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新型コロナウイルスの感染拡大より約2年、ポストコロナの兆しも見え始めてきた。各国では経済復興が課題となる中、以前から成長センターと見られていた東南アジアに再び注目が集まっている。
中でも優遇税制や人材確保でアドバンテージを持ち、多くのテックスタートアップが集まるシンガポールは、域内のトレンドを見る上で欠かせない。
そんな中、ビジネス系SNSのリンクトインは、各国の注目スタートアップをまとめたレポートを発表。コロナ禍を経て、シンガポールではどのようなビジネスが伸びているのだろうか?
AI、フィンテック、医療テック、巣ごもり需要
リンクトインが発表した「シンガポールの注目スタートアップランキング2021」。リンクトインは投資、スタッフ、話題度などから、成長著しいシンガポール拠点のスタートアップ15社をセレクト。いずれも創業から7年以下、従業員数は50人以上、非上場、そしてシンガポールに本社を置いていることが条件である。
上の表がその結果だが、それらの業種からトレンドの傾向がうっすら見えてくる。「AI」「フィンテック(金融)」「医療テック」「巣ごもり需要」あたりがキーワードだろうか。
本記事では、これらのキーワードを軸に、新型コロナウイルスによる影響を鑑みながら、いくつかのスタートアップの特徴と躍進の背景について探っていきたいと思う。
AIを活用したBNPLプラットフォーム
トップに輝いたAdvance Intelligence Groupは、AIやビッグデータを活用したテックソリューションスタートアップだ。同社の事業には、AI認証技術のAdvance.AIやECマーチャントサービスプラットフォームGinee、そして、BNPL(後払い決済)プラットフォームのAtomeなどがある。
中でも成長著しいのはAtomeである。2019年12月にローンチしたAtomeは、国内外のECサイトと提携し、瞬く間にアジアを代表するBNPLプラットフォームとなった。
提携ブランドはファッション、美容、家庭用品、ライフスタイル、旅行など5000を超え、ユーザーは2000万人以上。事業範囲も拡大していき、現在はシンガポールのほかマレーシア、タイ、インドネシアなど東南アジアや中国本土、香港、ラテンアメリカの12の市場に展開している。
2021年10月には英国の銀行大手スタンダード・チャータードとの10年間の提携を発表。スタンダード・チャータードから5億ドルの融資を受けることも決定している。
コロナ禍ではAmazonはじめオンラインショッピングが売り上げを大きく伸ばした。Atomeのローンチは奇遇にも感染拡大直前であり、パンデミックはむしろ追い風となったと言えるだろう。
投資ブームとロボアドバイザー
ランキングでは金融系スタートアップの活躍が目立った。いずれもテクノロジーを活用したフィンテック企業であり、2位のEndowusと6位のStashAwayはオンライン投資・資産運用プラットフォームである。
先が見えない不安定な情勢の中、少しでも資産を増やしたい・運用したいという投資意欲の高まりが反映された。また、AIや自動化技術を使って投資支援をするロボアドバイザーを使ったサービスも増えており、投資初心者でも比較的安価に安全に運用できることから人気が高まっている。こうした投資人口の増加も背景にありそうだ。
Endowusは初期投資額1000シンガポールドルから始められる、個人投資家向けの資産運用プラットフォーム。
最大の特徴は、現金のほかシンガポールの年金(厚生年金に相当するCPFと個人向け確定拠出型年金に相当するSRF)と連動できる点だ。高齢化の進むシンガポールにおいて、投資家マインドを掴んだサービスであるとも言える。世界25を超える資産運用会社から、100以上の厳選されたファンドに直接アクセスできるところもを魅力のひとつだ。
StashAwayはロボアドバイザーによる投資アプリで、モデリングとアルゴリズムによって判断される。高い利回りが評判となり、2021年に急成長した。StashAwayはシンガポール、マレーシア、タイ、アラブ首長国連邦、香港の個人投資家と認定投資家にサービスを提供している。
クロスボーダーの送金・決済サービス
国際送金サービスのスタートアップも2社ランクインしている。
