アマゾンのベゾス氏が注目する次世代テクノロジー

日本のビジネスパーソンの間でも注目される米テック起業家らの動向。テック起業家らの動きを観察することは、次のテクノロジートレンドを予想する上で役立つ。

アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏らが注目する次世代テクノロジーの1つが「核融合発電」だ。

ベゾス氏、ゲイツ氏ともに、自ら運営する投資会社を通じて核融合スタートアップに資金を投じている。

核融合発電とは、文字通り原子核融合反応を利用した発電方法の一種。原子核分裂反応を利用する既存の原子力発電とは異なり、核分裂の暴走が原理的に生じないこと、高レベルの放射性物質が出にくいことなどのメリットがあり、現在各国で実用化に向けた動きが加速している。

核融合自体、1940年代から研究が始まったものだが、近年のカーボンニュートラルやエネルギー安全保障を強化する動き、またエネルギー需要増・電力不足などの危機的状況などを背景に、米国などでは官民の投資が加速、それに伴い研究開発も加速度的に進展している。また、最近は大手メディアによる報道も増えてきている。

核融合技術をめぐって世界では何が起こっているのか、その最新動向をお伝えしたい。

初の核融合発電は米スタートアップが実現?

核融合関連で注目された直近ニュースの1つとして、ベゾス氏やゲイツ氏が参画するVC「ブレークスルー・エネルギー・ベンチャーズ」などが出資する米核融合スタートアップ「コモンウェルス・フュージョン・システムズ(CFS)」の研究開発動向が挙げられる。

米大手メディアCNBCは2021年9月8日、CFSとマサチューセッツ工科大学(MIT)が共同で実施した核融合発電に必要な新型磁石の実験が成功、核融合の実用化に一歩近づいたと報道した。

核融合発電にはいくつか種類があり、それらは大きく「磁場閉じ込め方式」と「慣性閉じ込め方式」に分類される。実用化の可能性が高いとされるのが磁場閉じ込め方式であり、その中でもトカマク型が最有力候補となっている。トカマクとはドーナツ型の磁場を用い、超高温プラズマを閉じ込める核融合方式の1つだ。

トカマク核融合発電とは、水素原子が衝突・合体し、ヘリウム原子が生成される過程において放出される大量のエネルギーをトカマクが熱として捉え、その熱で蒸気を発生させ、タービンを動かし、発電することをいう。

原子が融合する際に生成されるのは高速運動エネルギーであり、そのままでは核融合炉が損傷してしまう。このエネルギーを強力な磁場でコントロールするために、強力な磁石が必要となるのだ。

CFSとMITが開発した磁石は、想定される負荷に耐えうる強度があるとともに、20テスラという磁力を有する。CFSとMITは、この磁石でトカマクを構築した場合、理論上インプットエネルギーよりアウトプットエネルギーが上回る「net energy」の状態を達成できると主張している。現在、このnet energyを達成した企業、大学、研究機関は皆無で、実現すれば世界初の偉業になるという。

CBInsightのデータによると、CFSはこれまでに2億4900万ドル(約276億円)を調達。米政府もクリーンエネルギー開発に数兆円を投じると見られており、核融合技術開発への官民による投資は今後も増える見込みだ。

CFSの開発現場、「net energy」を目指す(出典:コモンウェルス・フュージョン・システムズWebサイトより)

ベゾス氏だけでなくSpotify創業者も注目するカナダの核融合スタートアップ

CFSに並び注目を集めるのが、カナダのゼネラル・フュージョンだ。

2002年創業の同社、2011年のシリーズBラウンドでベゾス氏の投資会社ベゾス・エクスペディションなどから1950万ドル(約21億円)を調達、また2019年末にもベゾス・エクスペディションなどが参加するシリーズEラウンドで1億ドル(約111億円)を調達、さらには2021年にSpotifyの創業者であるトビアス・ルーク氏からの出資を受けるなど、テックメディア界隈でも度々注目を集める存在となっている。これまでの調達額は、3億ドル(333億円)に上る

現在、ゼネラル・フュージョンは、英国政府の支援を受け同国の原子力発電研究開発ハブであるカルハムに商業型の70%のサイズとなる試験機を建設し、2025年の稼働を計画している。プロジェクト費用は4億ドル(約444億円)に上る。

BBCは2021年6月17日の報道で、英国でのゼネラル・フュージョンの計画は、現在フランス南部で実施されている国際共同プロジェクト「ITER」に対する不満の高まりと民間テクノロジーへの期待の高まりを反映するものであると指摘。

ITERとはInternational Thermonucelar Experimental Reator(国際熱核融合実験炉)の略で、日本、EU、米国、ロシア、インド、中国、韓国が参加する国際開発プロジェクトだ。当初計画では2020年までに最初のプラズマ実験を開始、2023年には本格稼働することになっていたが、各国間の予算調整や技術協力調整などで遅れが生じ、本格始動時期は2035年にずれ込む状況となっている。

BBCが指摘するように国際プロジェクトではなく民間企業への期待が高まっているとすると、今後も資金・人材は民間企業に集まることになり、研究開発も迅速に進むものと思われる。冒頭で紹介したCFSの磁石実験の成功はまさにそのことを示すもの。夢の技術と言われ続けてきた核融合発電、予想よりもはやく実用化されるのかもしれない。

[文] 細谷元(Livit