こしたが、調査の結果、父親の大量殺戮への直接の関与が否定されたこと(『知らなかった』という記述は誰も信じていないが)、またその父親を含む花嫁の両親が結婚式に出席しない決定をしたこと、なにより「王子が好きなら仕方ない」という理由により議会は結婚を承認した。

その後、現在の国民的愛され女王としての地位を築くまでにはもちろん本人のオランダ語修得を含む必死の努力もあったが、なんとなくオランダ国民に残っていたしこりを溶かした決定的なアイスブレーカーとなった出来事は彼女の「ベイチェ・ドム(ちょっとバカ)」発言。

まだ王子だった夫が起こした不祥事に対して、まだ習得中の舌足らずなオランダ語で「ちょっとバカだったわね」と言い放った彼女の姿は、「常識的な感覚があり、率直」を強烈に印象付け、国民のハートをかっさらった。

日本で皇太子と結婚した元外国人の嫁が夫をバカ呼ばわりしたら同様の反応を得られるかかなり疑わしいと思うが、なにせオランダ人はこれで「カワイイ!」と猛烈にマキシマ派に転向した。

マキシマ女王(画像:オランダ王室公式サイトより)

こんな感じでも、というべきかこの庶民派戦略が功を奏してというべきか、オランダ王室はなんだかんだで国民にも愛されていて、毎年4月27日の国王誕生日は国を挙げてオレンジ色を着てお祝いする。

ちなみにこの「国王(または女王)誕生日」、先代のベアトリクス女王の時代は実際の誕生日は1月31日なのに、母親のユリアナ元女王の誕生日である4月30日に据え置いていた。理由は「本当の誕生日は寒いから」。つまり国民が陽気のいい季節に休日を楽しめるようにというだけの理由で、ベアトリクス女王は毎年てんで見当違いな時期に誕生日を祝われていたのだ。

なんというか国民目線と言っていいのか合理性と呼んでいいのか、とにかく日本人の筆者にとって「それでいいのか!?」と目をむく王室経営は、オランダの「自分が幸福だから他人に対して興味がない」国民性と、それゆえロイヤルファミリーへの期待値の低さに支えられていると思うのだが、どうだろうか。

なぜこのタイミングでこんな話題が?背景

そもそも冒頭の首相の発言を呼んだこの話題は、オランダのプリンセスが成人するにあたりあれこれと議論がなされる中で発生したもの。現国王の長子であり、現時点での王位の法廷推定相続人であるアマリア王女が今年の12月に18歳の成人年齢に達することから、彼女の義務と権利、王室のあり方などに関する対話が活発になっている。

同性婚に関しては8月に、憲法学者で元政治家のPeter Rehwinkel氏が出版した書籍『アマリア:デューティコール』の中に「現在の公式見解では、アマリアはもしも同性のパートナーとの結婚を希望してもそれはできない」とあることが目ざとい野党の目に留まり、時代に合わせたアップデートを現政権に迫る形となった。

ちなみに同書では、「アマリアが個人的な希望により王位を放棄することはできるか?」という問いにも触れ、「それはほぼ不可だが、彼女は多くの王位継承者と同じように一般人願望を持ちつつも、父親や祖母ほどにはじたばた抵抗せずおとなしく立場を受け入れたように見える」とコメントしている。現国王や先代女王がそんなにじたばたしていたとは知らなかったが、ロイヤルファミリーの運命的な不自由さに同情的な風潮は国民にも強い気がする。

念のため、オランダの王室には男系継承の規定はない。たまたま王室の第一子が女子というケースが続いており、現国王であるウィレム=アレクサンダーは即位時に123年ぶりの(女王ではなく)国王であることが話題になったが、彼の子どもは娘が3人なので、退位後(ほとんどの場合生前退位)はまた女王の時代がやってくることになる。

ちょっと怖いが訊いてみた、オランダ人が日本のロイヤルマリッジに思うこと

さて、個人的にこの温度差を興味深く見守っていた筆者は、しばらく周囲のオランダ人に「最近話題の、日本のプリンセスの結婚についてどう思う?」と聞いて回っていたが、たいていは「まあ好きならいいじゃん、結婚させてやれよ」という反応だった。

その中でも40代コンサル系勤務・熊系ルックスの男性の放ったコメントが印象に残ったので最後に紹介したい。

「まあなんだ、訳ありのイケメンがまんまとプリンセスをゲットしたのは個人的には気に入らないけど、プリンセスだって自分の選んだ愛する人と結婚すべきだろ?一時金辞退した?国民のみんなもよかったじゃん!おめでとうみんな!おめでとうプリンセスマコ!アメリカでお幸せに!」

 文:ウルセム幸子
編集:岡徳之(Livit

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