起業家、モデルなど、さまざまな顔を持つ長谷川ミラさん。2016年、ハワイ版テラスハウス「ALOHA STATE」に出演したことで注目を集め、現在は抜群の知名度と発言力を活かしインフルエンサーとしても活躍している。そんな彼女が、近年、とりわけ力を入れているのが、SDGsやサステナブルに関する情報発信だ。自身のInstagramやYouTubeで積極的に同世代のアクティビストを紹介し、ときには自らゴミの集積場に行ってその様子をレポートしたり、企業のSDGs担当者にインタビューを行ったりすることもあるという。

長谷川さんは様々なメディアに出演し、彼女自身が考えるSDGsマインドを発信している(本人Instagram参照)

「Z世代のSDGsリーダー」「サステナブル領域のトップスピーカー」、そんな風に呼ばれることもある長谷川さんに、SDGsやサステナブルに対する思い、日本と海外の意識の違い、サステナブルな社会の実現に向けて一歩踏み出すためのアドバイスなどについてお聞きした。

ハーフの日本人であるというバックボーンが、社会問題への興味につながった

――なぜサステナブルや社会課題に興味を持つようになったのでしょうか?なにかルーツになるようなエピソードはありますか?

決して「これがきっかけ!」ということではないのですが……。強いて言うなら、ヨーロッパ系南アフリカ人の父と日本人の母の間に生まれたハーフであるというバックボーンが影響しているように思います。私が子どもの頃はまだまだ日本にはハーフの子どもが少なくて。街を歩いたり電車に乗ったりしているだけで、チッと舌打ちをされたり、ヒソヒソと陰口を言われることも少なくありませんでした。

それでも卑屈にならなかったのは、母が、いつもめちゃくちゃ私のことを褒めてくれていたから。心の底から、素直に、ピュアに、「足が長くてうらやましい~」「目が茶色でキラキラしてる~」「ハーフっていいよね~、かわいいよね~!」と褒めまくってくれていたんです(笑)。母のおかげでハーフであることに誇りを持てたし、マイノリティであることを気にせず成長することができた。こういう経験が、私のベースになっているというか、多様性を大切にする気持ちや社会への関心につながっているのかなあと思います。

イギリスでひとり暮らしを始めてみて気付いた、「日英の社会課題意識」の違い

――18歳のとき、イギリスでひとり暮らしを始めたことをきっかけに意識が変わったとお聞きしました。イギリスでどのような経験をされたのでしょうか?

イギリスで生活するようになって驚いたのが、ゴミの分別の仕方が日本とはまったく異なるところ。洋服も分けて捨てなければなりませんでした。

それから、街なかで社会問題や環境問題について話す大人が多いことにびっくりしたこともよく覚えています。いろいろな人が雑談のなかで、ごく当たり前に、ゴミ問題やジェンダー論、政治などについて話しているんですよね。タクシーに乗ったら運転手さんから挨拶がわりに「ブレグジット(イギリスのEUからの離脱問題)についてどう思う?」と質問される、そんな環境でした。

ちなみに、「ブレグジットについて」の質問には、知識がなく答えられなくて……。その場では「う~ん、どうかな」みたいな感じで誤魔化して、あとから猛烈に調べたことを覚えています。それで、きちんと調べてみたら、移民問題や格差問題などいろいろな社会問題と強く関連していることがわかってきて。日本にも影響があると知り、そこで初めて「ああ、私はなにも知らなかったんだなあ」「日本のことだけでなく、イギリスや世界のことを、もっともっと知らなくては」と思いました。

なにか雷に打たれるような象徴的な出来事があったというわけではなくて、イギリスの暮らしのなかで、少しずつ自分の視野が狭いことに気付いていったという感じでしょうか。日常の積み重ねのなかで、徐々に社会について関心を持つようになっていきました。

「テラハの長谷川ミラ」から脱却し、サステナブルな生き方を実現

――その後、イギリスで、ファッションの名門大学として知られるセントラル・セント・マーチンズに入学されました。その頃には既にモデルとして活躍されていましたし、テラスハウスにも出演されていて、例えばタレントとしてやっていく、国内の大学に進学するなどさまざまな選択肢があったのではないかと思います。なぜ、セント・マーチンズへの進学を選んだのでしょう?

「テラスハウスの肩書を超えるには学歴しかない!」と思ったからです。テラハに出たことで一気に知名度が上がり、自分で立ち上げたファッションブランドのポップアップストアにも、びっくりするほど多くの人が詰めかけてくださいました。皆さん、すごい熱量で、「ミラちゃんに会いたかった!」「ミラちゃんに憧れてお店に来ました!」と言ってくださって……。すごく有難いな、嬉しいなと思うと同時に、影響力や責任の大きさのようなものを肌で感じたんですよね。「もっともっと責任を持って皆さんの期待や熱量に応えたい」「テラハの長谷川ミラを超える自分になりたい」、そう思い、一流の大学に入学してしっかり知識と思考力を身に付けようと決意しました。

私の人生って、あまり連続性がないんです。一本の道でつながっているとか、太い幹が育っているとかではなくて、いろんな経験や偶然が点のように散らばっている感じ。あまりこだわりすぎず、とにかく好きなこと・興味のあることをたくさん経験していって、得たものについて常にいろんな角度から考え続け、総合的に判断して、次の動きを決めるという生き方をしているなあと思います。

