女性リーダーの国、コロナ感染・死者が少ない理由

コロナ禍において世界各国では、国全体・地方行政など様々なレベルで感染防止・重症化抑制対策が実施されているが、その効果は国・地域ごとに大きく異なっている。

この相違を生み出した要因はどこにあるのか。

要因の1つとして挙げられるのが、対策を率いたのが男性か女性か、国家リーダーの性別の違いだ。いくつかの論文では、コロナ禍の対策では、女性リーダーが指揮をとった方が死亡者が少ないなど、男性リーダーの対策より効果が高いことが示されたのだ。

英リバプール大学の研究者らが194カ国を対象にコロナ対策の効果を分析(2021年1月公開)したところ、女性を元首とする国の方が統計的にパンデミック初期の感染者数・死者数が少なくなる傾向が判明。ロックダウンに踏み切る決断の速さなどが奏功したと分析されている。

女性の国家リーダーを持ち、感染者抑制に成功した国といえば、ジャシンダ・アーダーン首相のニュージーランド、サンナ・マリン首相のフィンランド、蔡英文総統の台湾などが挙げられる。

同論文では、女性リーダーの国ではなぜ早い段階でロックダウンが実行されたのかという点を議論している。その際に参考にされたのが、女性と男性のリスク選好の違いだ。

この「リスク」の定義が人命損失である場合、女性リーダーは男性リーダーよりもリスク回避的になる可能性があると指摘。つまり、女性リーダーの場合、経済損失よりも人命を優先する傾向が強く、人命損失リスクを最小限にするために迅速なロックダウンを行った可能性があるという。

一方、リスクの定義が経済的損失である場合、男性の方がリスク回避的になると説明。この点については、心理学分野で過去に様々な研究が実施され、多くの論文でその傾向が示されている。男性リーダーの国では、ロックダウンによる経済損失を避けるために、ロックダウン時期が遅れ、感染者・死亡者が増加した可能性がある。

また神経科学分野において、女性と男性には他人の感情を感じ取る神経ネットワークに相違があることが分かっており、女性の方が共感する傾向が強く、そのことも女性リーダーと男性リーダーの意思決定に違いをもたらした可能性があると説明している。

米国、女性リーダーの州で高いコロナ対策効果

コロナ禍において女性リーダーの方が対策で高い効果をあげていることは、国全体だけでなく地方レベルでも観察されている。

学術誌Journal of Applied Psychology2020年8月号に掲載された米エッジウッド大学の研究者による論文(2020年8月公開)では、米州政府のコロナ対策効果を男女リーダー別に分析。その結果、州政府のリーダーが女性の場合、コロナによる死亡者数が少なくなる傾向が明らかになった。

また上記リバプール大学の論文と同様、女性リーダーの州は男性リーダーの州に比べ、ロックダウン対応が迅速だったことも判明した。

さらにエッジウッド大学の論文では、各州リーダーの対策ブリーフィングの質的分析を実施し、そこから女性リーダーと男性リーダーの特性をあぶり出している。この分析によると、コロナ対策において女性リーダーの方が、強い共感力と自信をもってブリーフィングしていることが判明したという。

同論文では、危機時には女性の方がリーダーシップを発揮しやすい傾向があるとするこれまでの研究を紹介し、今回の研究結果との整合性を示している。

平常時においては、ある程度未来を予測することが可能であり、合理的な線形思考の意思決定が可能だが、危機時は未来予想が困難となり、論理的・合理的な意思決定では対応できないことが多い。

求められるのは、非線形の思考と創造力、インプロビゼーション力、直感力となる。特に神経科学分野の研究では、女性の方がこうした特性が強いことが判明しているという。

また、危機時の連携という点でも女性リーダーと男性リーダーに違いがあることが分かっている。女性リーダーは、男性リーダーに比べ民主的なリーダーシップを取る傾向がある。これによって、情報共有が進み、多様なアイデアが生まれ、さらにはブレインストーミングや合意形成が促進されやすくなる。

企業でも危機時のリーダーシップ、女性の方が高い傾向

国家運営や地方行政だけでなく、ビジネスにおいても危機時は女性の方が高いリーダーシップを持つことを示す研究もある。

ハーバード・ビジネス・レビュー2020年12月30日に掲載された論文では、パンデミック前とパンデミック中の女性・男性リーダーのリーダーシップ評価の変化を分析

それによると、男性リーダーのパンデミック前のリーダーシップ評価点が49.8ポイント、パンデミック中が51.5ポイントと1.7ポイントの増加だったのに対し、女性リーダーは53.1ポイントから57.2ポイントと4.1ポイント増加。男性リーダーに比べ3倍多い増加となったのだ。

要素別に見ると、イニシアチブ、チームメンバーのモチベーション向上、コラボレーション、チームワークなどの項目で女性リーダーが男性リーダーを大きく上回る結果となっている。

日本を含め世界各地、コロナだけでなく、経済不況や安全保障脅威など危機的状況に直面する国は少なくない。今後、ニュージーランドやフィンランドのような国が増えてくるのかもしれない。

[文] 細谷元(Livit