東南アジアでは近隣国に就労へ出向く人が多く、安い手数料で送金できるサービスは生活に欠かせない存在。また、地続きで小国が集まる同域において、事業のクロスボーダー展開も身近なものだ。そのため企業にとっても、ワンストップで支払いや送金できる金融サービスは必要不可欠であると言える。
5位のAspireは、東南アジアでビジネスを行う起業家や中小企業向けの国際送金・決済サービスを行っている。同社は創業から1年で年間取引額が10億シンガポールドルに達し、これまでに約4150万シンガポールドルの資金調達をしているという。
オンラインビジネスアカウントは月額料金不要でデポジットの最低金額も設定しておらず、すでに1万社以上が登録。新型コロナウイルスの流行により、企業が銀行で口座開設をすることが困難になったことも、ビジネス拡大の後押しとなった。
10位のNiumは、2億ドルの資金調達済みのフィンテックユニコーンであり、送受金サービス対象国は100カ国以上にのぼる。2020年にはクレジットカード会社のVISAからも資金を調達しており、VISAカードでのやり取りも可能になった。2021年9月には英国でバーチャルカード発行を手がけるixarisを買収し、欧米での事業拡大を目指している。
非対面型のオンライン医療サービス
コロナ禍によって非対面型のオンライン診療が一気に広まったが、ランキングもそれが反映された結果となった。
3位のHomageは、高齢者と医療・介護従事者のマッチングプラットフォーム。ケアを必要とする高齢者に対して、症状や持病などを考慮して、本人に適した医療・介護の専門家を引き合わせている。
現在はシンガポール、マレーシア、オーストラリアで運用されており、6000人以上のスペシャリストが登録されている。過去一年でグループ収益は3倍以上に増加し、シンガポールの政府系ファンドTemasek出資のシリーズCでは3000万シンガポールドルを調達した。
ステイホームによる高齢者の体力低下や老化の加速、一人暮らしのお年寄りの孤独死など、さまざまな高齢者問題が露呈した一年であった。Homageはその需要に応えるサービスを提供して大きく成長。シンガポール以外の国での成長率は前年比600%にものぼるという。
Doctor Anywhere(7位)はスマホアプリを介したオンライン診療サービスだ。シンガポールでは国内に8カ所にクリニックを展開しており、対面診療も可能。その他、ベトナム、タイ、マレーシア、フィリピンにもオフィスを開設し、各国の提携医師たちが診療にあたっている。
巣ごもり需要によるビジネス拡大
世界的な巣ごもり需要で、家庭用ゲーム機やオンラインゲームなどゲーム関連の需要が急増した一年だった。
それに派生したのが、4位のSeretlabである。同社は長時間ゲームをしても疲れず、快適性の高いゲーミングチェア販売でシェアを拡大し、販売地域は日本を含む世界60カ国にのぼった。
Seretlabの共同創設者兼CEOで29歳のIan Ang氏は、優秀な起業家に贈られるEY Entrepreneur of the Year 2020 Singaporeを最年少で受賞した。同社の従業員数は現在200人程度だが、今後は100人くらい補強し、商品開発のために5000万シンガポールドルを追加投資する予定だという。
Ninja Van(15位)は、東南アジア全域でサービスを展開している宅配サービスだ。街角に設置している「Ninja Point」で出荷や荷物の受け取りができ、トラッキングや代引きにも対応。便利で小回りの効くサービスでユーザーを増やしている。
いずれのスタートアップも高い技術力を武器に、クロスボーダーな展開をしている点で共通している。ウィズ・コロナが続く中、どのような新しいビジネスが生まれて伸びていくか、今後も目が離せない。
文:矢羽野晶子
企画・編集:岡徳之(Livit)
<参考>
Reuters「StanChart targets buy now, pay later services through fintech tie-up」
Fintech Singapore「Robo Advisors in Singapore: Which One is Right For You?」Yahoo! Finance「Secretlab shows no sign of abating in its quest to make the perfect gaming chair」