――なんだか長谷川さんの生き方そのものが、多様かつ軽やかで視野が広く、サステナブルですよね。

自分ではあまり意識したことはありませんが、言われてみれば確かにそうかも。私だけでなく、Z世代やミレニアル世代は、こういう生き方や考え方をしている子が多いかもしれませんね。これだけ複雑な世の中ですから、先々のことを考えたところでわかりません。だったら目の前のことを、誠実に、思い切りやるしかない。その積み重ねやたくさんの点が、いつか重なったりつながったりして、より大きく、カラフルに色づいていくのだと思います。

人を動かすのは情報。未来のための情報を発信していきたい

――経済誌やシンクタンクの調査などで、よく「Z世代やミレニアル世代は利他の心を持った人が多い」「地球や社会のために貢献する意識が強い」と言われています。長谷川さんはどのようにお感じになりますか?

う~ん、少なくとも私は、全然「人のため」とか「社会のため」だとは思っていません。自分がハッピーになりたいだけだし、がっつり稼ぎたいとも思っていますよ(笑)。そもそも、SDGsとかサステナブルって人間のための活動ですよね? 人間が好き勝手やってきて社会や地球がえらいことになっちゃったから、いい加減生き延びるためになんとかしなきゃヤバいでしょ、っていう。そんな綺麗なもんじゃないっていうか、やらざるを得ないっていうか。結構、切羽詰まった生々しい動きだと思うんですよね。

私の周りの子たちもそういう感じで、割とドライに捉えているんじゃないかな。善行とか聖人の活動みたいな感じじゃなく、もっとカジュアルで、もっと当たり前なもの。結局は人の、もっと言えば自分のための活動だと思うし、それでいいのだと思います。

――長谷川さんが力を入れていらっしゃるサステナブルに関する情報発信も、「自分がハッピーになるため」にやっていらっしゃる……?

はい、もちろんです。疑問に思ったこと、純粋に自分が関心を持ったことを、取材して、発信しているだけ。好きなことを思い切りやらせていだいています。また、自分の周囲にジェンダー論を学んでいる友人や、素晴らしい活動をしている友人がたくさんいて、そういう人たちから得た「自分がよいと感じた情報や活動」をもっともっと多くの人に知ってほしいなと思いました。それがたまたまSDGsやサステナブルに関する情報だったというだけ。自分としてはそれほどSDGsやサステナブルという言葉にこだわりはないですね。

私、人を変えるのは情報だと思っているんです。Z世代に素晴らしいアクティビストやアイデアを持った人が多くいるのは、中学時代ぐらいからスマホを使いこなしているからだと思います。多くの情報にアクセスできる環境があり、いろいろなことを知っているから、臆することなく行動ができるんだと思うのですよね。一方で、Z世代・ミレニアル世代の6割は社会問題に対して「行動をしていない」というデータも出ています。行動していない人は、持っている情報が少ない、知らない、多くの情報をしっかりと判断する材料や考え方を持っていないのではないかなと思います。

だからこそ、積極的な情報発信を続けたい。常に取材をし続け、その内容を多くの人に伝えたいと思っています。なんてったって、私が、わからないことだらけのなかで生きていますから。とにかくわからないことに片っ端からアクセスしていって、人に届けて、答えはみんなで探していきたいなあと思っています。

「SDGsウォッシュ」になってもまずは行動を

――多くの情報にアクセスしているからこそ考え付くような、なにか未来につながるようなサステナブルアイデアはお持ちでしょうか?

そ、それは難しい質問ですね……。残念ながらアイデアは全然ありません(笑)。それがあったら苦労はしてませんから! ないから探すための活動をしているんです。

ただ、強いていうなら、もうちょっとジャパニーズスタイルの活動が出てくるといいなとは思っています。例えば、「ヨーロッパにはゴミの集積場をつくるための土地がなく資源も少ないからコンポストがエコの文化が根付くようになった」とか、人種の坩堝と言われるアメリカの場合は人権やLGBTQIAに関する意識が高い」とか。世界各地でお国柄やバックボーンに支えられた特徴的な活動が進んでいるので、なにか日本でも、日本らしいサステナブルアクションが生まれると盛り上がるんじゃないかと思っています。

――Z世代やミレニアル世代はテクノロジーにも明るく協創が得意ですから、テクノロジー×日本の文化×協創で、なにか面白いサステナブルアクションが生まれそうな気もしますね。

はい! 最近は「SDGsウォッシュ」と呼ばれるうわべだけのSDGs活動が問題になっているようですが、行動しないよりは断然いい。企業のSDGsウォッシュは大きな社会的責任や経済活動が伴うため問題だと思いますけれど、個人レベルであれば、にわかでもなんでもいいので、とにかく気軽に、自分の興味や得意を生かして、できることを始めてほしいな。

SDGsやサステナブルって、全然難しいことじゃないと思うんですよね。「どれだけ自分がハッピーでいられるか」とか「人を大切にしよう」とか、そういうことを誠実に考えて行動すれば、それが自ずと、サステナブル的な動きにつながってくるはず。まずは私のYouTubeを見ていただくとかでもいいので(笑)、無理せず、気楽に、一歩踏み出していただけると嬉しいです。

文:秋山 由香(Playce)
写真:西村 克也

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